今年こそは大掃除をしようと思うけれど、なかなか進まない所に貴族の坊ちゃんが訪ねてきた。
汚部屋表現ですが、有機物系ではありません。
物が溢れている倉庫系です。
虫とかも出ません。
ふわっとファンタジーです。
年末なので、掃除をテーマに書いてみました。
私は、ビビアン・ラズベリー。
田舎の貧乏男爵ラズベリー家の長女16歳だ。
ピンクブロンドの髪にピンクゴールドの目のそこそこの顔立ちをしている。
アピールポイントは、そこそこの威力の光魔法と火魔法が使える事。
さて、魔法王国トリアノンの男爵家という貴族ではあるものの、領地も狭いし、領民も狭いし、なのに屋敷だけは無駄に広いしで、貧乏という以外に特筆すべき事項はない。
もちろん、領民には最低限の不自由をさせないようにお父様とお母様は領地経営に頑張っているし、兄は領地を継ぐべく跡継ぎになるための勉強を頑張っている。
私はというと、ちょっとした労働と引き換えに貴族としての教育を受けられる学校を13歳で卒業した後は、領地に引きこもっている。
なんせ社交をするお金もないし。
前述したように特にこれといった才能もない。
魔法は貴族なら使えて当たり前だしね。
兄のお下がりを着て、ウチの領地に出るモンスターを討伐して回ったりして戦利品を売ったり配ったり、ウチの領地に2つあるダンジョンに定期的に潜ってモンスターを間引きしている。
領地の冒険者ギルドに登録して、冒険者として頑張っている次第だ。
令嬢が冒険者なんてと思われることは百も承知だけれど、先立つものがないのがしょうがないし、私も私で冒険者として活動するのはやりがいがあって楽しい。
結構、モンスターを売って頑張っているんだけれども、私一人の頑張りでは限界がある。
時折、モンスター討伐の為、近くの貴族子息と連携して討伐に当たることもあるけれど、モンスターで一色の日々で、心ときめくことは何もない。
ーーー……と、
「そろそろ現実逃避はやめるかな」
私は雑然とした自分の部屋、いや正直に言おう『汚部屋』を見た。
一応、有機物のゴミはない。それは最低限貧乏でも貴族だから雇っているメイドが捨ててくれているからだ。
有機物以外はもちろん自分で片付けることになっている。
今日こそは片付けなくちゃ。
もう明後日から新年だし。
新しい気持ちで新年を迎えるために、やるんだ私。
……だけど、色々ものが多すぎる。
貧乏のせいにしたくはないのだけれど、有機物以外はなるべく捨てないで色々取っといてしまう。
例えば、これだ!
ありとあらゆるところに、本棚からはみ出した古い魔法書が山積みになっている。
私は、魔法書を苦労して一つにまとめた。
本がマウンテンになった…………。
……う、うん。
この山になった本はどうしたらいいのか分からないから、次は文房具を片付けようかな。
そうそう、文房具!
いつもペンがどこ行ったか分からなくて、新しい安いペンを買っちゃったり、冒険者ギルドで時々無料で貰えるペンを使ったりしている。
でもここで、文房具をちゃんと整理できれば快適な生活が送れる……はず。
私は苦労して、机や床や棚に散らばっている文房具を集めた。
メジャーって文房具だっけ? まあ、いいや。ここに寄せよう。
あれ、私はペンを何本持っているんだ?
「あっ、この金色のペン軸のペン懐かしー!」
モンスター討伐の時、いつも協力してくれる貴族の坊ちゃんが、
「いつも適当なペンを使っていないで、このペンを使いなさい」
ってくれたんだよね。懐かしい。
大事にはしていたんだけど、大事にしている分、無くさないようにと思って仕舞ったらどこにしまったのか思い出せなくなったけど、こんな棚の隙間に挟まっているとは。
両隣がお値段高い魔法書だから大事だしここなら忘れないと思ったんだっけ?
私は今度こそ無くさないようにとペンを胸ポケットに入れた。
うん? なんで貴族令嬢の服に胸ポケットがあるのかって?
