3 王太后の話
阿鼻叫喚の元王太子誕生会の1ヵ月後。
「お久しぶりです、王太后殿下」
王宮の応接室で、王弟殿下が微笑む。
明るい茶の緩やかに波打つ髪と、繊細な顔立ちの柔らかな雰囲気のため若く見え、38歳には見えない。
向かいのソファーに座るのは、黒髪を執務向けにきっちり結い上げ、深緑の装飾の少ない動きやすいドレスに身を包んだ、ストイックな美しさを持つ女性、王太后。彼女も36歳には見えない。まして、18歳の孫がいるようには。
彼女――ヴァイオレットは、15歳で43歳の当時の王の後妻になった。王の息子は20歳と17歳だった。無論、父親が決めた政略結婚であり、そこに彼女の意思はなかった。
彼女が18の時、義理の息子のうち長男にヘルムート、次男にクレアが生まれた。
23歳の時に夫が亡くなり、長男が即位した。
32歳の時長男も亡くなった。
以来4年間、孫の王太子の後見をしてきた。
なかなか波乱万丈の人生である。
長年政争を勝ち抜いてきた者らしく、普段無闇に感情を表情に出さない王太后は、それでも口許を緩めて笑みの形を作り言った。
「おめでとうローレンス。クレアの立太子は無事議会の承認を得た。来月にも式典を行う。――王太子の席が空位のままだと国民の不安を招くから急ぎ足になってしまって、少々規模が小さくなってしまうが、許してほしい」
立太子は次期王を決めるものであり、当然、王太后の独断即決では決められない。誕生会の場では王太后の名のもと「発表」しただけだ。
予め方々に根回しをしていて、可能と手応えがあって行ったことだったが、承認が済んで一息つけた。
「勿体ないお言葉です。――甥の不始末で申し訳ありません」
「私にとっては孫だ」
二人は顔を見合わせて苦く笑う。
ヘルムートは、北の修道院へ送られた。罪を悔い、生涯、国のために神に祈りを捧げるという建前である。
仮にも王太子だった者に厳しすぎる、田舎に蟄居が妥当と言う者も多かったが、王太后は首を振った。
不敬罪や王族への暴力の扇動など、平民なら首が飛ぶ程の罪だ。田舎に蟄居が罰だと言うが、それは平民の基準で言えば「働かず上げ膳据え膳で一生豪華な暮らし」でしかない。
彼は18の年まで税金で何不自由ない暮らしを与えられた者として、それに見合う責務を怠った。税金を返せとまでは言わないまでも、もう、その特権は得られないことは理解すべきだ。
田舎に蟄居させるには、彼一人に今後も膨大な税金を注ぎ込むことになる。
少なくとも、今後、自身の労働で糊口をしのぎ、自分の身の回りのことを自分で行い、清貧に身を慎むという最低限位はすべきだろう。平民はそれ以下のことすらあるのだ。
平民への抑圧を強化する派閥だった彼には受け入れ難いかもしれない。変われるかは自分次第だろう。――変われなかったとしても、彼以外の者が肩代わりする義理はない。
そして、誕生会会場の場では切りがないから簡潔に済ませたが、ヘルムートには色々余罪がある。ろくでなしの仲間達と、色々悪どいことに手を染めていた。
ヘルムートは「親しくしようとした相手を王太后に遠ざけられた」と不満を訴えていたが、これには、彼が格下の貴族令嬢や使用人を手込めにしようとしたのを阻止したことも多数含まれる。
「私はヘルムートを上手く育てられなかった。何とかできなかったのか、と悔いはある。もう少し優しくしていたら、或いは厳しく叱っていたら……分岐点は沢山あった筈だ」
「王太后殿下に同じように慈しまれたクレアは自慢の子に育ちましたよ」
クレアは、ヘルムートが疎んだ教師の教えを真摯に学んだ。人として在るべき姿勢を自らに課し、誇れる自分を築き上げていった。
「――子を育てるのは親や周囲の大人の責任ですが、それでも別の人間である以上、限界はある。ヘルムート自身が、自分の誤りを正してくれる人々の手を、沢山の分岐を無視してあの末路を選んだんです」
王太后は目を伏せる。彼女らしくなく気弱な空気に思えて、王弟ローレンスは気遣うように目を細める。
「王太后殿下は最大限のことをやっていらした。まして、国政という大きなものを担いながら。どちらかというと、父親である兄に、それだけの責任感をもってほしかったですね」
「あぁ、それは同感だな」
少しおどけて言うローレンスに、王太后も苦く笑う。
ヘルムートの母は王宮のメイドだった。そして「王の手がついた」。――それは罪を矮小化する不当な婉曲表現だ。正確には、「パワハラ強姦された」。
強姦は魂の殺人とも言われる。被害者の心に一生残る程の深い傷を与えるものだ。まして、その加害者の子を妊娠することの恐怖とおぞましさは想像を絶する。
