初戦闘はかっこつけたい味
それからというもの、大剣の男の背後に隠れながら四方八方から見境なしに襲い掛かってくるモンスター達がバッタバッタとなぎ倒され、途中からあれ、ひき肉でもつくってるんかと思うまでにスパスパと切り刻まれていく様子を「それーほれーやったれー」と応援的な意味合いも込々に効果音付きで実況した。
どうやらここから少し森の中を歩いた先には大きな草原が広がっているらしく、街道は整備されてはいないものの馬車をとめてあるらしい。
俺は男のその馬車に乗せてもらい最寄りの街まで送ってもらえるようだった。
「その意味の分からない掛け声はやめろッ!! ここら辺のモンスターは大して強くないとはいえお前のそれはかなり鬱陶しい! 」
イノシシのようなモンスターと鍔迫り合いのような力比べをしている最中に男がわざわざこちらを振り向いてそう叫んできた。
ちゃんと集中して戦わなきゃダメだってお母さんに習わなかったんか全く。
「ブーブーそんなんじゃ強くなれないぞー。」
「お前マジでおいてくぞ。」
なんだってんだ器のちっちゃいやつめ、デカいのはその図体だけですかってんだ。
きっとこいつの一物も小さいに違いない。
よしお前のあだ名はこれからポークピッツだ。
「やったれポークピッツ! そのままそのイノシシもどきをぶっ倒せ! 」
「じゃあお前がやれ。」
「ゑ? 」
先ほどまでの筋肉同士の拮抗がまるで嘘のようにポークピッツがひらりと体をまるで闘牛士のようにひらりと躱し、イノシシもどきの進行方向をこちらに微調整するかの如くきれいにその力をこちら側にいなした。
それと同時に一体何トンあるのかもわからないような巨大なイノシシもどきが俺の方向に爆速で向かってくる。
あのポークピッツ野郎やりやがった。
こんな無邪気でいたいけな少年のほうにこんな悍ましいモンスターを放るなんてどんな業を背負っていればそんなことが出来るんだ。
カルマよあいつを呪ってしまえ!
「—————————くッ!!! 」
俺は間一髪で右側にダイビングし猪突猛進ドスイノシシをかわした。
躱されたイノシシもどきはもうすでに俺に対してターゲットをロックオンしたようで、ポークピッツの方など既に見向きもしない。
弱い者いじめはダメって自然界では通用しないんでしょうか。
「っちょこんなの無理だって! せめて戦い方教わってからにさせては貰えませんかねぇ!? 」
俺は救いを求めるような上目遣いでポークピッツのほうを見たが、あちらとしては全く手伝う気がないらしい。
もう大剣を地面にぶっ刺して腕まで組んでやがる。
「いやー確かにサイズはデカいがこのモンスターならド田舎のガキでも狩れるぞ。」
「ダウトー。」
これだけは断言させていただきたい。これは子供には絶対に狩れん。
仮にこいつをそんな簡単に狩れるなら多分おれがこれから行く街は絶対にこの人外魔境の森よりも人外魔境に違いない。
でも現状こいつの馬車に乗って街に行く以外の生存ルートがない今、イノシシもどきと追いかけっこを行っても待ち受けるのは死のみだ。
いけるのかは分からんが戦うしかねぇ。やらないとやられる。
Uターンドリフトばりの砂煙を上げながら体勢を立て直すイノシシもどきは後ろ脚で何度か地面を踏みしめた。
ためを作った後、轟音のいななきを地面に伝えながら俺に向かって一直線に向かってくる。
やるならぶつかる直前、あいつがでけぇ頭を俺にあてるために顔を下に向けた瞬間しかない。
俺は覚悟を決め爆速で迫りくる眼前の敵を見据えた。
「—————————————————こッこッだぁぁぁぁあああああ!!! 」
イノシシもどきとの距離が約2メートル程になった瞬間俺は横に、俺の最強の内転筋を駆使した華麗なサイドステップを発動し、もはや完全に地面を見て突き進むイノシシもどきの脇へと移動する。
あわれかなイノシシもどきよ、チェックメイトだ。
お前がこの俺様を標的にした時点でお前の命の灯は風の前の塵に同じだったのだよ。
「うなれ、俺の右足!! とりあえず強めのキィィィーーッッッッック!! 」
俺のスニーカーの裏から発せられた強めのキックはイノシシもどきの腹部を完璧にとらえた。
情けない声を出しながら先ほどのモンスター同様に見事に吹っ飛んでいくイノシシもどき。
可哀そうだとは思わないぞ。後で焼肉にしてやるから安心して天に召されるんだ。
それよりも、明らかに俺のキックの能力が異常なまでに伸びている。
俺の身体能力がこの世界に来て上がってるのかもしれないな。
「またつまらぬものを切ってしまったか……。」
「切ってないわ、蹴ったんだよ。」
違うこれはこういうものなんだ、これだからテンプレを知らぬ野蛮人は。