92.女性隊員
「………それは……昔、女性隊員に襲われた隊長がいて。」
「は?」
女性隊員に襲われる?
え?隊長って清くなきゃダメなんじゃないの!?
「…それはまずいんじゃないの?」
「うん、まずい。かなりまずい。
隊長は媚薬を盛られた上で夜這いをかけられたらしくて。
隊長の印は失うし、その隊長は貴族の婚約者もいたしで。」
「えぇぇ。それはすっごくまずいね。
媚薬使ってって、完全に犯罪だよね?」
「ああ。その女性隊員は平民出身で、隊長は高位貴族の出身だったんだ。
神官宮に入った者は地位関係なく交流するから、舞い上がってしまったらしい。
今まで会こともできないような貴族だった隊長と、毎日のように会話できることで。」
「あぁ、好きになっちゃったんだ…。」
あこがれのアイドルと一緒に仕事できるようになって、
もしかしたら恋人になってもらえるかもって。
思う気持ちはわからなくもないけど、それで媚薬盛って夜這いはダメでしょ。
一夜だけでもって思ったのかもしれないけど、
隊員なら隊長が清くなきゃダメだってわかっていたはずだし。
思いつめたにしても、しちゃダメだってわかってしたんだよね。
「その女性隊員の行動は、隊長を汚す行為で重罪になる。
すぐにその女性隊員は処刑された。
隊長と恋仲でそういうことになったのならまだ良かったんだがな。
気持ちが伴う行為ならば、罪に問われることは無かっただろう。
だけど、その隊長にはそんな気は一切なかった。
その隊長は一年間勤めたら婚約者と結婚する予定だったそうだ。
まぁ、いろいろと処理が終わった後は婚約者と結婚したみたいだけどね。
でもその件で問題が浮き彫りになったわけだ。
隊長印が消える可能性があるのに女性を神官宮に置くことはできない。
それで女性隊員は王都の神官宮には呼ばないことになった。」
「あぁ…それは、仕方ないかも。
隊長が代わるってことは、その対の聖女はもう戻ってこれないんだもんね。
しかも媚薬?この世界はそんなものがあるの?」
「ある。それ以降、隊長の仕事の一つに料理が追加された。
神官宮での食事は神官宮の中で作られたものだけ。
隊長はできる限り自分で料理できるようになっておくこと、ってね。
神官宮の中にいる間なら隊員たちを信用して食べるけど、
こうして遠征に出る時は必ず自分で作らなきゃいけない。」
「だからキリルもカインさんも料理が上手だったんだ!」
さっき食べたサンドイッチとスープが美味しかった理由がわかる。
遠征中は自分で作らなきゃいけないのなら、料理も覚えるよね。
カインさんが王子様なのにって思ったけど、隊長なら出来なきゃダメだったんだ。
「そういうこと。
遠征中は俺とカイン兄さんが作った食事だけになるけど、ごめんね。」
「ううん、二人の食事は美味しいよ!
そういう理由なら、私も手伝うね。」
「ああ。ユウリの作るご飯も食べたいから期待しているよ。」
そういうことなら私がご飯を作る時もあるかな。
料理が上手なわけではないけど、二人にだけ任せるのは申し訳ない。
そっか。今まで神官宮で食べてた美味しい食事は、男性の隊員が作ってくれていたんだ…。
「あれ?でも女性の隊員って、どうなったの?」
その女性隊員以外の人って辞めさせられたのかな。
一人のしたことで全員辞めさせられたのだとしたら…つらいな。
「今も女性隊員はいるよ。
ただ、俺がいるような場所には配置されない。
女性隊員がいるのは衣装部と経理部とあとは他国に神剣を輸送する部隊がある。」
「衣装って、この服とか作るところだよね。
経理部もわかるけど、他国に輸送するのが女性隊員の仕事なの?」
剣を輸送するために他国に馬車で行くって、危険なんじゃないのかな。
それが女性隊員の仕事だって言われても、ちょっと想像できない。
「男性隊員は魔獣の討伐とかの仕事がある。
それに、女性隊員でも剣や魔術が得意な人だって多い。
そういう人は衣装部や経理部に行くのを嫌がるんだよね。
だから、他国への輸送を任せているんだ。」
「あぁ、そういうのが得意な人ならわかる。
なるほどね。」
「地方を回っているうちに会う機会はあるかもしれない。
だけど、ユウリは近寄らないように。」
「ん?ダメなんだ?」
男性隊員とも距離をとって交流しているけど、女性隊員もなんだ。
理由はわからないけど、キリルが真剣な顔になっているから、
ちゃんと理由があるんだろうな。




