67.国王からの書簡
「隊長、また書簡が届いています。王宮からです。」
「今度は何だ?また謝罪のためのお茶会とかか?
王妃も本当に懲りないな…。」
「いいえ、今回は王妃ではなく国王からです。」
「国王から?」
夜会の後、王妃からしつこくお茶会の招待状が届いていた。
謝罪のためにお茶会に呼びたいという名目ではあったが、
王妃であるわたくしが呼んであげるのだから許しなさい、と言った内容で、
とうていユウリたちに見せられるものではなかった。
まぁ、まともに謝罪するつもりがあったとしても、
聖女が貴族とお茶会なんてするようなことは通常ありえない。
そのことを知らないという時点で、まだ学んでいないのだとわかるのだが。
国王からの書簡を開けて確認してみて、そのまま投げ捨てたい衝動にかられる。
無言で少し離れていたカイン兄さんを手招きして呼ぶと、
怪訝な顔でこちらへと来た。
「キリル、何かあったか?すごい顔しているぞ?」
「……これ、見てくれる?国王からなんだけど。」
「………これ、本気で言ってるのか?」
「本気じゃなかったら、王妃がまた何か企んだんだろうね。
明日、一度王宮へ行ってくる。
いい加減はっきりさせて来るよ。
このままだと遠征に支障が出そうだ。
俺がいない間、ジェシカも呼ぶけどユウリを頼んだよ。」
「あぁ、わかった。
ここで三人で待っていればいいだろう?
ジェシカは学園の卒業前で来れないかもしれない。」
「あぁ、そうか。もうそんな時期なのか。
じゃあ、三人で待ってて。さっさと片付けてくるから。」
「キリル、あっちのほうは頼んだ。すまないな。」
カイン兄さんのせいではないが、言いたくなる気持ちはわかる。
兄さんがあの国王の子だとは思いたくないが。
父上の話だと国王は昔からああだったそうだし。
そのせいで国王を支えるために伯母上が王妃になったという話だった。
亡くなった時は俺はまだ四歳だったけれど、とても凛々しい王妃様だったと覚えている。
父上と王妃だった伯母上はとても仲の良い姉弟だった。
王妃となることを一番反対していたのは父上だったらしい。
王宮は危ないから、そんなとこに嫁がないでほしいと。
結局は議会の決定に従う形で王妃になってしまった。
だからこそ、毒殺されたことを許せなかったのだろう。
守れなかった国王にも自分自身にも。
あの事件以来、父上は宰相をやめて領地にひきこもってしまったし、
兄さんを含め公爵家の兄弟は王家から遠ざかっていた。
そのことがこんな風に影響しているのかもしれない。
父上が宰相のままだったらこんなバカなことにはならなかった。
伯母上が生きて王妃のままだったら、王子たちはちゃんと教育されていたはずだ。
毒殺した犯人は、心当たりが複数いたせいで結局わかっていない。
現王妃なのか、国王の婚約者候補だったものなのか、
その頃産まれたダニエルを王太子にしたいものなのか。
おそらく狙われたのは伯母上ではなく、カイン兄さんだった。
毒が入っていたのは焼き菓子で、いつもならカイン兄さんが先に食べていた。
たまたまその日のお茶会では伯母上が先に食べて倒れた。
目の前で母親が毒で倒れ亡くなったことで、
今でもカイン兄さんは甘いものを食べようとはしない。
きっと、その時のことを思い出すのが嫌なんだと思っている。
今も、その犯人はのうのうと生きている。
父上の考えでは、おそらく現王妃の仕業だろうと。
できるなら犯人を捕まえたいと思ってきたが、妃を取り調べるのは難しく、
何ともならないまま時が過ぎていた。
王家を、貴族を、信用できないまま、今に至る。
これ以上落ちるところがないほど、王家は落ちてしまっている。
重い気持ちを飲み込んで、
明日王宮に向かうことを国王に伝えるように隊員に告げた。




