馬車のおっさん
気を取り直して馬車への道のりを何故か不本意ながらガルドの護衛として進むことになった俺は手当たり次第に襲い掛かってくる小型の生き物たちを鼻歌交じりに蹴ったり殴ったりしていた。
もはや襲い掛かってくるのがモンスターなのか普通の生き物なのかの違いすら分からん。
俺個人としてはパンチングゲームの敵キャラ並みにリアルで吹っ飛ばれるのを見るとこの世界すらパンチングゲームと化しているのかと錯覚してくるからもうわりと殴るのはおなか一杯。
既にかなり多くのモンスター達を殴り飛ばしてきたがいつ頃馬車に着くのだろうか。
「まさか……謀ったか? 」
「謀ってない、もう着くぞ。」
俺の心を読んできたようにそう即答したガルドは、行きに木に貼り付けていたのであろうリボンのような道しるべを剥がしてイノシシもどきもといピッグブルを担ぎ直す。
こういうところも魔法でやればいいのにと先ほどぼやいたところ、「俺はそんなに魔力の多いほうではないから節約できるところは節約している。」と言われた。
これには納得した。
そこから5分程度歩き最後の道しるべを剥がしたところで、森の奥のほうに光が差し込んでいるような場所が見えた。
森の端に近づくにつれてモンスターの数が明らかに減っていったことを考えると森の中からモンスターがあふれ出るということはあまり起きないのだろう。
「おー、随分とかかったな。って、何か一人増えてる。」
森を抜けたところで小太りのアロハシャツのような服を着ているおっさんが声をかけてきた。
「まぁ、拾ったというか付いてきたというか。」
お前の護衛をしてたんだろうがボケ。
結果論だが馬車に乗せてもらうのはその対価報酬ってことよ。
「なるほど……なのか? それよりもこんなデカいピッグブルは久々に見たぞ。武器による傷もないみたいだが血抜きはしたのか? 」
「街まで近いしそれに店にそのまま卸すから下処理は何もしてない。というか傷がないのは隣のコイツ、ダイが一発で蹴り殺したからだが。」
行商人は口を大きく広げて俺を見つめてきた。
今日は他人から見つめられることの多い日だな。
目をぱちくりさせて驚いているようだったが、ピッグブルはどこの子供でも倒せるっていうんならそんなに驚かなくてもいいのに。
「蹴り殺した……お、お前さんがやったんか。冒険者なのかい? ランクは少なくともB以上か? 」
「うーん、俺が倒したのは間違いないが冒険者というやつではないよ。」
少なくとも冒険者という役職に就いた覚えはないし、ついてないからといって襲ってきたモンスターを返り討ちにしてはいけないというようなこともないはずだ。
でも冒険者というのがあるってことはギルド的な場所で依頼を受けられるかもしれないな。
もしかしたら日銭で食い扶持を稼ぐこともできるかもしれない。
「……凄まじいな、何系統の魔法を使えるんだ? 」
「魔法なんか使えん。」
「ありえないぞそんなの……。」
ガルドがしまったというように頭に手を当てているがしったことか。
俺は魔法が使えないし使ったこともない。
それでも、現状使えないかもしれないってだけでもしかしたら使えるようになるかもしれないだろ。
希望を捨てんなよ。
「と、とりあえず、話は荷馬車の中で聞こう。お前さんたちは後ろの荷馬車にのってくれ。」
お、やっと安心安全の馬車に乗れるぞ。
聞いたところによると一番前の馬車の周りに立っている2人はおっさんの専属護衛だそうでおっさんの馬車をモンスターから守っているそうだ。
つまり俺がモンスターを殴って肉塊にする必要はもうないってことだ。
開放感が半端ない。
俺とガルドは言われた通り2台の内の後ろの荷馬車にピッグブルごと持ち込んだ。
ガルドはピッグブルを適当に荷台に起きその隣の長椅子のように出っぱっている所に座った。
俺もガルドの真向かいに座る。
「大体ここから3時間ほどでイリアスという街に着く。そこは王国の最西端の街でそこから更に西に行くとご存じこの森にたどり着くってことよ。」
「へぇ、俺はとりあえずじゃあそのイリアスの街ってところで当分生活しないといけないってことか。」
「ま、知り合いが俺以外にいないならそういうことになるな。」
そうガルドは言うと胸元から葉巻のような包みを取り出し、指の先端に火を灯してその葉巻に火をつけた。
お前もいるかと進めてきたが未成年にタバコを進めるとはとんだイカれたジジィだと思いその提案を断った。