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**が消える、その日まで。  作者: スモアmore
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出会いはいつも突然に

この作品は、前に投稿した「死神少女の生者殺し」を全力で手直ししたものです!前作を読んだことある人も、読んだことない人も大いに楽しめます!きっと!多分!maybe!笑

 5月。ゴールデンウィークも終わり中間テストが憂鬱ゆううつになる私立高校。そんな中、神野じんの暮人くれとは机に頭を突っ伏して爆睡をこいていた。

1年A組では朝のホームルームが行われているが、誰も暮人に注意しない。  

 なぜなら、暮人は交通事故に遭い、つい先週まで一度も登校していなかった。

 クラス内でのグループ分けも完璧に終わったあとだった暮人になった。何も楽しくない学校生活に眠気がするばかりで、暮人は毎日こうして眠っていた。それが、この暮人の日常だった。


 ただ怠惰に、ただ日々を無駄にしながら過ごす。それが暮人の日常―――だった。


そう、この日までは―――


     □ □ □


5月8日月曜日。中間テスト前日。その大事な5時限目の数学でも暮人は寝ていた。テストの準備で忙しいという理由で自習となったこの時間。いつもは真面目に授業を受けている生徒も、教師がいないとなれば休み時間のように騒いでいた。

 そんな喧騒けんそうの中では眠れに眠れない暮人は静かに席を立つと、教室を出た。


 ここ数日、静かな場所を探していた暮人が見つけた屋上前の階段の踊り場には、体育祭や文化祭の看板が乱雑に置かれているだけだった。漫画のように自動販売機が置いているわけではないため、不良の溜り場にもならず、絶好の告白場所にもならないこの場所には誰も寄り付かなかった。

 だが、それは掃除を一切されていなかっただけであり、暮人はここを自分の安息の場にするため、放課後密かに掃除をし、全ての掃除が終わりチリ1つない快適空間を作りだした。

 今は授業中だから、誰の邪魔も入らずぐっすり眠れることに謎の勝利の感覚を味わいながら階段を登ると、そこには長ランにヤンキー座りというどこからどう見ても完璧な不良が、いた。

 しかも、3人も。

 絶滅危惧種の3人のヤンキーはタバコを口に咥え、楽しそうに談笑していた。暮人はどうすることも出来ずに立ち尽くしていると、ヤンキーの内の1人と目があった。

 その時、本能が悟った。


 あ……死んだなっと―――


 虎に睨まれた兎のように暮人は動けないでいると、目があったヤンキーがゆらりと立ち上がり、ゆっくりと近づく。リーゼントこそないものの途轍もない威圧感を放っていた。



「おめえか?最近ここに来ては掃除をしたのは」



 その問いかけを「何勝手に俺らの縄張りに足踏み入れてんだゴラァ」という意味で受け取った暮人は、自分の作り出したプライベート空間を奪われないように、強気で答えた。



「あ、ああ。そうだよ。きったねえところだったから丁寧に掃除した俺の場所だ」

「・・・そうか」



 ヤンキーは目の前5センチの距離まで近づき、大きく息を吸うと……叫んだ。



「お前がここを掃除してくれたのかぁぁ!!ありがとよぉ!本っ当にありがとよ!」



 目に涙を浮かべて、大声で感謝の言葉を叫んだ。

 あまりのも突然のことに、暮人は呆気にとられていると、他2人のヤンキーもありがと〜ありがと〜っと涙を流していた。

 ただ、超近距離で大声で叫ばれているので、暮人は鼓膜こまくのしびれに耐切れず、慌てて距離をとる。



「な、なんだよ突然!っていうかここは俺の場所だ!さっさと出てけ!」

「ああ、ここは俺達にとって大切な思い出の場所なんだ」

「じゃあなんで掃除しなかったんだよ!埃とかやばかったぞ」



 ヤンキー達は頷きながら訳を話した。



「ああ、あんたの言うとおりだ。だけどな、俺たち、実は幽霊でな。やりたくても物に触れねえから掃除できなかったんだ」



 笑顔でそう言うヤンキー達の言葉に、暮人は意味がわからなかった。

 幽霊?こいつら頭イッてんじゃねえのか?ヤンキーだし、やっぱり危ない薬とかしてるんだ絶対そうだそうに決まってる……

 そんな思考がぐるぐるしていると、唐突に背後に何かがいる気配がした。ただ、なんとなくしただけだったが、後ろを振り向いた。

 そこには、どんな色よりも白い髪の少女が、いた。この高校の制服を着ているはずなのに、そのあまりにも現実離れしすぎた可憐さ、雰囲気、存在感にどうしても見惚れてしまう。

