1話 物語の始まり
「僕の可愛いお姫様、まだお昼寝かい?」
温かくて優しい声が降り注ぐ。落ち着く低音にとろけるような甘い声、それが子守歌のように心地いい。
「んー」
とネマは言葉にならない声をあげ、とりあえず返事をした。
青々とした草原に降り注ぐ太陽が心地よくて、まだ起きたくないとネマは体を小さく丸めた。頭の天辺に生えた灰色の耳は折れ曲がり、尻尾は体同様に渦を描きコンパクトに収まっている。
夢と現実を往ったり来たりする中で、ネマはなんとか力をふりしぼって宙へ手を伸ばした。
「レイスも一緒に寝よ? きもちいーよ」
そう言って薄く目を開けばレイスは少し眉を下げ、こちらを見下ろしていた。
真っ白の肌に艶めく黒髪、黒曜石のような瞳は困ったように細められてはいるが、その奥は優しさで溢れている。
ネマの口から自然と言葉がこぼれ出た。
「大好きだよ」
同時に眠気が再び訪れ、逆らえずに瞳を閉じた。宙に伸ばした手は大きな手で包み込まれ、隣にレイスが座る気配がする。柔らかい青の敷物は、二人が寝転ぶには十分な広さがあった。
ネマの口角は無意識に緩く上がっていた。
――この幸せがずっと続きますように。
読んでいただき、ありがとうございます。
補足
現在、改行などの調整を一話から徐々に行っているため、読みにくい話があるかもしれません。よろしくお願いいたします。