17.気持ちの悪さ(ジェシカ)
「あなたの名前は?ユウリ様とはどんな関係?」
「…平林、律。悠里の恋人だ。」
「リツが名前でいいのよね。ユウリ様の恋人?…それは本当?」
「なんでそんなことを聞くんだ?」
「だって、ユウリ様からそんな話は聞いていないわ。」
「悠里と話したのか!
なぁ、悠里は無事なんだろうな!?
まさか、ひどいことしたりして無いだろうな!」
「いいえ?ユウリ様を傷つけるようなことはしないわ。
絶対によ。それだけは約束できるから。」
私がそう言うと男は目に見えておとなしくなった。
ユウリ様と恋人?でも、お兄様からそんな話は無かった。
少なくともユウリ様は一緒に来たものたちよりも初対面のお兄様を選んだ。
清い魂と身体を持つユウリ様が浮ついた気持ちでお兄様を選んだとは思えない。
異世界で育ったユウリ様がお兄様が対の魂だとすぐに気が付くとも思えない。
きっと、それだけこの二人とは一緒に居たくない理由があったはず。
その理由をこの男から聞き出したかったが、
さすがにずっと暴れ続けて体力が限界だったのか、
ユウリ様が無事だとわかって気が抜けたのか、
私の言葉を聞くと意識を失うように眠り始めた。
「ジェシカ様…この男を運んでもよろしいですか?」
「ええ。王宮の貴族牢まで連れて行って、監視は続けて。」
「わかりました。」
これで男のほうはひとまず片付いた。
次は女のほうだが…
男と違って暴れていないとは聞いているが、こちらのほうが厄介な気がした。
男ならばユウリ様に惚れて執着しているというのは簡単に予想できた。
だが、女のほうは…同性愛も考えられたが、そんな風には感じられなかった。
何よりも、男も女もお互いのことは口にせず、
ただユウリ様のことだけを心配しているのが気持ち悪かった。
三人で一緒と言いながら、ユウリ様以外は大事じゃないとでも言いたげな。
女のほうは神官宮の客室に軟禁されていた。
お兄様からの指示を待って、とりあえず客室へと閉じ込めていたようだ。
「中の様子は?」
「そうですね…泣きだしたり、叫んだりで落ち着かないです。
今は少し静かですけど、そのうちまた騒ぐと思います。あぁ、ほら。」
話している最中に女性の泣き声が聞こえてきた。
泣き声というか、泣き叫んでいるように聞こえる。
「悠里をどこにやったのよー!!
ここから私を出しなさい!」
「…あんな感じで、こうなったらしばらく騒いでます。」
「なるほどね。拘束はしていないの?」
「とりあえず、部屋の中では自由にしてます。」
部屋に入って私に向かってこられても困る。
私が女を取り押さえるくらいのことはできるが、服を汚したくない。
「じゃあ、誰か先に入って取り押さえてくれる?
王宮へと移動させるから、その説明をするわ。」
「わかりました。」
廊下で待機していた神官隊の一人が部屋の中へと入る。
少しして、中からもういいですよと声がした。
部屋に入ると小柄な女が隊員に後ろ手に押さえられていた。
「…あなた誰よ。私に何する気なの?」
「ごめんなさい、暴れられると困るから押さえてもらったの。
あなたはこれから別な場所に移動してもらうことになる。
自由にしてあげることはできないけど、暴れなければ安全は保障するわ。」
「悠里をどこにやったの!?」
「ユウリ様は無事です。
ユウリ様に心身ともに危害を加えることはありません。
その点は安心してください。」
「…信用できない。悠里の無事をこの目で見るまで安心できない。」
「でも、ユウリ様はあなたたちに会いたくないそうだけど?」
「そんなわけない!私たちはずっと一緒にいたんだから。」
「ずっと一緒にいたからって、これからも一緒とは限らないでしょ?
現にユウリ様は一緒に居たくないって言ってるんだし。」
「私たちは一緒に居なきゃいけないの!
あなたなんかにわかるわけない!」
まっすぐな黒目がこちらを睨みつけている。
ユウリ様と一緒にいることが正しいと信じているような…。
神官隊員のようなお兄様への絶対的な信頼とはわけが違う。
こんな状態の女には何を言っても無駄だろう。
落ち着くまで事情を聞くのは待ったほうがよさそうだ。
今日のところはこれで帰ろう。
「…そうね。わからないわ。
だって、嫌っている人と一緒に居なきゃダメだなんて。
ユウリ様がかわいそうだわ~。」
「…何を言ってるの?」
「さぁね。わからないなら、考えてみたら?
じゃあ、移動してもらうから暴れないでね。」
「あ、ちょっと!待ちなさい!」
話を無理やり切り上げて部屋から出る。
外で待っていた隊員にもういいわと指示を出した。
「王宮へと連れて行って、外に出さないように監視して。」
「わかりました。」
それなりに美人だし黒髪黒目はめずらしいから、
王宮に置いたら王子たちが騒ぎそうな気はするけれど。
それでもユウリ様の心の安定のためには、この者たちをそばに置くことはできない。
少しでも早く神官の宮から外に出さなければいけない。
外部にユウリ様の話が漏れないためにも、
神官宮以外に置けるとしたら王宮くらいしかなかった。
待機室に戻るころには精神的に疲れてしまって、
お兄様への報告は明日でもいいかと思い屋敷へと帰ることにした。
「あぁ、女のほうの名前を聞くの忘れたわ。
…明日でもいいわよね。」




