30.縁
目が覚めたら誰かの腕の中にいた。
驚いてその腕から抜け出そうともがくと、すぐに力が緩んですきまができた。
「…起きた?大丈夫?」
「キリル…。」
私を抱きしめていたのがキリルだとわかって、身体の力を抜いた。
今まで一緒に寝ていてこんな風に抱きしめられていたことはないけれど、
相手がキリルだとわかれば特に嫌がる理由もない。
ふと自分の身体が軽いことに気が付いた。
あんなに疲れ切っていたのに、嘘みたいに身体も心も軽い。
「わかる?ようやく魔力が満ちたんだ。」
「魔力が満ちる?」
「うん、ユウリの魔力はずっと漏れていた状態だった。
俺が魔力を供給しても、少しずつ漏れていってた。
あの二人に寄生されたままだったから、魔力を持っていかれてたんだ。」
「律と一花に…。」
「だから二人に会わせて別れをいう時に、寄生されている糸を切ってきた。
これからは魔力を奪われる心配もないし、魔力が漏れないから俺からの魔力供給も問題なくなった。
身体、軽くなっただろう?」
「うん、今までとは全然違う…。すごく軽い。」
「あの二人に魔力を奪われているって教えたら、
気持ち悪いだろうし悩むかと思って言わなかったんだ。
…ユウリはこの世界に転移してきた時、魔力が完全に無くなりかけてた。
あの二人がユウリの魔力を使って転移したせいだ。
ユウリの魔力が多かったから大丈夫なものの、普通なら死んでたかもしれない。」
「そうだったんだ。
…だからキリルが離れないでずっと魔力を供給してくれてたんだね。」
「あの二人は自分たちがユウリのことを危険な状態にしたのにわかっていない。
わかっていない上で自分たちが守るとかほざくから…イラついてた。
本当は二人に会わせるのはもっと回復させてからのほうが良かったんだけど、
いつまでもユウリの魔力を持っていかれているのが嫌で…。
無理させてごめん。
あの二人に会うの気持ちだけでなく身体もつらかっただろう。」
申し訳なさそうな顔で謝ってくるけれど、悪いのはキリルじゃない。
寄生されてた状態が続いていたからあんなに回復が遅かったんだとわかれば、
早く会って別れを告げてよかったと思う。
それに、先に知っていたらすごく嫌だったと思う。
二人と別れ、ようやく回復できた今はすっきりしている。
「あぁ、だからあんなに疲れたんだ。なるほどね。
大丈夫、キリルのせいじゃないし、これでもう問題ないんだよね?」
「うん、もう大丈夫。
一度魔力が満ちれば、ここからはユウリが自分で魔力を生み出せるようになる。
ユウリの魔力に変わるのはあと三日もすればいけるかな。
そうしたら聖女の修行を始められる。」
「あー聖女。忘れてた。
そうだね…ちゃんとお仕事頑張る。」
うっかり忘れるところだった。
だって、ここに来てから何もしていない。
回復するまでは何もできないと聞いていたし、のんびりしているだけだった。
聖女としてのお仕事ってどんな感じなんだろう。
「ハハッ。まぁ、あと三日は忘れてていいよ。
もうちょっとだけ俺とのんびりしていよう。」
「うん。」
キリルの腕の中で体温を感じていると、またうとうとと眠くなる。
すぐ近くからキリルの静かな寝息が聞こえて、
キリルも二度寝したのならいいかと目を閉じた。
律と一花とは縁が切れた。
キリルが糸を切ったというのは、そういう意味なんだと思った。
ようやく私ひとりで生きていける。
いや、キリルと二人でかもしれないけれど。
わくわくする気持ちと安心する気持ちがまざって、
見た夢は覚えていないけれど…とてもいい夢だった気がした。




