48.神力
「まぁ、一度やってみようか。」
カップを置いて、石柱の中に戻る。
中央の白い石の上に立つと、キリルと手をつないで向かい合う。
流されてくるキリルの魔力を白い紐のようにイメージする。
そして、受け止める私の魔力を青の紐にしてからめとっていく。
組みひものように一本の綱のように巻いてぐるぐる、ぐるぐる…。
うーん。一本の魔力にはなったけれど…神聖な感じは全くしない。
どうしてだろう。
神聖な動物…神様の使いになる動物…。
神様の力を感じられるようなものを思い浮かべて…力を貸してと願う。
頭の中に浮かんだものが形になっていく。
それがぐるぐる回っている一本の魔力と重なって…。
青と白の蛇がくるくると回り続ける。
一体となって、青白い光となって…それは現れた。
「…は?」
「え?」
ポンっと目の前に出てきたのは、青と白の小さな蛇だった。
宙に浮かんだまま、ふわふわと漂っている。
「…何、これ。ユウリが出した?」
蛇を目の前にしたキリルがさわっていいのかと聞いて来る。
「蛇?生きてる?なんで、こんなとこに蛇が?」
「ヘビ?という動物なのか?これ?」
「え?この世界、もしかして蛇いないの?」
「…少なくとも、俺はこんな動物知らないな…。
え?もしかして前の聖女がイメージした動物もこれだったりするのか?」
実際にはいない動物って、この世界にはいない動物ってことだった?
まさか蛇がいないとは思ってなかったけど…。
魔獣なんてものがいるんだし、生態系が違うんだと思ったほうが良さそう。
そのうち図鑑とかあったら借りてみたい。
「これね、向こうの世界では有名な動物。
白蛇さんは神の使いだなんて言い伝えもあるくらい。」
うちの近くにあった神社が蛇を祀ってたこともあって、
神聖な動物と言えば蛇のイメージだったんだよね。
「…使い魔にも見えるが、まさに小さな神の使いって感じだな。
ちゃんと神力を感じるよ。微量ではあるけど。」
「本当?じゃあ、一応は成功だった?」
「あぁ、初日で神力のイメージはつかめたんだろう?
ただ、これからもずっと生き物を出し続けるのは…困るかな。」
「…蛇だらけになったら…困りそうだね?
この世界にいない生き物なんでしょ?」
「見慣れない生き物に恐怖を感じるものはいるだろうなぁ。
ヘビを出さないで神力だけを出せるようになるといいんだが。
まぁ、訓練し続ければなんとかなりそうだな。」
「この蛇さん、どうしよう。」
小さな小さな二匹の蛇。
自分が作り出したと思うと、なんとなくかわいく見えてくる。
…消さなきゃいけないのかな。
寂しく思っていたら、白い蛇と目が合った。
神の使いと同じ、緑色をしていた。
シュルンと蛇が動いたと思ったら、白蛇が左手首にくるりと巻き付いた。
「えぇ?」
「うわ?」
キリルを見ると、キリルには青い蛇のほうが巻き付いたらしい。
巻き付いた蛇はそのまま固く石の彫刻のようになって、動かなくなった。
「…どういうこと?」
「うーん?俺にもよくわからないことばかりだな。
でも、まぁ、害は無いようだから様子見ようか?
これもユウリが生みだしたものだから、力になるかもしれない。」
「害が無いならいいけど…腕輪だと思えばいいかな。可愛いし。」
「おそろいの腕輪か…恋人みたいだな。」
「え?」
「こちらの世界でも恋人がおそろいのアクセサリーをつけるというのがある。
おそらくヘビの腕輪なんて他にはないだろうし、俺とユウリだけのおそろいだろう?
仲のいい恋人だと思われるんじゃないかな。」
「そ、そんなのつけてていいの!?」
「ん?いいんじゃないの?俺はうれしいけど。
この腕輪はユウリが作ってくれたようなものだろう?
大事にするよ。」
「あ、うん。」
本当にうれしそうに笑うから、もう何も言えなくなってしまった。
恋人におそろいをプレゼントされて幸せだっていうような顔して、
大事にするだなんて言われて…言うつもりだった言葉を飲み込んだ。
恋人じゃないけど、いいの?って。




