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16 友達になってください

「自習をするようにと言ったはずですよ、フェリックスくん」


 廊下に出てきたフェリックスを見て、アスカムは注意した。

 だが当然、それで大人しく教室に戻るなら、最初から出てきたりはしない。


「セレストは俺の婚約者です。一緒に話を聞く権利はあると思いますが?」


「……分かりました。そう睨まないでください。ここだと、ほかの生徒たちに話を聞かれるかもしれませんね。私の研究室に来てください」


 アスカムは廊下を歩き始めた。

 それを追いかけるセレストは、生涯で最も緊張していた。

 心臓が止まりそうなのか爆発しそうなのかも分からない。自分はちゃんと呼吸できているのだろうか。


 このまま魔力が消えたままだったら。

 戦えないというだけでは済まない。もう二度と魔法道具を作れないのだ。

 これまで学んできた全てが無駄になる。

 ドロシーと二人で築き上げた青空邸という店が崩れ去る。

 嫌だ。怖い。誰か――。


 そのとき、不意に手を握られた。温かくて、力強かった。

 ふと、隣を見上げる。

 フェリックスが真っ直ぐ前を向きながら歩いていた。

 こちらに優しい笑みを向けたりはしない。視線も合わせず、いつもの氷の表情で、ただ並んで歩いてくれているだけ。


「大丈夫だ。俺が隣にいる」


 かけられた言葉は短かった。

 なのにセレストは、もう全てが解決したような気分になった。

 これからアスカムに「魔力を取り戻す方法はない」と言われるかもしれない。

 魔法を使えない奴は王族に相応しくないので婚約破棄だとベイレフォルト国王に言われるかもしれない。

 それでも、フェリックスが教室からここまで追いかけてきてくれて、手を握るなんてらしくないことをしてまで自分を励ましてくれたのが、この上なく嬉しかった。


 もしかすると、自分で思っているほど彼に嫌われていないのではないか。いや、むしろ、それなりに好意を持たれていると思っていいのではないか。

 いくらフェリックスが氷の表情の下に優しさを秘めた人だからって、嫌いな奴にここまではしないだろう。

 だからセレストは勇気を出し、思い切って願いを口にした。


「あの。もし私がなにもかもを失って、婚約を解消することになっても……フェリックスくんと他人になりたくありません。私、フェリックスくんを好きになっちゃったみたいです……だから、その、私と……友達になってくれませんか……!」


 沈黙が続く。

 三秒、四秒、五秒――。


「はあ……もったいぶって、なにを言うのかと緊張して聞いていれば……友達だと。ふん。お前は魔力を失わない。そして俺は次のトーナメントで正々堂々とセレストに勝つ。お前は俺と、友達よりも凄いものになるんだ」


 友達よりも凄いもの。そんなのがこの世にはあるのか。


「もしかして私を親友にしてくださるんですか!?」


「勝手に想像していろ。おそらく、お前の頭から出てこない概念だ」


「フェリックスくん……私になにかマニアックな真似をするつもりですか……?」


「いいや。驚くほど王道なことをしてやる。楽しみにしているんだな」


 王道なのに、セレストには分からないこと。

 なんだろう。本当に楽しみだ。ワクワクしてくる。

 これからどんな絶望的な宣告をされても、フェリックスが一緒なら、なんとかなりそうな気がしてならない。

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