24.言い訳
「あれは練習だ!誤解なんだ!」
「はぁ?」
あれは練習なんだ…って、なに?どういうこと?
今日は最後までしないって言った。
ってことは、最後までしたことがあるってことだよね?
ホテルに行くかどうするか、なんて慣れた感じで会話してたよね?
たとえ二人が最後までしていなかったとしても、
律が一花の胸を揉んでキスしてたことには変わりない。
それを練習って、言い訳にしてももっと何かあるんじゃないの?
「悠里とそういうことになった時に、変に傷つけたり、
痛くしないために練習していたんだ。
悠里が二十歳になるときに一番いい状態で抱くために。」
「…は?」
大真面目な顔の律に…言われたことが理解できない。
私が二十歳になった時に抱くために一花で練習?
あまりのことに何も言えないでいると、律はそのまま話を続けている。
「だから、あれは誤解なんだ。
すぐに説明したかったのに悠里と連絡取れなくって…。
俺も一花もすごく心配した。」
律の顔に黒い影は見えない。嘘はついていない?
いや、だとしたら一花を練習で抱くってひどくない?
「…本気で言ってるんだとしたらひどいよ?
一花を練習相手にって、何考えてんの?」
「言い出したのは一花だ。
悠里に痛い思いさせないように練習したほうがいい、
童貞の俺が抱いたんじゃ悠里は嫌がるだろうって。
ただでさえ、悠里はそういうことを嫌うし、
最初にやった時に痛かったら、きっともうさせてくれないよって。」
「……。」
確かに、私は性的なものが苦手だった。
そもそも人とふれあうのが苦手だったこともあるけれど、
そういう性的なものが気持ち悪いと思ってしまう。
過去に嫌なことがあるとか、そういうことは一切ない。
ただ苦手だった。
律とつきあっても、そういう関係にはなれなかったと思う。
だけど、それと一花で練習するというのは違うと思う。
一花もどうしてそんなことを言い出したの?
あまりのことに固まってしまった私を庇うようにして、
前に出たキリルが律に話しかける。
「なぁ、それ、本気で言ってんのか?」
「本気に決まっているだろう!」
「ユウリに嫌われてまで他の女で練習するっておかしくないか?」
「なんだと?」
「だって、その練習って、ユウリの許可は取って無いんだよな?」
「あぁ、言ったら嫌がりそうだから言うなって一花が。」
「ほら、それだよ。
ユウリが嫌がるのわかっててやるのって、練習って言わないぞ。
そんなのただの浮気だ。」
「違う!練習だって言ってんだろう!」
「最後までやることやったんだろう?そういう行為に本番も練習もないぞ。
ただ身体の関係を持ったっていう事実だけだ。
ユウリが判断するのは、恋人だったお前が他の女と関係を持った、という事実だけだ。」
ここまでキリルに言われたらさすがに理解するかと思ったのに、
律はまたわけのわからないことを言い出した。
「俺たちのことを知らないお前にはわからないだろ。
悠里ならわかってくれる。だって、相手は一花だ。」
「わかるわけないでしょう!?」
「悠里!?」
「私は他の女性と平気でそういうことするような彼氏はいらない。
一度でも裏切ったのなら、もう話したくもない。
練習だからとか、相手が一花だとか、そんなのどうでもいい。
そういうことをした律が気持ち悪い…もう無理、絶対に無理。」
「…嘘だろ。だって、一花なんだぞ?」
「だから、一花だからとか意味わかんない。
もう二度と会いたくない。さようなら。」
「嫌だ!嫌だったのなら、謝る!一花とももうしないから!
だから、悠里!俺から離れないで!
嫌だ!絶対に俺は離れない!
悠里!待って!」
あきらめずに叫んでいる律ともう話す気はなかった。
キリルに背中を押されて部屋から出た。
お腹のあたりに重い塊みたいなものを入れられたようなだるさだった。
吐きそうなほど気持ち悪い…。
「…今日はもう部屋に戻ろう。
このままもう一人に会わせるのは無理だ。」
本当はこのまま一花にも会ってから神官宮に戻る予定だった。
だけど、身体が重くて気持ち悪くて倒れそうだった。
キリルに頷くと、すぐに抱き上げられた。
「顔色が悪すぎて…歩かせられない。
このままおとなしくしていて。」
「うん…ごめんなさい。」
「謝らなくていい。ユウリが悪いんじゃない。」
「ごめ……ありがと…。」




