プロローグ
俺の名前は朝霧亮輔。どこにでもいる高校一年生だ。と言っても、高校進学を機に上京してきたおのぼりさんで、しかも高校デビューに失敗した負け組み。陰キャでボッチが確定し、今はこうして教室の隅、文化祭の出し物に決まったクラス劇『ロミオとジュリエット』の配役が決まっていくのを、他人事のように眺めていた。
「じゃあ、ジュリエット役は満場一致で皇さんで決まり!」
文化祭実行委員の女子生徒――確か名前は塚本さんだったはず――が、声高らかに言う。満場一致と言っても、俺はその中に入っていない。この場合の満場と言うのはクラスの中でも友達の多い、いわゆる陽キャの生徒達のことだ。俺と同じような陰キャ勢は適当に裏方に回ることが初めから決まっているのだろう。そもそも陽キャでもなければ、文化祭の出し物でクラス劇をやろうなんて言い出さないだろうし。それがこの世の常だと言わんばかりに、陰キャ達は立場的に追いやられていく。当然、陰キャの一人である俺も、この場では発言権などないに等しかった。
「それじゃあ次にロミオ役だけど――」
「あ、ちょっといいかな」
皇さんが塚本さんの言葉を遮るように言う。皇さんはあの皇財閥のご令嬢だから、クラス内での発言権はトップ。夏休み明けから転校してきたとは思えないほどの速度で、このクラスのヒエラルキーの頂点に君臨していた。
皇琴音。先にも挙げたが、皇財閥のご令嬢だ。俺も夏休みの終わり頃に出会ったばかりなので、まだまだわからないことも多い。どういう訳だか夏休み明けにいきなり名門である夢ヶ丘女学院から転校してきたのだが、お金持ちパワーなのか彼女の人柄故なのか、あっという間にクラス中の人気を集めて今に至る。
「ロミオ役は亮輔君がいいな~」
そうでなくても彼女は目立つ。何より顔がいい。可愛いと言うよりは美人系。やや長めの前髪から覗くツリ目がちでぱっちりとした目元。すっきりとした鼻筋。唇はリップを塗っているのかいつも艶々だ。手入れの行き届いた髪はサラツヤボブヘア。身長は女子としてはやや高めと言ったところか。世界トップクラスのモデルも裸足で逃げ出すほどのスタイルの持ち主でもある。これで目立つなと言う方が無理があるだろう。
「え?」
塚本さんの驚きの声を皮切りに、クラスの視線が俺に集まった。
「ん?」
完全に「我関せず」でいた俺は、何事かと周囲を見渡す。これほどまでに視線を集めたのは、夏休みが明けてからこれで何度目になるだろう。
当然他の女子から反対の意見が上がる。
「え~、ロミオ役は隼人君がいいよ~」
「そうそう。隼人君の方がかっこいいし」
「俺はどっちでもいいけど、肝心の皇姫がな~」
輝崎隼人。俺の数少ない友人の一人で誰もが認めるイケメンだ。高校一年にして身長は一八○センチメートル越え。サッカー部に所属しており、一年生ながらレギュラー入りしている我が校のホープで、更に成績優秀。というのが彼の一般的な評価である。実はオタク趣味が高じて女性キャラのコスプレをするのが趣味なのだが、これは俺だけが知る彼の秘密だ。
対する俺は身長一七一センチ。顔は万人並。成績も普通。隼人とは比べるまでもない。ただの凡人だ。
「亮輔君がロミオ役じゃないなら、私はジュリエット役を降りるよ」
その一声にクラス内がざわつく。
何故皇さんが、そこまで俺に固執するのか。ことの発端は、今から少し前。夏休み終盤での出来事である。
この作品は「第11回ネット小説大賞」用に投稿しています。
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