51.不安
いつものように四人で石の柱の近くで修行していると、
ジェシカさんが王宮からの招待状を届けに来た。
高級そうな封書を開けてみると、何が書かれているのかわからない。
そのままキリルに渡すと、「あぁ、夜会の招待状か」と言った。
「え?夜会?夜会って、あれ?
貴族が集まる夜会?」
「そう、その夜会であってるわ。」
「えぇぇぇ。私と美里も出席しないとダメなの?」
「うーん、そういうの出なくていいと言ってあげたいのだけど、
今回だけは出なきゃダメなのよね~。」
「ユウリ、この夜会は聖女のお披露目なんだ。
これから瘴気の被害がでるから準備するようにというのと、
聖女が誰なのかを知らせるためのものなんだ。
偽物が出ることも考えられるし、
領主たちが聖女なんて知らないって言って協力しないこともある。
そうならないために、すべての貴族が集まる場でお披露目するんだ。
これから各地を回るときに失礼のないようにしろっていう脅しでもある。
夜会で紹介されてるのに聖女だなんて知らなかった、は通用しないぞっていう。」
「あぁ、そういうことなんだ…じゃあ、仕方ないかな。
美里、がんばろうか。」
「…ダンスとかは無理だよ。」
「聖女にダンスを踊らせるなんてしないから。
基本的に聖女にふれられるのは神官隊長だけだから。
挨拶も個別にされることはない。
ただ出席して、少しの間その場にいるだけだから。」
「それなら大丈夫かな。」
そうか。私にふれていいのはキリルだけなんだ。
ここに来てキリルとしか一緒にいないから気が付かなかったけれど、
カインさんとジェシカさんくらいしか会っていない。
それも、他の人にふれさせないためだったのかな。
「着るのはこの聖女の服?」
同じように白のワンピースを着た美里が服をつまんで聞いている。
聖女の修行する時の服だとしたら、聖女として紹介されるのもこの服で?
「いいえ、ちゃんとしたものを用意するわ。
白には変わらないけれど、もう少しドレスっぽいものになるの。
聖女の正装があるのよ。
各地に馬車で移動する時は正装を着ることになるから、
今から少しずつ慣れたほうがいいかもしれないわ。」
「この服じゃないんだ。」
聖女の正装…それを着て夜会で紹介されたら、もう逃げられない。
聖女としてちゃんとやっていけるのか、まだ不安しかない。
同じように不安そうな顔している美里を見て、一人じゃなくて本当に良かったと思った。
「美里、頑張ろうね。
…一人じゃなくて本当に良かったよ。」
「そうだね。悠里も一緒なら大丈夫な気がしてきた。」
「修行は全然進まないけどね。」
「それは、ね。」
美里が修行を始めて、魔力を循環できるようになるまで一週間。
今はそれを神力に変化させようと頑張っている。
私はというと、相変わらずだった。
何度やっても蛇に神力を吸い取られてしまっていた。
この分だと、美里に追い抜かれてしまうかもしれない。
でも、どちらか一方でも神力を使いこなせるようにならないと、
いつまでたっても神剣が作れない。
神力を使いこなせるようになったら、それを剣に付加させ神剣にする。
その神剣は各地へと送られ、神官隊が魔獣と戦うのに使うらしい。
神剣はこの国以外にも輸出しているそうで、
この国と聖女への手出しが禁じられているのはその辺にあるらしい。
他の五カ国が争わないように、この国へは不可侵条約が結ばれているとか。
確かに下手に聖女に手を出した結果、
自分の国だけ神剣が手に入らなくなったとかまずいよね。
魔獣と戦うのは普通の剣でもできるそうだけど、全然効果が違うんだって。
よく切れる刀とボロボロのカッターくらいの差があると言われ、
それじゃどの国も神剣を欲しがるわけだと納得した。
その神剣がいつまでたっても作れそうになくて、ちょっと自信を失いかけている。
こんな状況で夜会で紹介されるとか…本当は心配しかない。
修行がうまくいっている美里に心配をかけたくなくて、ため息は押し殺した。




