序幕
『ウィンク』
事象改変―かつて魔法とも呼ばれた現象―を現実に行うために作られた装置を指す。
コンタクトレンズ状のディスプレイで補助をする。事象改変時に表示される紋章―正確には魔法による力の流れ―を表示させることから、刻印とも呼ばれる。
この力の流れは、生命に集まる「フロイダ」を元に発動していた。
初めてその「フロイダ」を観測したのは、物体を光速に近づける実験を来なっていた際の出来事だという。
かつて人は、「フロイダ」を「温感」や「触覚」などの感覚で捉えていたものの、実態としてそれがつかめずにいた。それらは東洋医学で「気」などという風に呼ばれていた未知のエネルギーであったが、「可視化」することに成功したのは、『ロトゥス・セグマ』という天才がいたから成しえた事だろう。
そして、それをサポートするのが『ウィンク』という装置という訳である。
視覚的にサポートすることで、自身の保有する「フロイダ」残量の確認と実際に事象改変を行うことができるようになった。このことから、「第六感の視覚化」を行ったといわれていた。
しかし、多くの人の場合、その事象改変を行うことよりも、日々の生活において簡単に、しかも高度な拡張現実世界を体験することの方が興味をそそられる事だっただろう。
生活の様式もすべてがそれに準拠して作り替えられた。
すべてそれを目につけていれば、行えてしまう。パソコンの代わりに小さいストレージを腰にぶら下げるだけでいい。
ウィンクは、拡張現実によって人を電子の海へとより簡便に繋げられるようになったのだ。
セグマは自身の開発について、魔法を現実の物とするという目的以外にこうも述べている。
「この装置で、より手軽に、そして確実に現実に仮想を放出することができるようになった。しかしそれは、確実に仮想に収束する世界を作ることになるだろう。それが私には正しいのか分からない。私はただ、それを見たかっただけだ。」