36.友達
部屋に用意されてあった夕食を見て、タイミングの良さに笑う。
ハンバーグの横にトマトのパスタがつけられていた。
食べてみたら私が作ったパスタの何倍もおいしかった。
トマト缶とコンソメの素を混ぜたら間違いなく美味しいと思ってたけど、
料理人が作るとこんなに美味しいんだ。
私が作った素人料理をあんなに美味しいって騒いでた美里を思い出して、
やっぱり大げさだよと思っておかしくなってしまった。
「どうかした?」
「あのね、美里の家に泊めてもらった時に、お礼にご飯を作ったんだけど。
最初に作ったのがトマトのパスタだったんだ。
普通のご飯だったのにすごく喜んでくれて。
なんだか懐かしいっていうか、すごい偶然だなって思って。」
「泊まりに行くような仲のいい友達だったんだ?」
「……。」
「ん?」
友達ではなかったけれど、仲は良かったと思う。
律と一花のことを相談できたのは美里だけだったし、
あの時も一緒になって怒ってくれて、三日間一緒にいてくれた。
…今、何しているんだろうな。
「友達じゃなかったけど、仲が良くて…。
律と一花のことも相談してたの。
高三の時の図書委員で一緒だったんだ。」
「…?それって、友達だよね?」
「…友達、なのかな?」
「そのミサトって子、好きなんだよね?
泊めてくれるくらい仲良しで、相談もしてたんだったら、
それはもう友達でいいと思うんだけど。違う?」
「そうなんだ…?
あのね、小さい時から友達を作ろうと思って話しかけても、
ちょっと仲良くなったと思うと一花が邪魔してきて。
次の日に話そうと思うとさけられちゃって。
そんなことの繰り返しで。
どうやったら友達になれるのかわからないんだ。
友達だよって言ってもらったら友達になれるんだと思ってて。」
もし友達だって私が思ってても、周りから見たら違うかもしれない。
向こうはただの知り合いだとしか思ってないかもしれない。
律と一花以外と関わることが少なかったし、
律と一花だって自分から近づいたわけじゃない。
友達になるというのが、経験がないためによくわからなかった。
美里と友達だと言っていいんだろうか。
もしそうなら…
「あぁ、なるほどね。
多分だけど、その子はユウリのこと友達だと思ってたと思うよ。
よく泊まりに行ってたの?」
「ううん。泊りに行ったのは一度だけ。
律と一花のそういう場を見ちゃったとき、家に帰りたくなくて。
だって、二人とも隣の家なんだもん。
帰ったら絶対に会うことになると思って、
隣の県に一人暮らししていた美里のところに泊めてもらったの。
電話したら泊まりにおいでって言ってくれて。
この世界に来る日の朝まで三日間お世話になってたんだ。」
「なんだ、それじゃあ、間違いなく友達だろ?」
「友達、かな。」
「うん。」
もう会えないと思うと寂しいけれど、ちゃんと友達がいた。
相談を真面目に聞いてくれて、泊まりにおいでって言ってくれて、
一緒に怒ってそばに居てくれた…友達。
胸のあたりがほわっと温かくなったようで、その熱もうれしかった。
「そんなにうれしそうな顔は初めて見た。
そういえば今まで嫌な話しかしてこなかったな。
じゃあ、今日はそのミサトって子と楽しかった話を聞かせてよ。」
「うん!美里と話したきっかけはね…」




