58.王族
「おい、お前ら!なぜ近衛騎士がイチカを取り押さえる!
そのような指示は出していないぞ!」
「指示を出したのは私です、ダニエル兄上。」
騎士たちの後ろから入場してきた銀髪の少年が答えた。
透き通るような水色の瞳で可愛らしい顔立ちをしている。
十代前半に見える少年だが身長は高く、
体つきもダニエル王子よりも鍛えているように見える。
少し高めの声は、まだ声変わり前だと思うので、
将来的にはダニエル王子よりもはるかに大きくなりそうだ。
「ハイドン!お前、どうしてそんな指示を!」
「いい加減にしてください!
ユウリ様、ミサト様。王族の一人として謝罪いたします。
お披露目の夜会だというのにこのような真似を…申し訳ありませんでした。
…ダニエル兄上も謝ってください!」
「なぜ俺が?」
「今までのことすべてが聖女様への無礼だとわからないのですか!
わからないのなら、今すぐ出て行ってください。
お前たち、ダニエル兄上も連れていけ!」
「あ、おい!何をする!」
騎士たちは一花だけでなくダニエル王子も連れて退出していった。
まだ遠くから二人がわめいている声が聞こえているが、
両腕をつかんで無理やり連れて行ったようだ。
嵐が通り過ぎた後のような夜会で、
一人残った王族、ハイドン王子はもう一度私たちへと深々と頭を下げた。
「聖女様に対してこのような真似をするとは思わず…。
本当に申し訳ありません。」
「いえ、あなたは悪くありません。」
「そうだね、悪いのはあの王子だよね。」
謝られても、悪いのはダニエル王子と一花で、この王子は悪くない。
むしろ二人を止めてくれたのだからお礼を言いたいくらいだ。
「ハイドン、どういう状況なのか説明できるか?」
カインさんが聞くと、ハイドン王子は泣きそうな顔で説明をしてくれた。
「聖女様をお披露目する夜会を開くのだと言われ、
決められた時間よりも先に入場しようと思いました。
大広間に向かおうとしたら部屋の扉が開かなくなっていて、
おそらく母上の部屋も同じように閉じられています。」
「だからお前と側妃がいなかったのか。
真面目なお前がいないのは変だと思っていたが…。
閉じ込められたのは国王と王妃の指示だな?」
「恐らくそうだと思います…。
聖女様が入場しても王族がいないことに気が付いた古参のものたちが、
慌てて私たちを探しに来てくれて、助けだしてくれました。
部屋から出て、もう聖女様が入場していると聞いて急いで大広間に来たのですが…
まさかダニエル兄上があのような愚かな真似をしているとは…。」
「ダニエルは王子教育を受けていないようだな。
まさかあのものに白のドレスを着させて夜会に出席させるとは。
…ハイドン、覚悟はしておけ。」
「え?」
「このままではダニエルは王太子になれん。
国王と王妃の聖女への無礼も問題にはなるだろうが、
聖女に害するものを近づけ、尚且つ聖女だと周りに誤認させた罪は大きい。
ダニエルでは五カ国からの承認を得られないだろう。」
「…っ!」
「今、王族として教育を受けているのはお前しかいない。
だから、今のうちから覚悟しておくように。」
「…わかりました。」
話の内容は理解できているようで、まったくできていない。
キリルを見上げたら部屋に帰ったら説明するよと言われ、それ以上は聞けなかった。
「とりあえず、これだけ騒ぎになってしまったら夜会は終わりだな。
国王と王妃が来るのは待たない。
この件に関しては神官宮から正式に抗議する。
俺たちは神官宮に帰るから。」
「はい。」
また深々と頭を下げたハイドン王子に見送られ、
私たちは大広間から退出した。
話しかけたそうにしていた貴族たちもいたけれど、
キリルもカインさんも完全に無視して通り過ぎていた。
「…なんだか、すっごい疲れたね。」
「だねぇ…夜会のイメージ良くないまま終わったねぇ。」
美里に愚痴ったら、同じように愚痴を返される。
せっかくのドレスも重く感じられて、ただもう早く部屋に帰りたかった。
私とキリルの部屋へと戻ったら、美里とカインさんもそのままついて入ってきた。
どうやら今日はそのまま解散するわけにはいかないらしい。