ヴァイオレットは当時わずか17歳だったが、男性社会の王宮や法機関が動かないため、自ら奔走した。
被害者女性の救済施設の専門家の女性を代理人に立て、ケアを依頼した。自ら駆けつけたかったが、王族相手では却って心痛を与えてしまう。代理人を通して被害者女性の意思をきいた。最終的には、堕胎は危険なので出産が望ましいが、本人が今後加害者や加害者の子供に接すると心を壊しかねないとのことだった。当然理解できることだった。
子は父親側で引き取り、母親は産辱で亡くなったと伝えることで話し合いがついた。
被害者は実家へ帰った。心がボロボロで働ける状態でないので、生活費と医療費と慰謝料、そしてケアの専門家を定期的に送っている。
やがて働けるようになったからと生活費の辞退はあったが、19年経つ今もフラッシュバックに苦しめられていると専門家からの報告には書かれている。
彼女に「手を付けた」王は、「軽い気持ち」だっただけで、自分の罪の重さを全く理解しなかった。そしてすぐ彼女を忘れ他の女性の尻を追い回した。
「そんな女知らない」「自分達は愛し合っていた」「売女にハニートラップに嵌められた」と、言うことがコロコロ変わった。
ヘルムートによると、息子には「愛し合っていたのに王太后に引き裂かれた」と話し、ばれないよう、王太后には話すなと口止めしたらしい。
人はここまで腐りきることができるのか。
ちなみに王の死因は急性心不全で病死には違いないのだか、勃起誘発剤の過剰摂取が引き金だった。つくづく、下の緩い男だった。
王は仕事を言い訳に子供に無関心で、王太后や使用人に丸投げだった。気が向いた時だけいい顔をしたり、教師を入れ替えたりした。責任は果たさず、たまに自己中心的に愛玩することで、いい親と自認していた。
ヴァイオレットは、こうした王宮の暗部に深く憤り、嘆いた。そして行動した。
王の横暴がまかりとおる腐敗を一掃し、社会制度や法を整えた。王妃や王太后の立場の者が口を出すなと言われても、私が口を出さずに済むよう自分が問題を解決してから言え、とはねのけた。
そして、王宮を牛耳る鋼鉄の烈女と畏れられるまでになった。
畏れられようとした訳ではないが、畏れられても別にいい。
真っ当に生きている人が不当に苦しめられる状況がなくなればそれでいい。
「王太后殿下のご活躍で、王宮も国もより良いものとなりました。臣下として、また一国民として、お礼申し上げます。――私がお力になることができず、申し訳ありませんでした」
ローレンスは頭を下げた。
「仕方ない。王太子クレアの父親として、ようやく出入り禁止を解くことができた。これからの活躍に期待している」
出入り禁止、という言葉にローレンスは苦笑する。
――そう。彼は王弟でありながら、20年以上、王宮に入ることを禁じられていたのだ。
だから、孤軍奮闘する彼女を近くで支えることができなかった。
21年前、ヴァイオレットが当時の王――ローレンスの父の元へ輿入れした。
15歳という幼さから、成人するまで白い結婚とする約定だった。
しかし輿入れの半年後、王は彼女の寝室へ忍び込み彼女を襲った。
ヴァイオレットは必死で――敵の股間を蹴り上げた。
結婚したら、妻は夫の求めに応じる義務がある、というのは迷信である。
婚姻の同意は、性交の同意の白紙委任状ではない。性的同意は毎回必要だ。それを無視するのは性的虐待に過ぎない。
自分の心身の自己決定権は、人権の最たるものなのだから。
王は白目を向いてベッドから転げ落ち、護衛と医師が駆けつける大騒ぎになった。
翌日目を覚ました王は、王妃に危害を加えられたと騒ぎ立てた。
自室に軟禁を命じられたヴァイオレットの元に、更なる騒ぎが届けられた。
ローレンスが、王の居室に殴り込んだという。
尊大な長男に比べ、次男のローレンスは穏やかで思慮深い人だった。
輿入れしてから半年、彼は一番ヴァイオレットを気遣ってくれた。
ローレンスは17歳で、2歳年下の彼女を、妹のように感じ庇護しようとしたのかもしれない。
自分は既婚者だ。けれど、彼が結婚相手だったらよかったのにな、とヴァイオレットは淡い気持ちを抱いていた。勿論、叶わないことは知っていたが。
騒ぎに駆けつけると、ローレンスは既に近衛に取り押さえられていて、普段整えられた髪や服は乱れ、荒い息をして、ギラギラする目で王を睨み付けていた。
王はボコボコになって転がっていた。
ローレンスはヴァイオレットに気付き、泣き出しそうにくしゃりと顔を歪めた。
