31.時代
「んん~!!」
二度寝から目を覚ますと、もう昼近くになっていた。
キリルも一緒に寝ていたから、こんなに寝坊したことに気が付いていなかった。
ベッドから降りようとすると、すぐにキリルが今日の服を持ってきてくれる。
緑色のワンピースなのかと思ったら、ドレスに近いデザインのものだった。
「今日は何かあるの?」
「うん、ちょっとね。」
「?」
いつものようにキリルに着替えさせてもらって隣の部屋に行くと、
テーブルの上にはすでに食事が用意されていた。
ここで暮らすようになってから、食事の世話をしてくれている人の姿を見ていない。
まるで小人さんのようだなと思いながら、自分の考えに笑ってしまいそうになる。
「どうかした?」
「あ、うん。いつも食事を用意してくれる人の姿を見ないなって。
まるで小人さんが用意してくれるみたいって思ってしまって。
メルヘンな考えに思わず笑っちゃっただけ。」
「あぁ、そういうこと。
もう少ししたら隊員たちにも会えるようになるよ。
今までユウリの魔力が安定していないから会えなかったんだ。
やっと魔力が満ちたし、ユウリの魔力に変換できれば問題ないよ。」
「そうなんだ。
いつも美味しい食事を用意してくれてるからお礼くらい言わなきゃ。」
「ユウリにお礼を言われたら喜びすぎて倒れそうだな。
ぜひ、言ってやってよ。」
知らないうちに届けられている食事はどれもおいしくて、
今日の昼食はオムライスとサラダとスープのようだ。
オムライスはシチューがかけられているし、サラダには唐揚げがのっている。
ちょっと不思議な組み合わせではあるけど、どれもとても美味しい。
「この世界って、むこうと食事が変わらないんだね。」
「昔は違ったみたいだよ。
ここに戻ってくる聖女たちが少しずつ影響してこうなったみたい。」
「そうなんだ…昔っていつ?」
「軽く数百年前?」
「は?」
数百年前から影響してこうなった…?あれ、おかしくない?
私の前に戻ってきた聖女のアイ様って、40年前って言わなかった?
その前も2,30年は前だったはずで…。
「…ねぇ、キリル。数百年前に来た聖女様って、何時代の人かわかる?」
何時代とか言ってわかるのかなと思いつつ聞いてみると、すぐに答えは返ってきた。
「ヘイセイかレイワだよ。」
「はぁ?」
平成か令和?どういうこと?アイ様が平成なのもおかしい…よね?
だって平成って31年しかないんだし。
「…なんで40年前に来たアイ様が平成なの?」
「おかしいと思うよね。
だけど、事実そうなんだ。
こちらに戻ってくる聖女はセイレキ2000年前後に生まれているんだ。」
「ええぇ?」
西暦2000年前後…!?
みんな私と同じ時代に生まれているってこと?
「じゃなかったらユウリがここに来た時に最初に言ったように
聖女の説明書に異世界転移だなんて書かれているわけないだろう?
聖女の説明書自体が数百年前からあるんだし。」
「あぁ、そういえば最初に言われた…。
異世界転移って言えば早い?って…でも、どうして?」
「どうやらこちらの世界からあちらの世界への通路は一本しかないようなんだ。
だからどの時代から弾かれたとしても、魂はむこうの2000年前後に飛ばされる。
ただ戻ってくるときは対の魂を目印にして戻るから、
本来生まれるはずだった時間軸に戻るようだ。」
「…あぁ、そういうことなんだ。
だから、この世界に伝わる情報は同じ時代のものに偏ってるんだね。
マカロンとかマリトッツォとかおやつに出てくるのはそのせいなんだ。」
「そうだね…ワショクというものも一応は伝わっているけど、
聖女たちはあまり好んでいないという話で、たまにしか出てこない。
ユウリはワショク食べたい?食べたいならワショクも出すよ?」
「和食…たまにならいいけど、白米はちょっと苦手かも。
母親が料理しない人だったから、自分で作るのはパスタとかだったなぁ。
オムライスとかチャーハンとかなら好きなんだけど。」
「じゃあ、今のところ問題なさそうだな。
何かあれば隊員が作ってくれるから、食べたいものがあったら言ってよ。」
「うん、ありがとう。」
オムライスの他にサラダの唐揚げがあったせいか、食べ終わったらお腹が少し苦しかった。
美味しかったから、つい食べすぎたのかもしれない。
最近少し太ったのか胸のあたりがきつく感じる時がある。
寝るか食べるかだけの生活だったからそれも当然か。
「お茶を飲んだらちょっと見て欲しいものがあるんだ。」
「ん?見て欲しいもの?」




