20.ユウリ
もっと詳しくこの世界のことを説明をされるのかと思っていたけれど、
キリルさんは向こうにいた時の私の話を聞きたいと言った。
「まず、ユウリの向こうでの生活を教えてくれるか?
どんな感じだった?」
「はい。
学生でした。大学って言ってわかりますか?」
「ああ、向こうの高等教育機関の一つだよな?
そこでユウリは学んでいる学生だった?」
「はい。入学して半年すぎたところでした。
あ、年齢は十八歳です。三月生まれです。」
「十八ならこの世界では成人しているな。
俺は二十三歳。そちらでいうと社会人になったばかりって感じ?」
「年上だと思ってましたが、意外と若かったです。」
予想よりも若かったことで思わず素直に言ってしまった。
あ、まずいこと言ったと思ったけれど、もう遅かった。
「え?俺、そんなにおっさんに見えた?」
「ち、ちがっ!そうじゃなくて、隊長さんだっていうから、
そういう役職はもっと年上の人がやるんだと思ってました。」
「あぁ、なるほどね。
隊長っていうのは、聖女の対になる魂を持つものがするんだ。
俺が隊長なのは、ユウリの対の魂だからだよ。
そちらで言う役職とは違うものなんだ。」
「対になる魂?」
「うん、この世界では生まれてくる魂には対が存在する。
五歳の魔力測定の時に自分に対がいるかどうかも教えてもらえる。
生まれている、まだ生まれていない、この世界にいない、存在しない、
神官からの答えはこの四つなんだ。
俺の場合はこの世界にいない、だった。
ユウリ、君が異世界に生まれたことを知ったんだ。」
「そんなに前からわかってたんですか?」
「そうだよ。対になる魂が異世界に行っている場合、
神官隊長候補として育てられることになる。
当然、俺も神官隊長候補として育てられてきたんだ。
周りも俺を清いまま育てるように気をつかってくれる。
最初の神官隊長候補が現れることによって、
この世界に瘴気の種がまかれたことを知るんだ。
俺の数年前から神官隊長候補が現れていたから、俺もかって感じだった。
一つ年上の兄もそうだったから、あまり慌てたりはしなかったな。」
「結構多いんですか?」
「そうだな。百人はいると思う。
それが、成長するごとに少しずつ減っていくことになる。」
「減る?」
「神官隊長候補が汚れてしまう場合と、異世界にいる対の魂が汚れてしまう場合。
どちらかが汚れてしまったら、もうこの世界に戻ってくることはできない。」
「汚れるって…?」
「心が歪んでしまったり、魂が欠けたりということもあるが、
ほとんどの場合は異性と性的な関係を持った時点で汚れてしまう。」
「え!」
それって、私がここにいるってことは、私は確かにそういうことしていないけど、
それが皆さんにバレてしまっているってこと!?
「…なんかまずいこと言った?」
「いや、えっと…。
そういうことしたことないのが知られているのが恥ずかしくて。」
「あぁ、そういうことか。
ごめん、そういう感覚がよくわからないんだ。
聖女も隊長も清いのが当たり前だと思って育っているから…。
俺もそうだから、で納得してもらえないかな?」
「そっか…キリルさんもそうなんだ…じゃあ、わかりました。」
まだ十八の私よりも、キリルさんが二十三で清いのが驚きかもしれない。
あまり気にしないでおこう…。
この世界は清いことが重要なことみたいだし。
「あぁ、話がズレちゃったか。
隊長だとしても年齢は関係ないってことわかったよね。
それと、ユウリとは対等な立場なんだから普通に話してくれないか?
名前もキリルって呼び捨てで構わない。
これからずっと一緒にいるのに気をつかうのはお互い嫌だろう?」
「それは確かに…わかった。キリルって呼ぶね。」
「うん。で、向こうではどんな感じで生活していた?」
「普通のどこにでもいるような平凡な感じだったよ。
でも、昔から友人と呼べる人が少なくて…。
産まれた時から近所に住んでいる、律と一花、
ここに一緒に来た二人と一緒だった。
律と一花はどうしてか私が他の友人を作るのを嫌がってた。
他の大学に行こうとした私を引き留めて、三人一緒の大学に行こうって。
押し切られるように大学も三人で通うことになった。
高校卒業した時、律に恋人になってって言われて、
断ったんだけど一花にも頼まれて…それも断り切れなくて。
恋人ということになったんだけど、それからもずっと三人で一緒にいたの。」
「…あの男はユウリの恋人だったのか。」




