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ある日、あの場所、異世界で  作者: 戸来 空朝
6/7

異世界転生者との遭遇

「全く、夜が明けてから帰ってきて……その上お金を全部使ってるなんてどういうことなんですか!」


「うっ……えっぐ……だっで! お姉ざんがザービズじでぐれるっで言うがら!」


 夜の町に繰り出した俺は、クエストで手に入れた報酬も王都で旅立ちの際にもらった金も謝礼金も全て使い果たした状態で宿に戻ってきた。

 金を全て失った悲しみで顔を涙や鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、待ち構えていたユニに正座をさせられて説教をされている真っ最中というわけだ。


 事の発端は、昨日の夜の時間に遡る――。




「さて、まずはどこに行こうかな」


 どこかに行こうにも、この町の情報を知らないし……まずは情報収集を兼ねて人がいそうな所に行くのがいいよな。

 ……ギルドの酒場に行くのがいいか。あそこになら必ず誰かいるし。


「なぁ、アンタ!」


 とりあえずギルドに行って……他の冒険者からスキルを教えてもらうのもいいな。


「アンタだよ! ……おい、カミシノタクト!」


「……ん?」


 名前を呼ばれて思わず振り返った。

 

「お前誰だよ?」


 振り返った先にいたのは、茶髪でパーマがかかったような癖毛をした、俺より少しばかり身長が高い男だった。

 当然、この世界に来たばかりの俺に町中で話しかけてくるような知り合いなんていない。


「おっと、そう警戒しなさんなって。同郷のよしみで仲良くやろうぜ」


「そりゃ警戒するだろ。会ったことも話したこともない奴が名乗った覚えのない俺の名前を呼んでるんだから……」


 というか、こいつ今同郷って言ったか?


「へぇ、さっすが。ラプラス王家に召喚された勇者さまってところか」


 ぴゅーっと甲高い口笛を吹くその男に俺は訝しんだ目を向けて――。


「ストーカーだぁ! 助けてくれ、男にストーカーされてる! ここにホモがいます!」


 大声を張り上げた。

 周りの道行く人たちが立ち止まり、俺たちを見てひそひそと会話をし始める。

 

「ちょっ!? 待て待て待て! オレの話を聞けっての!」


「黙れホモストーカーめ! 言い訳なら然るべき場所でするんだな!」


「だーかーらぁ! 違うって言ってんだろ! というかその前に同郷だってことにツッコめよ!」


「嫌だ! 男にツッコまれるのもツッコむのも俺の趣味じゃねえ!」


「クッソ! さてはアンタわざと誤解されるような言葉を選んでやがるな!?」


 叫びながら全力疾走するが、どうやらこの男は俺よりも敏捷のステータスが高いらしく、すぐ後ろに追いすがってきていた。

 腰にダガーを付けて軽装装備をしている辺り、一般人じゃなくてギルドに登録している冒険者と考えるのがいいだろう。


「はぁ……はぁ……」


「はっ……はっ……」


 ひとしきり全力疾走をし終えた俺たちは、町の中心から少し離れた人気のない場所で立ち止まり、2人して膝に手を付いて息も絶え絶えになっていた。


「どうして俺がこんなに走らないといけないんだ……もう風呂入ったつうのに」


「アンタがオレの話を聞かないからだろ!」


「そりゃ名前知られてるし相手がチャラ男っぽい見た目の奴ときたらそっちの気を警戒するのが筋ってもんだろうが!」


「考え方が突飛過ぎるっての!」


 あとは単純にそこそこ見た目がいい男がキザったらしい仕草で口笛なんて吹きやがったからムカついた。

 同郷って単語も気になったけどイラッとしたのが勝っただけだ。


「……で、お前本当に誰だよ。同郷って言ってたし、お前も日本から来たんだよな」


「そうだよ。オレの名前は高坂涼太。高い坂に涼しい太郎で高坂涼太だ。リョータでいいぜ、兄弟」


「勝手に兄弟を名乗るな。胡散臭すぎる」


 素性がはっきりしたところで、まだもう1つ疑問が残ってる。

 

「んで? どうしてそのリョータくんとやらは俺の名前を知ってたんだ? 答え次第によっては警察沙汰にするぞ」


「アンタ一々発想がケンカっぱやすぎだろ……オレは異世界転生者なんだよ。アンタのことが分かったのはオレが転生する時にもらった能力のおかげだよ」


「能力ぅ?」


「知りたいことを何でも知ることが出来る全知全能の力だ。オレはこの能力を活かしてこの世界じゃ情報屋として活動してんだよ」


 なるほど、それで俺のことを知ってたのか。

 