 そんな見つめ合うこと約数秒。彼女は右手をグーに握ると、それを掲げた。



「グー出すからね?」

「あ、うん」

「最初はグー、じゃんけんポイ」



 暮人はパーを出し、彼女はチョキを出した。おい、言ってることと違うぞと言いたくなったが、それよりも先に彼女が口を開いた。



「あなた、私達が見えているの……?」



 その質問の意図を考えて、冗談だと笑い捨てても良かった。けど、そうなのかと問い返した。



「お前も、幽霊なのか?」



 彼女は暮人の問いに、ひとつ息を吐いて、頷いた。



「ええ、私達は、幽霊よ。5年前にここで死んだ、幽霊達」



 その声はとても透き通っていて、生き生きとしていた。未だに信じられない暮人は、彼女に尋ねた。



「……その証拠は、あるのか?」



 彼女はそれを聞くと、右足を軽く下げ、握り拳を作り、それを暮人の顔面目掛けて放った。ぎゅっと目を瞑ると顔面に殴られた痛みが襲ってきた。



「い、痛~!」

「あ、あれ?ほんとだったら透けるはずなんだけどなあ。遺体いたい遺体いたいの飛んでけ〜」



 頭を搔く彼女はうずくまる暮人の頬にそっと手を伸ばし、優しく撫でた。優しい温もりを感じられるその手からは幽霊ぽさなんて微塵も感じられなかった。



「はは、人に触れるなんて何年振りかな……」



 そう言う彼女の頬には1つの雫が流れていた。暮人はそっとそれを拭うと、やっと彼女も気付いたように手を離した。



可笑おかしいな。本当は触れないってことを言いたかったんだけど、予定狂っちゃった」



 笑顔で笑う彼女に、暮人は首を横に振った。静かに涙を流した彼女が嘘をついているなんて、一切思えなかった。彼女は笑顔で笑うと、まっすぐに暮人の目を見た。



「君、本当に私達が見えているのね。私の名前は、そうね、死神しにがみとでも呼んでくれる?」



 彼女――死神はその名前に似合わない天使のような笑顔で微笑むと、「君の名前は?」と暮人に質問した。



「ああ、俺の名前は神野暮人だ。えっと、死神。このヤンキー達も幽霊なのか?」

「うん、みーちゃん達も私と同じ元人間のクラスメイトだよ」

「み、みーちゃん?」



 ヤンキーに似合わない可愛い名前が出てきたことに動揺する。疑いの眼差しで振り向くと、ヤンキー達は大きな声で自己紹介をした。



「そうだ!俺がみーちゃんこと、みかど京弥きょうやっす!そして!」

『俺達は京弥様の側近です!』

「ってことで、以後よろしくっす、暮人の兄貴!」



 ヤンキー達の息ぴったりな自己紹介に死神は「なにそれ、いつ練習したのw」と笑っていたが、暮人は最後の自分の呼び方に突っかかった。



「ちょ、なんだよ暮人の兄貴って!俺がいつお前らの兄貴になった!」



 暮人の言葉に京弥は嬉しそうに笑いながら答えた。



「そんなの決まってるじゃないですか!俺達が大切にしていたこの場所をキレイに掃除してくれたからっすよ!」

「そんなことで俺は兄貴呼ばりされるのか?」

「暮人、そんなことって言ったって私達は幽霊だからほうきも持てないし自分じゃ何も出来ないのよ」



 死神が補足した言葉を聞いて、暮人は納得した。確かに、思い出の場所が汚れて、廃れていく光景にどうすることも出来ない中、自分達に変わって隅までキレイに掃除してくれた人がいたら、その人を兄貴と呼んで慕って敬したくもなる。まあそれでも兄貴呼びは流石にしないが。



「ってことで、改めて有難う御座いました!暮人の兄貴。なんか困ったことがあったら、是非こき使ってください!命を賭けて完遂致します!」

「命を賭けてって、もう死んでるじゃん私達~」

『あっはっはっはっは』



 そんな笑えない幽霊ジョークに、暮人は苦笑いするしかなかった。ノリがよくて、いい奴そうな感じだった。死神は暮人に振り向くと、「さて」っと切り出した。



「みーちゃんの自己紹介も終わったし、知り合ったついでに暮人に少しお願いをしようかな」

「お願い?何をするんだ?」

「私達は皆、5年前にこの学校で死んでるんだよね。一人二人ぐらいじゃなくて、クラスが丸々1つ、全員」

「は…?」



 クラス、全員?あまりテレビを見ない自分でも、40人ほどが一斉に死亡するなんて事件はニュースでも聞いたことがなかった。どういうことなのかという視線を死神に送ると、彼女は少し俯いた。



「何でかはともかく、私達は死体が残らず、死んでることになってるの。一斉じゃなくて、1人ずつ、38人」

「俺そんなニュース見たことないぞ」

「だからさ、1人ずつ車に轢かれたり、転落したり、病気を患ったり……あくまでも、ただ不幸の死を遂げたってことになってるの」

「なってるってことは、本当は……」

「……その記憶は、ないんだ。気がついたら、全員で体育館に立っていた。廊下で教師に話を聞こうとしても、一切反応しない。その時に気付いたの。誰も私達が見えていないんだって……」



 そう言う死神は俯いて当時を思い出していた。あまりにも近寄りがたいその雰囲気に、でも、自分が何か助けられるとも思った。



「それで、俺は何を手伝えば良いんだ?」



 死神は自分の胸元に手を置いて、笑顔で答えた。



「―――暮人、幽霊の私達を成仏させてくれる?」



「成仏……?」

「そ、成仏。いつまでも未練たらたらでこの世に存在し続けてる私達を、終わらせてくれる?暮人」



 その死神の言葉に暮人は迷った。自分にそんなことができるのか。こんな、死にぞこないの自分に、誰かのために動けるのかっと。だが、死神の顔を見た瞬間、そんな葛藤はどこかに消えていった。



「ああ、死神。俺がお前らの最期を迎えさせてやるよ」



 そう言って暮人は笑顔で手を差し伸べた。その手を見て、死神は嬉しそうに笑った。



「ありがとう。これからよろしくね。暮人!」



 死神は自分のことをもうすでに死んだ幽霊だと言うが、暮人は死神の存在を、確かに感じとった。



「ああ、よろしくな!死神!」


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