sfrozato
騒々しいお風呂場だと、声も何もかもごちゃごちゃになる。耳にこびりつく透き通った甘い声も、今は周りのざわめきでかき消されてくれる。静かなところのほうが好きだけれど、今はその騒々しさがありがたかった。長風呂は苦手だけど、つい普段より長く湯舟に浸かっちゃって、のぼせかけた体を脱衣所で冷やす。まだ、一人きりになりたくない。ショートボブだからそこまで時間もかからないのに、必要以上に時間をかけてお手入れして。……でも、いい加減に時間をつぶせなくなってきた。自販機であったかいはちみつレモンを買ってからお部屋に戻る。
「はぁ……」
まだ、部屋は一人のまま。一人になると、また、千百合ちゃんのことが頭から離れなくなる。なんかの病気みたい、こんな風になっちゃって。
なんか七世ちゃんと話をしたときから、変になっちゃってる。今まで誰かにハマったときだって、こんなに夢中になったかもってことないくらい。ずっと、頭の中で千百合ちゃんの声が流れてくるみたい。ずっとこんなふうになってたら、頭の中、どうにかなっちゃうよ。
「どうしちゃったんだろ、わたし……」
ため息ばっか、あの後から、全部おかしくなってる。でも、……これだけは、どんなになっても変わらない、かもしれない。千百合ちゃんの声、聞きたい。想像だけじゃ、足りない。……この気持ちが恋だっていうなら、知識よりもずっと重くて熱いんだって気づかされる。
「ねえ、千百合ちゃん、……」
好き。言葉にすればそれだけのものは、いろんな意味があって、声は、それの方向を教えてくれる。もし、千百合ちゃんがそこにいて、わたしの気持ちをそのまま伝えるとしたら、どんな声になっちゃうんだろう。……知りたい、けど、まだ、知りたくない。でも、このままの気持ちのまま、次に二人で練習したとして、今までみたいにできるとは思えない。千百合ちゃんは優しいから、わたしのこと気にかけてくれるし、その時に何て言えばいいのか、今は分からないままだから。
……すき、だよ。
心の中だけで、続きを声に出してみる。想像の中のわたしの声は、思ったより熱くて、震えてる。なんとなく、それに、たぶんだけど、わかったような、気がする。……この気持ちに名前をつけるなら、……今のわたしが持ってる言葉の中で選ぶとしたら、……『恋』っていうのが、いちばん近い、のかな。自分でも張りまくった予防線の多さにあきれるけど、だって、こんな気持ち、今まで知らないんだもん。
七世ちゃんが戻ってきたら、さすがにお礼言っとかないとな。考えすぎた頭が寝支度すらさぼろうとするのを抑えて、まずははちみつレモンを飲む。少しぬるくなった温度が、考えで煮詰まっちゃってでろでろになった今のわたしにはちょうどいい。