89.旅の楽しみ
美里と二人でこの不思議な空間の中を探検することになり、
リビングから続いているドアを開けるとまずはベッドルームがあった。
ここも神官宮の私室と同じくらいの広さで、
いつも寝ているベッドと同じ大きさのベッドが置いてある。
もしかしたら神官宮の私室と同じ家具がそろえてあるのかもしれない。
旅先でもこのベッドで眠れるとは思っていなかったけれど、
これなら枕が変わって眠れないとかそういうこともなさそう。
ベッドルームには浴室とトイレがついていて、奥には衣裳部屋があった。
どの部屋を見ても広くて、とても馬車の中にあるとは思えない。
「悠里、こっちにもベッドルームあるよ~。」
私が浴室を見ている間に衣装部屋に行った美里に呼ばれて奥に行くと、
衣裳部屋は共用のようで二つのベッドルームから入れるようになっていた。
その衣装部屋には私たちの服とキリルたちの服が並べられている。
聖女のお出かけ用白いワンピースも二十着以上はありそうだ。
「ホントだ。衣裳部屋でベッドルームがつながっているんだね。
そっか。私たちと美里たちで二つベッドルームが必要だからだね。」
「あぁ、なるほど。旅の間は四人で共同生活みたいな感じになるんだ。
…言っちゃダメかもしれないけど、楽しそう。」
「うん、言っちゃダメだけど。」
思わず目を合わせてニヤッとしてしまう。
ベッドルームから出て、リビングに戻り反対側の部屋に行くと、
使いやすそうなキッチンと収納部屋があった。
収納部屋には食料がたくさん積み込んであって、
キッチンではキリルとカインさんがサンドイッチを作っているところだった。
キリルと一緒に料理する時に手際良いと思っていたけど、カインさんも同じくらい手際よさそうだった。
…カインさん、第一王子なのに料理できるんだななんて思ってしまう。
この世界の貴族は料理もたしなみの一つなのだろうか。
思わず見とれていたけれど、手伝いもせずに見ているのに気が付いた。
「何か手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。もうすぐできるから、二人はリビングで待っていて。」
「そっか。じゃあ、向こうに行ってるね。」
美里とソファに座って待っていたら、トレイに朝食をのせて二人が戻ってきた。
「あ、そっちじゃなくて、こっちで食べよう。」
「りょうかーい。」
窓際に置いてあるダイニングテーブルのほうに運んでいるのを見て、そちらへと移動する。
「食事をする時はこっちのテーブルなの?」
「そういうわけじゃないんだけど、この小窓のカーテンを開けてみて?」
「これ?」
ダイニングテーブルが置かれている横の壁には小窓がついていて、カーテンは閉められていた。
美里と二人で両側にカーテンを開けると、窓の外の景色は動いていた。
「え?」
「え?動いている?」
「そう、馬車から見える景色がそのままこの窓から見える。
直接つながっているわけじゃないから、外からこの部屋は見えない。
ほら。旅行気分を味わいたいんでしょ?
窓の外を見ながら朝ごはんにしようよ。」
「え、すごい。」
「いいね!旅って感じする!」
思わず美里と二人ではしゃいでしまったけれど、
そんな私たちを見て、キリルとカインさんは怒ることも無く笑っている。
馬車に乗る前も不思議な感じでにこにこしていたけど、
もしかしたら私たちが喜ぶと思って内緒にしていたのかもしれない。




