そのパターンは前に見た
「何やってんだよお前は!?」
異世界に来て、更に言うとスタットの町に来てから数日が経過した。
少しは住み慣れてきたこの町に、俺の叫びが響き渡る。
「だ、だって……困ってたみたいですし……」
「それで有り金全部失ってたら世話ないだろ!」
俺の叫びの原因はユニのお人好しが原因だ。
先日の爺さんに騙されかけた時もそうだったけど、こいつは困ってる人を見ると助けずにはいられない性分らしく、俺が見てない間にこの近辺にあるラムルの村という村にある孤児院に有り金を渡したり、挙げ句の果てに別の詐欺にあって持ち金を全部取られたらしい。
「どうすんだよ……もうすぐ宿泊代分の日数は過ぎるぞ……そうなったら延長代を払わないといけないってのに、その金すらないし……」
「うっ……タクトだって無駄にお金を使ってるじゃないですか! クエストでどれだけ稼いでも酒場なんか使い果たしてしまって!」
「その点に関しては全く否定出来ない! けどいい加減人を疑うことを覚えろって!」
言い訳をさせて貰うと、冒険者たちと仲良くなるためには酒を飲み交わすのが1番手っ取り早い。
これだとまるで人付き合いで飲んで帰って奥さんに言い訳するサラリーマンみたいだな。
「ついでに言うと冒険者と仲良くなっていろんなスキルを教えてもらってるんだよ! ただ無駄に金使ってるわけじゃない。人脈を作ってるんだ」
「それは綺麗なお姉さんがいるお店じゃないと出来ないことなんですか?」
「……とりあえず明日の宿代だけでも稼がないとな。ギルドに行こうぜ」
「あっ、今話を逸らしましたね!?」
俺は耳を塞いで聞こえない振りをして歩き出した。
☆☆☆
「あ、タクト。相談なんですけど」
「相談? あとじゃダメなのか? 今は少しでもいいクエストを選別する作業で忙しいんだけど」
……ダメだ、報酬がいいのは難易度が高いモンスターの討伐だけだ。
燃え盛る爆炎熊だとか水中にいるシードラゴンの討伐とか、死ぬ予感しかしない。
いくら加護があるとはいえその攻撃に比例した痛みはくるわけで……。
「ではそのまま聞いてください。そろそろパーティメンバーを募集しませんか?」
「パーティメンバー?」
ユニの言葉に俺は思わず作業の手を止めて、ユニの顔を見た。
「はい、2人で出来るクエストにも限界がありますし、人が増えるに越したことはないんじゃないでしょうか」
「……一理あるな」
人数が増えれば多少強いモンスター相手でも立ち回れるようになるだろうし、報酬もその分良くなって、レベルも上がって強くなる。
「今の俺たち2人から考えて、バランス的に後衛……魔法が得意な奴か、回復が出来る奴かだよな」
「ですね。私もレベルが上がって色々と魔法を覚えてますけど……専門職の方がいるのは心強いですし」
頷き合って、受付にパーティ募集のことをお願いすると掲示板に俺たちのパーティの情報が張り出された。
「よし、とりあえず行こう」
「いいクエストがあったんです?」
「いや、とにかく明日の宿代と今日の飯代だけ辛うじて稼げそうなしょっぱいやつしかなかった」
冒険者って貧乏になりがちなんだなぁ……ゲームだとモンスターを倒しただけで簡単に金が稼げるからもっと楽なもんだと思ってた。
「……最悪、王都の城に泣きつくか」
「やらせませんよ。そんなことをしたら私はこれからお城の皆にどういう顔をすればいいんですか」
「野宿になってまともに飯を食えない状態を見せるのとどっちがマシだろうな」
「…………………………だ、ダメですよ、やっぱり自分たちでどうにかしないと」
こいつ今ちょっと揺れたな?
まぁ、もういいか。少しでも早くクエスト終わらせればまた別のクエスト受けられる時間が出来るしとっとと行こ。
今日のクエストはいつもお世話になっているリトルリザード先輩の討伐だ。
「ユニって今レベルいくつだっけ?」
「4ですね。タクトは?」
「俺は3。やっぱお前の方がいつも多く討伐してるからな、俺より高いか」
ギルドを出て町の外へと向かう。
「あ、う……」
その途中、誰かが俺たちの前で倒れた。
見たところ、女性だ。
赤を基調にした服を着て、手には杖を持った黒髪の女性。
「だ、大丈夫ですか!?」
ユニがその女性に駆け寄って行く、が……。
なんだろう、俺はこの光景を前にも見たような気がする。
「ご、ごめんなさい……ここ数日間何も食べていないせいで――」
「――よし、ユニ。早くクエストに行くぞ」
俺はユニの手を掴んで立ち上がらせて、その場を足早に去ろうとする。
「ちょっ、ちょっと待って! 普通この場面で見捨てて去ろうとする!?」
黒髪の女性が背後から切実な声で叫んでくる。
「うるせえ! こちとら数日前にじじいから同じ方法で金騙し取られそうになってるんじゃ! 何度も同じ手にかかるか!」
「待って下さいタクト! あの方が嘘を吐いているようには……!」
「お前それでこの数日の間にどんだけ騙されかけた!? 言ってみろやおぉ!?」
流石に自覚があるのか、ユニはぐっと口を噤み、俺と背後の女性を見比べ……。
「ごめんなさい! 私は無力で一文無しです!」
どうやら自分がお金を持っていないことを思い出して女性を見捨てる選択が取れたらしい。
「ま、待って……お願いだから……」
「しつこいな……その手には乗らな――」
――くぅー、ぎゅるるるるるる!