震える唇を開き、何か言いかけて――そのままうつむいてしまった。そして、近衛に連行されていった。
その日以降、王命でローレンスは離宮で暮らすことになった。
ローレンスは王宮内で王に暴力を振るったとして、王宮内への立ち入りを禁じられた。
翌年、彼が18になり成人するとともに、公爵位を受け臣籍降下し結婚した。
それもまた、王の指示だった。義母に色目を使う不届き者に鎖をつけるためだ、という噂を聞いた。
その2年後、ヴァイオレットが18歳の時、公爵家で子供が生まれた。
祝賀会にヴァイオレットも招待を受けた。
淡い恋心を抱いていた相手。彼女のために王に殴りかかり、王宮を追放された人。
ローレンスが愛する妻を得て子を授かったことに、痛みを感じないと言えば嘘になるが、彼が幸せになってくれたことに強い安堵も感じていた。
しかし彼は、ヴァイオレットに言った。
「実は、私の子ではないのです。」
妻とは契約結婚で、護衛騎士がその子の父親であると。
何故、と問うヴァイオレットに、ローレンスは熱のこもった目を向けて言った。
「私は貴女を愛しています。だから、ほかに妻を迎えることはできなかった」
言葉をなくすヴァイオレットに、ローレンスは寂しげに笑う。
「貴女は王妃で、私の義母です。だから、どうこうしようと思っている訳ではありません。ただ、私が貴女を好きでいることを許してください」
――それから18年。
色々なことがあった。
王は蹴り上げに懲りたのか、可愛いげのない女に興味をなくしたか、二度とヴァイオレットの寝所に来ることはなくなった。
正直、心底ほっとした。
性暴力は、未遂であっても被害者の心に深い傷を残す。ヴァイオレットは男性に触られたり、性愛の対象として見られることに強い苦痛を感じるようになっていたから。
ローレンスとは、王宮以外での夜会や公務で、ごく稀に顔を合わせた。
初めのうちは、熱のこもった目で見られることもあった。しかしやがて、より穏やかで静かな親愛をもって接するようになった。
ヴァイオレットが、後遺症で男性に異性として見られることが苦手になったことを告げた頃からだったので、気遣いだったのかもしれない。いや、流石に熱が冷めたのか。
いずれにせよ、静かな親愛でだけ接してくれる彼の空気はほっとすることができた。男性の中でも、彼には安らいで接することができるようになった。
やがて夫が亡くなり、跡を継いだ息子も亡くなり――孫もこの手で処断することになった。
率直に言って、ヴァイオレットは家庭には恵まれなかった。
けれど、国政に携わり様々な改革をし、人々の理不尽な苦しみを少しでも取り除けるよう社会を前進させることができた。それは大きな喜びだった。
素晴らしい成長を見せてくれたクレアは、未来への希望になった。
そしてローレンスを始め、支えてくれる人々もいた。
彼女の人生は痛みだけではなかった。
「実は、本日お伺いしましたのは、ご相談があってのことです」
過去の感慨に耽っていたヴァイオレットを、ローレンスの声が引き戻す。
「どんなことだろう?」
「実は、離婚しようと考えています」
ヴァイオレットは僅かに目を見開いた。
この夫婦は契約結婚とはいえ、不和はないように見えたのに。
「クレアが王太子となることで、妻は国母として共に王宮に上がることになります。すると、実質の夫である護衛騎士との夫婦の時間が取れなくなってしまうので……」
今まではローレンスの采配する公爵家の中だからこそ、二人は実質的に夫婦として過ごすことができた。王宮ではそうはいかないだろう。
とはいえ、体調が悪いとか理由をつけて二人を公爵家に残すこともできなくはない。その場合、クレアは王宮で気を許せる味方が少なくて苦労することになるが。
一方で、ローレンスは、護衛騎士をずっと日陰者として置くことにも心苦しさがあった。
そこで二人と今後について話し合った結論がこれである。
「妻は対外的には『貴族として嫁ぎ、王太子まで生んだ』ので、今後離婚して護衛騎士と再婚しても、実家も強く言えないでしょう。クレアは王弟の父という後ろ楯が必要なので私の籍に入れたままですが、母子を引き離すつもりはないので、再婚夫婦がクレアと共に王宮に住めるようにして頂けないかと」
想定の斜め上の話に、ヴァイオレットは忙しく頭を巡らす。王宮の通則、慣例、派閥、体面……。
「……懸念は複数あるが、できないことはないと思う。この離婚再婚の流れに、醜聞と受け止める者もいるから、それがクレアの立太子に悪影響を与えない策を考える必要はあるな」