今日も、モンスター狩りに行く時と同じく、兄の服着てるからだよ。
動きやすいし。
「よしよし、これでよし。えーと? で文房具文房具……なかなか綺麗にならないなぁ」
始めたばっかりではあるが、なかなか片付かない部屋に溜息をついた。
……コンコン!
「うん?」
「アルベルト・フォン・ヘルシュタインです。先ぶれの手紙は出したのですが、あなた本人からの返事はありませんでした。お話したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「おお? 今ちょうど思い出してた貴族の坊ちゃんだね。いいよ、入って入って。ごめん、手紙はきっと……その辺に……あるかも……ごめん」
私の尻すぼみになる返答を聞くや否や、貴族の坊ちゃんによって部屋のドアが開かれた。
現れた坊ちゃんは、今日も薄茶の髪が綺麗にショートカットにセットされており、薄い茶色の目には高そうな銀フレームの眼鏡がかけられている。
今日も坊ちゃんは一分の隙もない。
「こんにちわ。これは手土産のチョコレートです。私の名前は坊ちゃんではありません。アルベルトと呼んでください」
「チョコありがとう。いやー、伯爵家の跡継ぎの人を名前呼びは無礼だよね。まあ、私自身がもう無礼なんだけどさ」
ちゃんとアルベルト坊ちゃんはドアを少し開けたまま入室してくる。
そうだよね、私みたいな者(貧乏男爵令嬢)と締め切った部屋で過ごしたってなったら大変な事になっちゃうものね。
アルベルト坊ちゃんは持っていた二つの包みの内、小さいほうの包みを渡してきた。
もう一つの方は細長い棒状のものがキラキラしたオーロラの包装紙に包まれている。
……何か気になるもの持ってるね。
「それはそうと、今日はあなたとゆっくり話したくて来ました。ああ、そのペン、家では使ってくれているのですね。ありがとう」
「もちろん。重宝してるよ」
嘘は言ってない。ついさっき重宝し始めたところだ。
キラキラしたペンで胸ポケットに差すとかっこいい、うん。
せっかく『汚部屋』を訪問してくれたアルベルト坊ちゃんには座ってもらいたいところだけれど、私の部屋の唯一の椅子には死ぬほど服がかかっている。ちょっとやそっとではどかせそうにない。
ベッドは一応隙間は空いているけれど、私が普段寝ている所なんてアルベルト坊ちゃんは嫌だろう。
「ラズベリー嬢がよければ、話は立ちながらでも進めてもいいでしょうか?」
「……おお? もちろん。ありがとう」
私の彷徨う視線で察したのかアルベルト坊ちゃんは、私の物が積みあがった部屋をぐるっと見回した後、改めて口を開いた。
今までになく真剣な顔をしている。
「前も言いましたが、ラズベリー嬢に婚約を申し込みたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……え?! いや、無理だよ。伯爵夫人は無い。絶対に無理」
いきなりそんな話だとは思わなかった。前にも……って言われたっけ?