「……とりあえず、ギルドで何か食うか?」
その音が盛大に俺の鼓膜を揺らして、沈黙が場を支配した。
静まり返る中、女性が涙目で顔を真っ赤にして突っ伏すのを見た俺は、いたたまれなさすぎて飯を奢ると言わざるをえなかった。
☆☆☆
「本当に助かったわ。ありがとね」
「いや、それはいいんだけど……あんた普通に冒険者だろ? クエストで稼げばいいんじゃないのか?」
「そ、それはその……やむを得ない事情があるのよ……」
そう言って、黒髪の女性は冷や汗を流しながら目を逸らした。
「そういえば、まだお名前を聞いてませんでしたね。私はユニア・ラプラスと申します」
「ラプラス……ってあなたが噂の王族の姫なのね。あたしは……ミア。アカツキミアよ」
……アカツキ?
「もしかして同郷の日本人か? 俺は神篠拓人だ」
「そう、タクトくんって言うのね。その通り、あたしは日本生まれの日本育ちよ」
「へぇ……黒髪だけど赤目だったから、てっきりこっちの人間かと思ってた」
ミアと名乗った女性は、黒髪をぱっと手で払うと何故か自慢げに微笑んだ。
ふむ、最初見た時は落ち着いて見ることが出来なかったからただの詐欺師かと思ったが、こうして見るとかなりの美人だ。
それに大人っぽさと出るとこが出たスタイル……悪くないな。
「こっちに転生させてもらうときに神様にお願いしたの。目は赤目にしてほしいって」
「そんなキャラクタークリエイトみたいな真似が出来んのか」
だったら俺はイケメンにして身長も伸ばしてほしい。
そして美少女とイチャイチャしたい。
「それにしても転生者か……失礼ですけど、ミアさんっておいくつ? 俺とそんなに変わらないよな?」
リョータにも同じことを聞いた気がする。
まぁ異世界転生をするのは大体俺と同じぐらいの奴らだろうけど。
「17よ。あと、ミアでいいわ」
「んじゃミア。ミアはどうしてこの世界に?」
尋ねるとミアはふっと遠い目をして、語り出す。
「欲しかったラノベとゲームの発売日に引きこもりが重たい体にむち打って出かけたら出先でトラックに轢かれたのよ」
「すげえ……! 絵に描いたようなテンプレ異世界転生者だ……!」
王道過ぎる異世界転生者に、思わず俺は町中で芸能人に会ったみたいなテンションになってしまった。
「あの、そろそろクエストに行きませんか?」
「おっとそうだな。……じゃあ、ミア。またな」
「……ちょっと待って。あたしも一緒にそのクエスト受けてもいい?」
俺とユニが立ち上がると、ミアが呼び止めてそう提案してきた。
……悪くない提案だ。
装備的にミアは魔法を得意とする職みたいだし、俺たちのパーティ募集の要項にも条件は合致してる。
「もちろん歓迎です! ちょうど今パーティの募集をかけていて、後衛の職業の方を探していたところなんですよ」
「それならちょうどいいわね。あたしの職業はウィッチ。魔法は大得意だから」
「ウィッチ!? ウィザードの上級職じゃないですか! 失礼ですけど、冒険者カードを見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ」
「ありがとうございます。……す、すごいステータスですよ、これ!?」
ユニがミアから渡されたカードを見て、驚愕の声を上げると俺に見えるように近寄ってきた。
「魔力と魔法攻撃力がアンノウン……レベルは7か……ってことはこれがミアが転生時に貰った能力か」
「ご明察。魔法使いに特化してくださいってお願いしたの。せっかく異世界に行くんだから魔法を使うでしょ? それならそっち方面に特化させたいじゃない?」
分かる、魔法はロマンだ。
日本から来た転生者や召喚者なら魔法という単語にときめかないはずがない。
「じゃ、早速その実力を見せてもらおうかな」
「……えぇ、任せておいて」
何故か若干目を泳がせたように見えるミアは、取り繕うようにウィンクをしてきた。
なるほど……ウィッチか。なんて大人の色香を交えた魔性の職業なんだ。
行き倒れかけた魔法使いを仲間に加えた3人で、俺たちはクエストを達成すべく再び町の外へ向かった。