いくつになってもごっこ遊びは楽しいもの
翌日。5月10日。中間テスト2日目。暮人は昨日同様全く解けないかと思えば、そうではなかった。暮人の問題用紙には端から端まで正答で埋まっていた。前日の夜に猛勉強したのか、と言えば全く違う。暮人は今、全力でカンニングを決行していた。ただ、そのカンニングは普通は出来ないような方法で。
(死神、次の大問3の(1)はなんだ?)
(えっとね~8人ぐらい同じ答えだから(a)であってると思うよ)
(よし、(a)だな)
……死神を使った、絶対にバレない不正行為だった。暮人はテストが始まる前、死神にひと声かけていた。
「おい、死神。俺の完璧なカンニング作戦に協力してくれ」
「嫌だよ、そんなカンニングに協力してって言って協力する人なんてそうそういないでしょ」
「そうか……そうだよな。悪い、今のは聞かなかったことにしてくれ」
「随分今日は聞き分けが良いね?なんか変なものでも食べた?」
「いや、変態には変態なりにやることがあるんだよなって思ってな」
「なっ!わ、私は変態じゃないって言ってるでしょ!」
「お?じゃあ協力してくれるか?」
「ええ良いわ!変態だなんて思われるのは癪だからね!」
……かくして、史上絶対にバレることのないカンニング法が成立してしまった。そうして、中間テスト2日目は問題用紙を全て埋めきり、終了した。
□ □ □
その日の放課後。テストも終わり休止していた部活も再開したためか、校内は活気に包まれていた。
グラウンドでは野球部員達が掛け声を叫びながらトラックを走っていた。汗を大量にかきながらよく頑張ってるなと窓越しに眺めながら頬杖をつく。
その横では死神とみーちゃんこと京弥がとりゃあ!だのほいさ!だの声を出している。
呆れながら見ると、死神は鎌を思いっきり投げ、その先では京弥達がそれを避けていた。
「……なあ、何やってんだ?お前ら」
暮人が声を掛けると、死神は投げるのを止め、額を拭いながら振り向いた。
「いや〜幽霊になるとさできないことが多すぎて退屈なんだよ〜。だからこうしてオリジナルの遊びを考えてやってるんだよ」
「兄貴もやりましょうよ、『鎌避け仙人ごっこ』!たまに当たって腕とか吹き飛んじゃいますけど」
楽しいゲームでもやってる最中かのような笑顔で誘ってくるが、丁寧に断った。
「いや、俺はいい。遠慮しておく。本当に死にそうだから」
「そっか。それじゃみーちゃん!再開するよ〜!」
死神はまた鎌を両手に構え、京弥目掛けて投げ始めた。それをよいしょ!っと声を上げながらしゃがんだり横にステップ踏んだりして避けていく。その光景をぼーっと見ながら暮人は考え事をしていた。
死神を成仏させるとして、どうやったらいいのだろうか。
成仏ということは、なにかやり残した、その未練をどうにかすればいいということのはずだ。死神は「自分達は幽霊でものに触れられないからそれが難しい」と言っていた。
つまり死神の未練は「何かに触れて初めて叶う」っと言うことだ。その「何か」が何なのか、全力で鎌を投げて遊んでる死神に聞いてみた。
「なあ死神」
「ん!何!」
「お前が叶えたい未練ってどんなことだ?」
「それはね!乙女の秘密!!」
「何じゃそりゃ」
妄言を吐く死神は鎌を投げ続けながら補足した。
「えっとね!私の叶えたいことは!ごめんけど!私の口からは言えないような!ことなの!だから暮人は!
「俺が自分で察して、考えろってか?」
「そういう!こと!!」
勢いを付けて最後の1投をされた鎌はしゃがんだ京弥の頭の上を掠めて壁に刺さった。
「チクショ~」っと悔やむ死神の前で京弥は「ヨッシャァ!」と飛び上がった。
「これで俺の4連勝だな!」
「惜しかったなぁ~。今日こそは逝ける!って思ったんだけど。やっぱ片手で鎌投げるのはキツイな~」
「やっぱこれが1番楽しいな。またやろうぜ!」
「うんいいよ~!」
「あ、そうだ京弥。聞きたいことあるんだけどさ」
「ん?なんすか兄貴」
死神は俺が何を聞こうとしてるのか察しが付いたらしい。「ちょ、暮人ストップ!」っと止めようとしてきたが、気にせずに京弥に聞いた。
「いつも死神と遊んだ後さ、罰ゲームとかって賭けたりしてる?」
「いや?今まで1回もないですね。そういうのはあんま好みじゃないんすよ」
京弥が素直に答えてくれた。死神の方を見ると羞恥で顔が茹で上がっていた。これで、死神の性癖が完全に分かった。
こいつは、露出癖だ。
肩を震わせる死神にそっと近づくと、最高のニタニタ顔で肩に手を置いた。
「これでもう確定だな、変態幽霊さん?」
「〜っ!!」
「何のことスカ?兄貴」
「みーちゃんは黙ってて!」
「ww」
「暮人も笑うなバカぁ!」
鎌を持ち暴れだした死神は怒っているというよりも、いじられて嬉しいという気持ちで赤くなりまくっていた。M気質もあるらしい。
そんなくだらないことを考えていると前髪が刈り取られ宙を舞ったので、そろそろ死神を止めることにした。