いざ行かんイリアスの街へ
それからはたわいのない会話だった。
どこから来たのか、どんな国に住んでいたのか、取引は出来るのか、等々。
この辺の質問は来るだろうなと予想していた範囲だった。
俺はどこの国と言う質問に対してだけはガルド同様に日本と答え、他の大体の質問には記憶がないとはぐらかしておいた。
今嘘をついて後々バレるぐらいなら、はじめは隠して後々タイミングを見てばらした方がいいと思ったからだ。
いつの間にか雨もやみ、ガルドが俺が起きてから五本目の葉巻を吸いはじめた辺りで馬車の外から声が聞こえた。
「もうすぐつきます。」
この世界には禁煙者に配慮するという文化が全くないようで、この荷台の中が火災訓練用の煙ハウスのように曇りきってしまっていた。
イノシシを燻してる訳でもあるまいし流石にウザすぎて一言言ったろうかと思ったら商人のおっさんまで吸いはじめる始末。
ここで予想外に日本人を発揮してしまい言い出すタイミングを完全に逃すという俺にあるまじき失態をおかしていた。
多分今吸った副流煙で3年は寿命が縮まったと思う。
チキるんじゃなかった……。
マジで主流煙も副流煙も全部お前らの肺からでない魔法を生涯ずっとかけ続けたい……。
そう考えていたタイミングで馬車が止まった。
「お、ついたな。」
そういってガルドは足早に荷台から降りていった。
おい、タバコの吸殻も持ってけよクズ野郎。
「ダイくん、きっと今は身分証明書持ってないだろう。今回は私が払っておくから貸しにしておいてな。」
「え、あぁ、ありがとう……ございます? 」
商人のおっさんは、いいってことよと言いながら手をヒラヒラさせて街の近くにある関所のような場所に向かった。
しまった街にはいるのに身分証明書が必要なのは盲点だった。
払っておくってことはそもそも俺一人じゃこの街に入ることすら出来なかったのか。
「お、早速貸しを作っちまったな、ダイさんや。」
「なんだよ悪代官みたいな笑い方しやがって、こんなんだから大事な場面で他人に仕事という名の絶望を投げれんだよクズ野郎。」
「なんだダイお前、まだあれを根にもってんのか赤ちゃんかよ。お前が戦えるって分かったんだから結果オーライ。」
「こっちは助かったと思ったらまた死地に放り込まれた気持ちを分かって!! それをまず第一に分かって!! 」
ガルドのタバコのせいで精神衛生まで狂ってきたと心の中で思いため息をついた後空気を吸った。
関所の方では商人のおっさんが何か色々と話している。
すぐに終わると言っていたわりには時間かかかってるな。
そう思いながら眺めていたら、関所から二人ほど衛兵のような人が商人のおっさんと共に馬車の方に近づいてきた。
そうして先程まで俺たちが乗っていた荷台の中を確認した後俺に訪ねてきた。
「確かに魔法の攻撃もなければ傷跡も足跡のような凹みだけ。……確認の為に聞くが、本当に魔法は使っていないんだな。」
「あ、はい。」
「記憶もなく身分証明書もなく魔法も使えないか。怪しすぎて本来は入場させられないが、今回に限ってはエリクソンの頼みということもあるから一応許可する。ーーくれぐれも変なことはしないように。」
エリクソンって誰だと一瞬頭に?が浮いたがガルドが商人のおっさんだと耳打ちしてくれて納得した。
わりと本気でお世話になってしまった。
「じゃあ、行こうか。」
街を囲う壁をマジマジと見る。
そうすると、改めて俺は異世界にやってきたんだとそういう気持ちになった。