私はワタワタと目の前で手を振る。
無理無理、絶対に無理だ。
そうこうしている内にアルベルト坊ちゃんは積みあがっていた私の本を種類別に棚においた。
スパッと置いたにしては本はベストなポジションにしっくりと収まっている。
アルベルト坊ちゃんの横顔が赤い。
……そうか、照れているのか。
「別に社交はいりません。私と結婚して、今まで通り冒険者をやるか、なんでしたら、領地でゆっくりしていて頂ければ」
「私なんてこの通り、言葉遣いも知らない。剣と魔法で冒険に明け暮れるだけの貴族令嬢としては失格ものだし」
「この魔法王国において、貴族が魔法を使って民に貢献するのは珍しい話ではありません。もちろん、私はそれだから申し込もうとしているわけではありませんが、ラズベリー嬢の評判はとても良いですよ」
……そうなんだ、何だか照れる。
そしてアルベルト坊ちゃんは、そう話しながらまた今度は床に落ちていた服を、部屋の隅の洗濯物を入れる籠を見分けてそこに放り込んだ。
そして流れるように服の下に落ちていた羽ペンを机のペン立てにさした。
更にはその後、これまた床に散らばっていた私的にはあまり使わない小剣を壁の武器掛けの一番端にかけてくれた。
「なんだかさっきから片付けてくれてありがとう。良い感じで片付けるね?」
「そうですか、それなら良かった。婚約を受け入れてくれたら、この位いくらでも片付けますよ?」
うーん、心が揺れる素敵な提案だ。
……いやいや、だめだめ。
アルベルト坊ちゃんは、そういいながら主に床に落ちているものを拾ってどんどん手際よく片付けていく。
一緒に冒険に出ているときも色々討伐を良い感じで手伝ってくれるから気づいてたけど、結構面倒見のいいやつなんだな。
若干私の心は、私の部屋を片付けてくれると言うアルベルト坊ちゃんの婚約の申し込みを受け入れる方に心が傾いていく。
だって、見る見るうちに部屋が片付いていくんだ。
……そしてアルベルト坊ちゃんは、しばらくは部屋を片付け続け、部屋の床の3分の2くらいが見えるようになった。
ゴミはゴミで、どこからか袋を見つけて器用にまとめて、ドアの外を通りかかったメイドに言いつけて持って行ってもらっていた。
もちろん、ゴミは捨てていい物かどうかちゃんと私に確認をとってくれている。
うーん、イケメンだけじゃなく、掃除もできるなんて……というか伯爵令息に掃除なんてさせるの私くらいなのでは……?
私? 私は時々アルベルト坊ちゃんに質問されたことに答えてるだけ。
ダメな人間でごめんなさい。素直に謝っとくね。
「このぐらいでいいですね」
「え、何が?」
アルベルト坊ちゃんは、もう一つの持っていた細長い包みを捧げ持って跪いた。
「あなたのその伝説の戦姫のような勇ましくて美しい所、民を思いやるところ、少しいい加減な所、付き合いづらい私に砕けて接してくれるところ、どんな境遇でも一生懸命自分のやれることをやっている健気な心が好きです。これからは私があなたの力になるとお約束しますので私と婚約してください。そしてゆくゆくは私と結婚してください」
私をまっすぐに見て、顔を真っ赤にしながらアルベルト坊ちゃんが真摯な言葉をくれた。
私はそんな恋愛めいたこと、一度も言われたことがないので、びっくりして顔が熱くなってくる。
「え……本気?」
「本気です。あなたと婚約したい。好きです」
アルベルト坊ちゃんは小さく『このぐらいストレートに言えば伝わりましたか』と呟いている。
え、もしかして今までも何か言ってくれていたけど私が気づかなかったのだろうか。
「開けてください。私の求婚を受け入れてくれなくても、この辺りの治安に多大に貢献してくださっているラズベリー嬢に差し上げます」
私はその包みを受け取って、開けると、中には驚くほど軽い長剣が入っていた。
飾り彫りが施された綺麗な鞘に入っている。
試しに抜いてみると、黄金色の刀身が男爵家の安い照明にも華麗にきらめいた。
これはまさか……、
「オリハルコン?! いや、こんな高価なもの貰えない」
結構スリムな長剣だけれど、使われているオリハルコンの量を考えたら目玉が飛び出てどこかに行方不明になったままになりそうな額だと思う。
……でも、この長剣使ってみたい。
魔法を撃ちながら切りかかるとき、安い剣だとすぐボロボロになっちゃって困っていたんだ。
この剣ならモンスターへの攻撃で新しいアプローチを試せそうだ。
私は剣が欲しすぎてほぼよだれを垂らしそうになりながら、美しい刀身を見詰めた。
「ラズベリー嬢、好きです。婚約してください」
「あ…………坊ちゃん」
「アルベルトと呼んでください」
「あ、アルベルト……」
オリハルコンの剣の煌めきの向こうに、アルベルトの綺麗な笑顔が見える。
剣が光っているのか、それともアルベルトが光っているのか……。
私は、片付いた部屋の真ん中で、アルベルトの求婚に頷いた。
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