129.処罰
「ようやく侯爵家の取り調べが終わったよ。」
「そう…。」
「予想以上にひどかった。
リツが以前王宮の貴族牢から抜け出せたのもリリアナ嬢の仕業だった。
自宅で保管している宰相印を使って書類を偽造させていた。
実際に動いたのはリイサという女だろうけど、それを指示したリリアナ嬢にも責任はある。」
「あ、あれもそうだったんだ。」
どうやって王宮の人員を操作したのかと疑問だったが、
宰相の娘であるリリアナさんが犯人だったのなら宰相印を使うこともできたのだ。
あの時には律とリリアナさんが関係するとは思ってもみなかったから、
リイサという女性が判明して初めてわかったのだろう。
「その上でリツを匿い、ユウリを連れだす隙を作ろうとしていた。
瘴気の発生の報告を遅らせたのもそうだ。
実際には報告の一か月以上前に発生していたらしい。
領民には湖に近づかないように指示をしていた。
瘴気の浄化に時間がかかれば、狙う時間も増えると思ったそうだ。」
「うそ…そんな理由であんな状態になるまで放置してたの?」
「ありえないだろう…ホント信じられないが、
リリアナ嬢はそのくらいたいしたことないと思っていたようだ。」
湖からあふれ出すほどの瘴気を思い出す。
魔獣が多かったのは野生動物が犠牲になったものと見られているが、
領民の三人と御者から魔獣が生みだされたのも確認している。
他にも犠牲になった者がいたかもしれない。
…それを指示したのが領主の娘だとは。
「ユウリを誘拐しようとしたことだけじゃなく、そういったことも調べてたらここまで遅くなった。
リリアナ嬢は処刑、侯爵家は爵位返上で平民落ちになる。
宰相も娘のしでかしたことを止められなかった責任があるから。
何も言わずに受け入れていたよ。」
「…処刑なんだ…。」
「…聖女をねらうのは、この国だけじゃなくこの世界をも危険にさらす。
ユウリたちがいた世界ではこのくらいの罪では処刑にならないんだろう?
それでも、処刑にしなければ、今後の聖女たちの身も守れなくなる。」
「…そっか。私たちだけじゃなく、これから来る聖女の安全のためなんだ…。」
聖女を害したら処刑になるというのは抑止力になるんだろう。
頭ではわかっている。リリアナさんがそれだけの罪を犯したのだから。
この世界を守るためには守らなくてはいけない法があるんだから仕方ないことだって。
だけど、自分と同じような年齢の女の子が処刑されるのは…。
まったく共感はできないけど、キリルが好きで結婚したくてあれが罪だとわかっていなかった。
罪の意識も無く笑うリリアナさんが頭から離れなかった。
仕方ないと思わなきゃいけないとわかっているけど、納得はできない。
思わずため息をついてしまいそうになっていたら、キリルに頭をなでられた。
落ち込んだ私を慰めようとしてくれているのかと思ったら、
そのまま内緒話をするように耳元でささやかれる。
「そんな顔しなくていい。
表向きは処刑、ということにはなるが、実際にはそうならないから。」
「え?」
「どうしても歴代の聖女たちって処刑を受け入れられないようなんだ。
だから、毎回こういう時は処刑したことにして施設にいれている。
ずっと前に聖女の一人が作った施設があるんだ。
リリアナ嬢のような貴族らしい考えで罪を犯し、
自分がなぜ悪いのかを理解しないものを入れて、徹底的に教育し直す施設が。
もうすでにそこに送ってあるよ。
施設の者たちは久しぶりの入居者だって喜んで迎え入れていたよ。」
「施設…?じゃあ、リリアナさんは死なない?」
「ああ。処刑されたことになっているから、一生外には出られないけど、
修道院で生活するような感じで生きられるよ。
厳しく指導されるけど、自分の罪を理解し反省した後は穏やかに暮らせるそうだ。」
「そうなんだ…よかった。」
貴族令嬢として生活していたリリアナさんにとって、
贅沢ができない生活は辛いことかもしれないけど、
何人も犠牲にしてしまったことをちゃんと理解して反省してほしい。
処刑されないで済むのなら、悔やんで生き続けて欲しい。
ほっとしたらキリルに抱き寄せられる。
「処刑してしまったら、ずっとユウリは嫌な気持ちを抱えるだろう。
あんなことをして…処刑するのが当然ではあるけど、
ユウリの心を傷つけてまでしなければいけないことじゃない。
いつか反省してくれることを期待しておこう。」
「うん。ありがとう。」
「それで、リツのほうも処罰が決まったんだが…。
どうする?言い渡すのに、立ち会うか?
会うのはこれが最後になると思う。」
「律の処罰が…。私………」




