caloroso
「どうかしたの?響が悩み事なんて」
部屋に戻ると、いつも通りの千百合ちゃんになってて、……あの時の、戸惑ったような声が、聞き間違えだったみたい。まだおかしいままのわたしは、言葉すらうまく作れない。
「うーん、……ぅ……、あのね」
ほっぺた、もう熱い。あったかい紅茶のせいって言い訳も、まだ口をつけてないからできない。喉、乾いてる。ドキドキ、止まんない。一口だけ飲んで喉を潤してから、ぽつぽつと言葉をこぼす。
「わたし、……好きな人、できたかもしれないんだ」
もしかしたら、千百合ちゃんに。……なんて、そこまで言える勇気はないけど。もしかしたら、気づいちゃうかな。感情を読ませるお仕事だから、自然とどういう気持ちとかもわかるようになってるはずで。
「……そうね、恋する女の子って感じだったもの」
「そんなにわかりやすかったかな、わたし……」
部活で会ったときとかは、そこまで様子が変わった気がしなかったんだけどな。今は自分でもおかしくなってて、それじゃあもう、『好き』になった相手も気づかれてるようなもの。お願い、まだ、言わないでいて。
「どうだろ、なんかほわほわしてるなーくらいだったし」
「そうなんだ……、学校じゃあんまり会わないのに」
学校で一緒になるのなんて部活のときくらいだし、お昼も毎日誘うわけじゃない。そんなことに気づかれるほどだったかな。
「たまに見かけたときによ、……それにさ、私ももしかしたら、好きな人、いるかもだから」
「千百合ちゃんもなんだ……、なんか意外かも」
けっこうさらりとしてるとこもあるし、人の嫌なとこばかり見てたはずだから、あんまりそういうのも興味無いかと思ってた。
「そう?私だって人並みにはあると思うわよ?」
「そっか……、そうだよね」
女優さんだから素敵な人に会うことも多いだろうし。出てる作品に恋愛モノだって多いからそういう知識だっていっぱいあるし。そもそも千百合ちゃんだって、わたしと同い年だし。
「……恋バナみたいなの、なんか新鮮ね」
「うん、だね……、千百合ちゃんは、どんな人が好きなの?」
「えー?……そうねぇ……、素直で真っ直ぐで頑張り屋で、私のこと、すごく慕ってくれる人、……かしら」
「そうなんだ……、すっごく素敵な人なんだね」
ねえ、それって。もしそれが自惚れじゃなかったら。……ほっぺ、ほんのり熱くなってくる。千百合ちゃんも、わたしのこと、……ほんのり赤い顔ではにかんでるの、……多分、今のわたしと同じような。