29.闇
「本気で練習のつもりだったのか?」
「そうよ?それ以外に律とする意味ないじゃない。
私も律も悠里のことが大好きで、一緒にいるためならなんだってするの。
だから、私たちは三人で一緒に居なきゃいけないのよ?」
「…もう、無理だと思うよ?」
「邪魔する気なの?」
「いや、違う。
ほら、見てみなよ。ユウリの顔。
もう君とは一緒に居たくないって顔している。
君もリツも嫌われちゃったんだよ。」
「どうしてよ!私たち、悠里のためにずっと頑張ってきたのに?」
キリルに会話を任せていたけれど、これは聞き捨てならなかった。
私のために頑張ってきたって何?
「ずっと、って何?頑張ってきたって何?」
「ずっと、ってずっとよ。
悠里と友達になろうとして近づいてきたやつを遠ざけたり、
悠里が遠い場所に行こうとするのを止めたり、
変なことに興味持ったりしないように本や情報を隠したり、
携帯も知らないアドレスがあったら消していたわ。
隣の中学のやつが告白しに来た時には律が追い返してた。
あぁ、手紙とか古風なのもあったけど、全部捨ててたし。」
「…それが私のためだっていうの?」
「もちろん。悠里は危なっかしいんだもん。
悠里のお母さんにも頼まれてたんだから。
悠里がすぐにどこかに行っちゃうから見張っといてって。
三人でずっと一緒に暮らす予定だって言ったら、それがいいわねって。
うちのお母さんも律のお母さんもそれがいいって言ってたよ?
ずっと三人でいてくれたら安心するわって。
だから、私と律で頑張って悠里に変な虫がつかないようにしてたの!」
まるで、褒めて?というような笑顔の一花に脱力しそうになる。
本気で怒るのにはエネルギーがいる。
どこから怒っていいのかわからないほどで、怒り続けることに疲れてきていた。
どこまで話し合ったとしても私の言葉は一花には届かない。
わかり合える日は来ないんだと思う。
律と一花だけじゃなく、うちの親やおばさんたちまで。
いつからこんな風にねじ曲がってしまっていたのかわからない。
一花の説得は無理だと思ってしまった。
もう気力もつきかけて、あきらめるしかなかった。
苦しすぎて、逆に笑えてきた。どうして今まで気が付かなかったのか。
「今、わかった。
私は律と一花と一緒にいちゃいけなかったんだ。
もっと早くに気が付いて離れるべきだった。」
「え?何言ってんの?悠里?」
「私は三人でいたいなんて一度も思っていない。
二人とは普通の幼馴染でよかった。
たまに会って、今こんな感じだよって報告し合えるくらいの仲で良かった。
律と一花がしたことは何一つ望んでいないよ。」
「どうして?悠里のために頑張ったのに?」
「だから、どうしてそれが私のためになるの?
私はそんなことしてほしいなんて思ってない。そんなの迷惑でしかない。
もっといろんな友達が欲しかったし、遠くにも行きたかった。
知らないこと知りたかったし、興味を持てそうなこと探したかった。
律の練習だって、ありえない。
他の女を平気で抱くような恋人なんて気持ち悪いだけだよ。
律も一花もただただ気持ち悪い。もう普通の幼馴染ですらない。」
「…悠里?」
「お別れだよ、一花。」
「嘘、だよね?」
「本当…二人とも、大っ嫌い。
もう二度と会うことは無いけど、元気で。」
「嘘よ…いや…嫌だって。悠里は一緒にいてくれるでしょう?」
「さようなら。」
「嫌よ!嫌だってば!待って、行かないで!
置いていかないでぇ!!悠里、悠里!」
立ち上がって私へ来ようとした一花が後ろから押さえられて暴れている。
それを見ないようにとキリルが私を隠してくれた。
一花へと言いたいことを言ったら、もうぐったりして動けなかった。
キリルがすぐに気がついて、私を抱き上げて外に出してくれる。
「…頑張ったな…もう休んでいいよ。」
「…うん、私…頑張ったよね…。」
「あぁ、よくやった。もう休め。」
「…うん。ありがと…。」