「転生者ってことは向こうの世界で死んだってことか? 見たところ俺とそんな歳変わらないのに」


「あぁ。4股かけてたのがバレて刺された」


 マジかよクズかよ。


「一刺しで命落とすって心臓でも一突きされたのかよ……物騒すぎるし怖えよ」


「いや、死因は刃物4箇所による失血死だ」


「全員から一太刀浴ずつびせられてやがった!?」


 というかそんな生々しい話が出てくるとは思わなかった。

 聞いたのは俺だけど、聞いたことを後悔した。


「……どうしてその能力なんだ? 確かにすげえ力だけど」


「あぁ、可愛い子のあんなことからこんなことまでも分かるからな」


 マジかよ神かよ。


「ついでに神様めっちゃ可愛かったぞ」


「羨ましいからもう1回死ね」


「死んだらアンタも会えるぞ」


「その手があったか」


「ただ、アンタの場合加護があるから外傷じゃ死ねなさそうだけどな」


「ガッデム!」


 くそっ、なんて使えない加護なんだ!

 絶望に打ちひしがれて、俺は地面に両膝ついた。


「まーまー、そんな凹みなさんなって。いいこと教えてやるから。相応の金は貰うけどな」


「金取るのかよ……ならいい……」


 凹んでるってのに金まで取られて懐まで寒くなってたまるかってんだ。


「そうか。綺麗なお姉さんがいる店のことなんだけどな」


「詳しく。いくら払えばいい?」


 凹んでる場合じゃねえ。

 こんなもんはした金だ。


「あと、アンタのパーティの姫様が風呂に入った時にどこから洗うかも知りたくないか?」


「今日から兄弟だ。よろしく、リョータ」


「毎度あり。今後ともよろしくな、タクト」


 俺はリョータと肩を組んで綺麗なお姉さんがいる店に向かった。

 リョータが俺に声をかけてきたのは俺と関わった方がリョータにとってプラスになるんだとか。

 あと、ついでにあまり能力を悪用するとこの世界を見ている神様から天罰が下るだとか能力を取り上げられるだとか。

 もう1つついでに言うと、俺と同い年だった。


☆☆☆


「タクトはもう少し勇者としての自覚を持ってください」


「悪かったって。成人してるわけだし、初めて酒を飲んでちょっと悪酔いしてたんだよ」


 ジト目で俺を睨んでくるユニに平謝りをしながら、俺たちはギルドに向かっていた。

 俺の金がなくなったからクエストを受けて稼がないといけないせいだ。

 ユニはレベルを上げるために付き合ってくれるとのこと、感謝。


「う……うぅ……」


 ギルドに向かっていると、俺たちの目の前で老人がばたりと倒れた。

 なんだなんだ?


「大丈夫ですか!? どうしたんですか!?」


 ユニが老人に駆け寄って、傍にしゃがむ。

 なんというか……今この爺さん元気に歩いてて俺たちの前で急に倒れたように見えたんだけど、気のせいか?

 ユニの方を見てて前をちゃんと見てたわけじゃないからなんとも言えないけど。


「あ、あぁ……申し訳ない……お恥ずかしながら、お金がなくて、ここ数日まともに食事を取っておりませんで……」


「それはいけません! おじいさん、私のお金でよければ……」


 疑う様子すら見せないユニは、財布からリシナ札を1枚取り出して爺さんに差し出した。


「いえ……これを受け取ったところで、家賃すらまともに払えない状態……私はこのまま静かに朽ち果て、妻の元に行こうと思います……」


「諦めないで下さい! ……そうだ、それならこのお財布ごと受け取ってもらえませんか? この中には贅沢をしなければしばらくは生きていけるだけのお金があります」


 こいつマジか。躊躇なく財布ごと差し出したぞ。

 

「ほ、本当によろしいのですか?」


「はい。私たちは冒険者。クエストを受ければ稼ぐことが出来ますから」


 にこり、と聖母のような笑みを浮かべるユニと目の端に涙を浮かべる爺さん。

 傍から見れば感動的な場面だが、俺はどうしても違和感が拭えずに疑いを続ける。


「ありがとうございます、ありがとうございます! この恩はいつか必ず……」


「お礼なら、あなたがちゃんと天寿を全うし、亡くなられた奥様に会えることが私にとって1番のお返しですよ。では、お気を付けて」


 感涙をし、蹲る爺さんにもう1度微笑みを向けて曲がり角を曲がったユニを追って、俺も曲がり角を曲がる。


「……なぁ、悪い。ちょっと用事思い出したから先に行っててくれ」


「用事? 一体なんです?」


「ちょっとな。気になるなら俺を見てれば分かる。勘違いならそれでいいんだけどな」


「えっと?」


 首を傾げるユニに背を向けて、俺は今来た道を戻る。

 そこには――。


「ひゃっほう! 儲けた儲けた! 今日はぱーっといこうかのう!」


 腹が減って倒れていたはずの爺さんがウッキウキでスキップをしてはしゃいでる姿があった。

 俺はダッシュで近づいて、そのまま爺さんにドロップキックをかました。

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