懺悔
完全下校の時間になったので生徒玄関を目指して階段を降りていると、前から仲良さそうな、如何いかにもリア充な男女が歩いてきた。暮人は静かに脇に避けるが、男女の内校則違反なメイクをしている女の方と肩がぶつかった。女はキャアっとわざとらしい声を出して男に寄り掛かる。
「あ、すみません」
「おい、お前。何勝手に行こうとしてんの?俺の彼女にぶつかっておいてさ。もっと誠意を込めた謝罪をしたりできないの?」
詰め寄ってくる彼氏様に暮人は心底ウザそうな視線を向ける。こういうチンピラは無視するのが1番の最善策なんだが、そうは行きそうにない。さて、どうしようか―——
「は?何その態度。喧嘩売ってんの?謝罪の1つも出来ないなんてお前の親はクソみたいな人間なん―——」
「俺の家族を、バカにするなっ!」
俺は彼氏様に突っかかった。首襟を掴んで、そのまま壁に押し付ける。
「な、なんだよ。ホントのこと言われて怒っちゃったかー?」っと未だに挑発を辞めないこいつの顔を左手でぶん殴りたくなった。が、その左手を反対側の彼女様に止められた。
「ねえ、健君、こんなやつどうでもいいからさ。早く屋上に行って満月見る用意をしよ?」
彼女様はそう言って彼氏の腕に抱きつくと、暮人に視線を送る。「助けてあげたんだから感謝しなさい」っと言わんばかりの視線に暮人は怒りを通り越して呆れる。
「そうだね〜。おいお前。千花が優しくて良かったな。このクソが」
彼氏様はそう吐き捨てると彼女様を連れて階段を登っていった。姿が見えなくなるまで見送ると、暮人は壁により掛かる。
「暮人、ダイジョブ?」
「いや、大丈夫だ。ちょっとカッとなっただけだ」
「バカにされたら怒るぐらい、暮人は家族思い何だね」
俺は「いや、そうじゃない」っと否定する。落としたカバンを拾うと玄関までの残りの階段を下る。
「つい2ヶ月前、死んだんだよ」
□ □ □
夢を、見た。白い蛍光灯が視界を覆い尽くす。すぐそこにも白い壁があるのか、全方位から光が照り返してきて眩しい。薬品のような、学校の保健室のような匂いが鼻をくすぐる。昔からこの匂いを嗅ぐと眠気を呼ばれる。
落ちていく意識の外で、どこからか、声が聞こえる。
「……と。暮人っ!」
□ □ □
ガバっと起き上がると、そこは自室のベットだった。横を見ると愛用の目覚まし時計がうるさく鳴り響いていた。荒々しく止めると、その場で蹲った。
『———暮人は、家族思いなんだね』
死神の言葉を思い出す。俺は家族思いな善人なんかじゃない。
俺は、家族を見殺しにした、罪人だ。