ヴァイオレットは、離婚再婚など個人の自由でいいじゃないかと思う。自分が地獄のような結婚をした経験からも。けれど、反発を持つ層もいる。
「そこで王太后に一肌脱いで頂けないかと」
「何だ?」
「私と結婚して頂けませんか」
ヴァイオレットは口を開けて唖然としてしまった。沈着冷静で鋼鉄の心を持つと言われる王太后が、そんな間の抜けた顔をすることはそうそうあるものではない。
ローレンスは彼女の動揺も折り込み済み、と静かに微笑んで続ける。
「王族直系でないクレアの後ろ楯の強化のため、この国で現在実質的に最強の力を持つ王太后が義理の母となる。私の妻は、娘のために形式上の母の座を譲ったのであり、不貞ありきで離婚したのではない。これなら醜聞ではなく、むしろクレアの立場の強化になります」
「いや、待て……」
ヴァイオレットは頭を抱えた。
確かに、身分の低い者の立場強化のための養子縁組はよくあるので、その変形と言えなくはない。だが……
「その場合ローレンスは、国父として権勢を得るために妻を乗り替えた卑劣漢、と見られるかもしれないぞ」
「そこは別に構いません。王太后殿下こそ、国政の強化のため自身の再婚すら使う冷たい人、と見られてしまって申し訳ないのですが……」
ただ、少なくとも、王太后が横恋慕で夫を奪ったとは言われそうにない。良くも悪くも、鉄の女として知られていて、国のため実利を重んじ私的なことを犠牲にしかねないと世に認識されている。
「いや……しかしローレンスはそれでいいのか? 形だけとはいえ、私と結婚だぞ?」
この私と。鋼鉄の烈女と言われ恐れられる王太后と。
「勿論。貴女は? 私と結婚するのは嫌ですか?」
「王太后殿下」という呼び方が、「貴女」に変わった。
ローレンスが、静かに、真っ直ぐヴァイオレットの目を見つめる。いつも通り穏やかでありながら、その奥に熱が籠っているのが見え隠れした。
――今まで、その熱を隠してくれていたのだろうか。ヴァイオレットが、異性からの熱を向けられることで辛い思いをしないように。
「前にもお伝えしました通り、私は貴女を愛しています。昔からずっと。だから、貴女と結婚できるなら、それは私の幸せです。貴女が望むなら、形だけでも構わない。貴女に辛い思いをさせない形で、貴女の一番傍にいて、貴女を支えることができるなら、それは私の幸せです。」
ヴァイオレットは、膝の上の手を握りしめた。
男性から異性として熱を向けられるのは未だに苦手で、辛くなってしまう。今も、怯んでしまう感覚はある――けれど、辛さは感じない。
それは、ローレンスだからだ。
彼は20年近く、彼女に苦しみを与えないよう細心の注意を払い、負担にならない距離感で親愛だけを注ぎ、信頼関係を築き上げてくれたからだ。
心の奥底から、温かいものが沸き上がってくる。
「私は17の時、一時の暴力の衝動に身を任せて王宮を追い出され、貴女を近くで守ることもできなくなってしまいました。それを何度悔いたことか。別のやり方であの男を叩きのめして、貴女を守る方法があったかもしれないのに。20年以上、遠回りしてしまいました。貴女を支える権利を下さい、ヴァイオレット」
ヴァイオレットの中から熱いものがこみあげて、目から涙を伴い溢れ落ちた。
あとからあとから溢れていく滴に、ローレンスが慌てたような顔をする。
鋼鉄の烈女の王太后が涙を溢すなんて、世の人が見たら空から槍が降るかと仰天するだろうと思うと、笑いが込み上げてきた。
濡れた頬にその笑みを浮かべたまま、ヴァイオレットは言った。
「ありがとう、ローレンス。私も――貴方を愛しています」
15の時からずっと、心の奥底にしまい込んでいた気持ちを、ヴァイオレットは初めて言葉にした。
澄み渡った空に、鐘の音が響く。
この国の立太子の式典である。
先日、ある騒動の末、前王太子が廃され、新しい王太子が立った。
王太子は、金にも輝くシャンパンゴールドのドレスに、精緻な刺繍を施したクリーム色のガウンを羽織っている。
王杓を彼女の頭上にかざし儀式を行うのは王太后。壮麗なワインレッドのドレスに、王家の者が纏う重厚な赤いベルベットのガウンを羽織っている。
王太子の父である王弟殿下とその妻が笑みを浮かべて見守っている。その隣の護衛騎士も、同じように温かく見守っている。
王太子は王太后から受け取った王杓を両手で掲げ持った後、力強く振り天に向かって突き上げた。
この国を、天に、未来に向かって導いていくという誓いだ。
辺りは大きな拍手に包まれた。
読んでくださり、ありがとうございました!
