patimento
「もう、どうしたの?固くなってるわよ」
「だよねぇ……、うーん、ストレッチもアップもちゃんとしたはずなんだけどなぁ」
『すき』に気づいてから初めての、二人きりの練習。自分でもわかるくらい声がこわばって、全然上手くいってくれない。部活で一緒だったときは、普通にできてたのに。
「そうじゃなくて、体が緊張してるってことよ。……何か最近あった?」
「うーん、そうかも。……」
「なら、少し休んだほうがいいわね。お部屋、借りていいかしら?」
「うん、分かった」
まだ、ガチガチのままな声、普段通りの千百合ちゃんと比べてるまでもなく、今日は上手くいかない。スタジオで二人きりの距離感で、妙に意識しちゃう。いつもだって何色にもなる声に聞き惚れちゃうけど、今日は、それだけじゃなくなってる。
女優さんだから当たり前だけど、肌とかすごくキレイだし、スタイルだって、同学年で早生まれなんて思えないくらいオトナっぽい。……なんか、友達以上の何かに、なんて考えたときから、考え方の回路まで変わっちゃったみたい。
「いつも私の愚痴聞いてもらってばっかだし、話したいなら聞くわ?」
「ありがと、……千百合ちゃんって、優しいよね」
まだ、言いきれない気持ち。こうだったらいいのにって可能性を無理やりほじくり返してみる。戸惑った声、どういう意味なんだろう。こんなに胸がきゅうって痛いの、どうしてなんだろう。本当なのかな。……千百合ちゃんに、恋してる、とか。キッチンで、いつも通りのお茶会の準備。それすら、いつも通りにできなくなりそうになってる。
「こちらこそよ、……いつもありがとね」
「もう……、憧れの人にいっつもこんなに優しくされたら、勘違いしちゃうよ、……なんて」
「そ、そう?もー……」
「……どうかした?」
「んー、何でもないわ」
顔、見てみたいな。どんな顔、してるのかな。部屋に戻るまでは、その考えも形にはできなくて、もやもやばっかり。ため息を飲み込むので精一杯。そこそこ広い家だから廊下も長いけど、今日はいつもよりずっと部屋が遠く感じる。……だめだな、わたし。
「さてと、……何かあったの?響がこうだと、私も調子狂っちゃうわ」
「うーん、……ちょっと、待ってね」
いつも通り、蜂蜜たっぷりの紅茶とクッキー。ベッドに並んで座って、ふたりだけのお茶会。なんて事ないはずなのに、今日はなぜか、ドキドキが止まらなくなる。優しいのは嬉しいけど、……言えるとは思えないよ、千百合ちゃんのこと、好きになっちゃったかも、なんて。