111.案内人の必要性(カイン)
「明日の道はわかった。だから、もうジーナ嬢は案内しなくてかまわない。
案内人の仕事は今日で終わりにしてくれ。ご苦労だった。」
「え?」
今日は初日だったこともあるし、
ミサトとユウリを危険な目にあわせるわけにはいかないと、
本来なら近づけることがない貴族を案内人として認めたのだ。
予想していたよりも危険な場所が多く、案内人が必要だったことは否定しない。
それでも…ミサトにあんな表情をさせるくらいなら、隊員たちに道を先に確認させてから進めばいい。
幸い、この領地の瘴気はまだ発生して間もなかった。
案内人が付かないことで浄化作業は遅れるかもしれないが、
瘴気が人に取りつく前に浄化することが可能な時期だ。
無理してでも急いで浄化しなくてはいけないような状況では無かった。
ミサトの気持ちが不安定になれば、魔力にも影響を受ける。
…今日のミサトの魔力は泣きそうなのをこらえているのが痛いくらい伝わってきた。
すぐにでも抱きしめて慰めたかったけれど、
いつ土砂崩れが起きるかわからない山に長時間いるわけにはいかなかった。
浄化を終えて拠点に戻ってきたら、
テントでゆっくりミサトの話を聞いて落ち着かせようと思っていたのに。
明日の道の説明を聞いて、ジーナ嬢にはもう必要ないことを告げなければいけなかった。
これ以上、ミサトを、それにつられるように心配そうな顔をしていたユウリを、
ジーナ嬢のことで煩わせることはできない。
明日の道を確認すると危険ではあったが、今日ほどではなかった。
だから、もうこれ以上ジーナ嬢は必要ない、屋敷へ戻ってくれと説明すると、
涙目になりながらもジーナ嬢は頷いた。
食い下がられると思っていたために、素直にうなずいたジーナ嬢に驚いた。
明日からも絶対に一緒に行きたいと言われると思っていたのに。
ただ、その後に続いた言葉は理解できないものだった。
「今日ご一緒した結果、わたくしの力不足を感じました。
一日も早く瘴気の浄化を終えるために、
少しでもお役に立てたらと思っておりましたが…。
カイン様…わたしくはカイン様が隊長の任務を終えるのを待ちますわ。
婚約者選びの会にお呼びくださるのを楽しみにしております。」
「は?」
「この領地の瘴気の浄化が終われば、わたくしも王都へ戻ります。
次にお会いできるときは二人きりでお話したいです。」
「ちょっと待て。」
「え?」
素直に案内人をやめて屋敷に帰ることを了承したと思えば、
ジーナ嬢はよくわからないことを言い始めた。
婚約者選びの会ってなんだ?婚約者選びの会を開けるのは王族だけだ。
今、王族で残っているのはハイドンだけで…もうすでに婚約者候補がいる。
ダニエルの婚約者だった王妃教育を受けている令嬢だ。
瘴気のせいで婚約を正式に発表していないだけで、もう決まっている。
…もしかして、俺が婚約者選びの会を開催すると思っているのか?
「婚約者選びの会ってどういうことだ?俺は知らないぞ?」
「え?…瘴気の浄化がすべて終わったら、
カイン様が開催するという話を聞いたのですけど…違うのでしょうか?」
俺が聞いたことで、ジーナ嬢は何か違うのかもという表情に変わっていく。
婚約者選びの会を開くという噂があるとは聞いていない。
神官隊長として神官宮にあがり、ミサトと一緒にいるようになって、
社交界のほうへは一切顔を出していない。
それはユウリと一緒にいるキリルも同じだろう。
ジェシカも神官宮の手伝いと公爵家の仕事で、
以前のように社交界に顔を出す暇は無かったはずだ。
その間に俺の知らない噂が流されていたのだとしたら、かなりまずい。
「話というのはなんだ?聞いたことを全部話してくれ。」
「…わたくしが直接聞いたわけではありませんが、
王都に残っている貴族令嬢たちのお茶会でその話が出たそうです。
今期の聖女様は恋人と一緒にこの世界に転移してきたと。」
「は?」