胸糞エピソードが多くてお辛かったかもしれません。お疲れ様でしたm(_ _)m
ラノベを読んでいると、王太后が「都合のいい記号的悪役」として使われてることがとにかく多くて、引っ掛かっていまして…。
思い付いて書き上げるのに2日位で、勢いで書きました。
「王太后応援企画」です(笑)。
自分が悪役令嬢物や婚約破棄物のテンプレを使った話を書くとは、書く直前まで思いもしませんでした(笑)。
クレアのラブを期待した方、申し訳ありません。彼女は流石に「当面、男はもういいや…」だと思うので、暫く休んで、自然に考えられるようになったら考えればいいよね、と労いたい気分です。
今後、立場や血統に縛られず、自力で自分らしい未来も伴侶も選びとっていくと思うので、枠にはめず未来に向かって開放している感じに書きました。
まだまだ18歳。無数の可能性が広がっています。
ラストはまだ主人公達の再婚前です。流石に立太子式典前の1ヶ月で離婚再婚してられないので…。でもちゃんと離婚再婚はします。ヴァイオレットが「だが、断る!」とやったというオチはありません(笑)。
ラストは別Ver.もちょっと考えました。
5年後ヴァイオレット達に子供が生まれ、クレアに子供ができたら年回りが合うし結婚させるのもいいかも、という会話で終わる、と。
これだと、
(1)性暴力被害者が性的接触ができる程回復
(2)クレアより王族直系に近い血脈が王直系に戻る
ので、「座りがいい」のですが…。
それを「座りがいい」と感じる価値観の同調圧力のメッセージになってしまうことに、大変抵抗がありました。
性暴力被害者は、苦痛なく性的接触ができる程回復しないことはよくあります。
周囲にとっては回復してくれれば「座りがいい」ので、無邪気にそう望んでしまいがちです。
けれどそれは裏返しに、「回復しないお前は心が狭い、努力が足りない」と、回復しない被害者を責める同調圧力にもなります。
また、性暴力の残酷性や重さを軽視する暴力にもなります。
現在の日本創作界は、安易に性暴力が描かれ、それが「ちょっとしたスパイス」として軽く描かれることに抵抗があって…。
被害者はある程度回復はみられても、性的接触や出産までは描かないことを選びました。
また、本作に限らないのですが、私の作品では「結婚」「出産」が「誰もが共有する価値観」や「幸せのゴール」という扱いを避けています。そういう同調圧力はきついと思うので。
本作も、当初の案では再婚はなく、ヒーローは離婚しないままでした(苦笑)。
けれど、ヒーローヒロインとも歪んだ結婚をしているので、そこから解放するという意味で再婚するラストにしています。
その分せめて、と出産は描いていません(笑)
クレアとヴァイオレットの子の結婚をほのめかす、というラストを避けたのは、その理由もありました。
それに、周囲の圧力で強いられる歪んだ結婚・婚約が3つも出てくるのに、主人公達が子には同様の圧力をかけることを望む、という「呪いの再生産」をするのもホラーだな、と…。
平民の血を蔑むなと再三でてくるのに、血統主義に回帰するのも「結局それ?!」ですし。
いつもの私の作品と大分違った感じの作品ですが、楽しんで頂けましたら幸いです。
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