どうも、量産型勇者です
「これが冒険者ギルド……」
数日分の宿の部屋を借りた俺たちは、スタットの町の中央に位置する一際存在感を放つ建物の前に立っていた。
ちなみに、部屋は別にする派のユニと金の節約を口上に断固同部屋派の俺による醜い小競り合いが宿屋の受付のお姉さんを大いに困らせた。
はいはい、ロリコンじゃないけどぶっちゃけ美少女と同じ部屋に寝泊まりしてみたかっただけですよ。
「早いとこ中に入って登録を済ませようぜ。色々と要領を掴んでおきたいし」
「は、はい。タクトは緊張しないのですね」
「そりゃ急に召喚されるなんてこと経験すれば多少のことでは緊張しなくなるだろ」
尻込みしているユニが背後をちょこちょこと付いてきているのを確認しつつ、酒場のような空間に併設している受付のスペースへ。
すると、受付嬢のお姉さんがにこり、とパーフェクトスマイルで俺たちを出迎えてくれた。
……ふむ、なるほどな。
「す、すすす、すみません……あの、ですねぇ……!」
「噛みっ噛みの上に緊張しまくりですよね!? さっきまであんなに堂々としてたのに、緊張しないっていうのはなんだったんですか!」
「バッカ! 美人なお姉さんに微笑まれて緊張しない男はいねえよ! なめんじゃねえぞ!」
「なんで私が怒られてるんです!?」
ビジネススマイルだと分かっていても、その笑顔は俺から軽く平静さを奪うぐらいの威力はあった。
「あ、あの……冒険者の登録でしょうか?」
「……はい。お願いできますか? 綺麗なお姉さん」
気を取り直した俺は、ドン引きした様子のお姉さんの言葉にキメ顔をしつつ、自分に出せる最大限の爽やかさをまとった声で応じる。
「あれだけ狼狽えておいて、今更カッコつける方がカッコ悪いと思います……」
うるさい、外野がうるさい。
「ではこちらのカードに触れてください。登録が終わればステータスや様々な情報が浮き出てくる仕様になっていますので」
差し出された2枚のカードの内1つに触れると、ユニも恐る恐るといった感じでもう1枚に触れた。
「カミシノタクト様……ですね。ステータスは……えっ!?」
受付嬢のお姉さんが俺のステータスを確認して、驚いている。
そんなに驚くようなことが書かれていたんだろうか。
確かに加護のこともあるし、何も知らないとそういう反応にもなるか。
「あの……?」
「防御力と魔法抵抗力、魔法防御力がその……アンノウンと出ていまして……つまりは測定不能なんです」
これではっきりした。
俺に与えられた加護は物理どころか魔法にまで耐性のあるものらしい。
「それ以外はどうなってるんですか?」
「攻撃力と敏捷値は平凡で魔力も並程度で……知力と器用度は高めですね。えっ!?」
またお姉さんが驚きの声を上げた。
「まだおかしなことでも?」
「本来なら、登録時の初期ステータスで選べる職業も決まってくるのですが……カミシノ様の場合、勇者で固定されちゃっているみたいで……」
「なるほど……勇者という職業が珍しくて声を上げてしまったと」
「あ、いえ。勇者という職業を初期から選べる人自体は結構頻繁に現れますので」
俺の優越感を返せ。ちょっとどや顔しちまったじゃねえか。
というか勇者になれる素質を持った奴多すぎだろ。
「ただ最初から勇者で固定というケースは初めてですね」
俺は引っ込めかけたどや顔をもう1度して、カードを受け取った。
魔王と戦うのはマジで嫌だし、納得もしてないけど、世界からも勇者として扱われてるのは悪くないな。
「あの、私もお願いします」
「はい。承りました。……ユニア・ラプラス様……ラプラス様!? もしかしてラプラス王家の!?」
お姉さんの驚いた声に呼応するように、ギルド内にざわめきが広がった。
……あれ? 俺の時よりざわめいてない?
「は、はい。国の決まりで……お世話になります」
「い、いえ! こちらこそ! すみません立たせたままで! 誰か1番いいお茶とお菓子を持ってきて!」
「あぁ! やめてください! 私は王家関係なく一介の冒険者として扱われたいんです!」
俺の時と扱いが雲泥の差過ぎる。
ギルドの偉い人までもが表に出てきて挨拶し始めたし。
ユニの周りに冒険者たちも集まり始める中、俺はぽつんと無人になった受付の前に立ち続けて、騒ぎが沈静化するのを待った。
……我、これでも一応勇者ぞ?
勇者という存在が珍しくないとはいえ、これはあんまりじゃないですかね。
☆☆☆
「ふぅ……ようやく解放してもらえました」
人に囲まれに囲まれていたユニは立つのに疲れて酒場のテーブルの1つに陣取っていた俺の元へようやく戻ってきた。
「あ、お疲れ様ですユニ様。お腹空いてたんでお先に食事をさせていただいております」
リトルリザードというこの辺りではメジャーなモンスターの肉を咀嚼しながらユニを迎え入れて敬う。
「えと、あのタクト? どうしてそんな口調なんです? いつも通りでお願いしたいんですけど……」
「いやいやいや、いつも通りだなんてとんでもない。自分は頻繁に現れる内の1人のただの量産型勇者っすから。王族の血筋で本物の英雄たり得るユニ様にタメ口なんて、とてもとても」
しっかしこの肉硬めだが、それもまた歯応えもあって美味いな。値段も安いし。
「どうして急にへりくだるんですか!? いつも通り接してくださいよ! あ、私もお肉を少しいただいてもいいですか? お腹が空いてしまって」
「いやいやいや、天下のラプラス王家のお姫様にこんな安い肉は食べさせられませんって。……おいラプラス様が料理をご所望だ! この店で出せうる限りの最高の料理を用意しろ!」
「た、ただちに準備致します!」
俺が声をかけると厨房のシェフたちが慌ただしく動き始めた。
人が必死に労働に勤しんでるのを見ながら食う飯は格別に美味いな。
「や、やめてください! 一体なんの嫌がらせですか! さては自分があまり注目されずにぞんざいな扱いを受けたことを拗ねているんですね!?」
「はぁ!? 拗ねてねーし!? 俺の見せ場を取りやがってとか思ってねーし!」
実際はそれとさっきのことに対してちょっとした鬱憤晴らしだ。
「思ってるんじゃないですか! いつも通り接してくれないと本当に怒りますからね!」
俺って割と立場が上の奴に対してはへりくだってるしいつもこんな感じだと思うんだがなぁ。
自分で言ってて悲しくなってくる。
「で、お前の職業は?」
これ以上長引かせるとどうにも面倒なことになる気しかしなくなってきたので、引き際を見極めた俺は職業のことを聞いた。
「私は攻撃力や魔力などのステータスが高いらしくて、悩んだのですがホーリーナイトに決めました」
「名前の感じからして凄そうではあるけど、この世界の知識がなさ過ぎてどう驚けば良いか分からん」
とりあえず聖騎士と呼ばれる類いのものだってことは分かったし、こいつの王家の潜在能力を見てもなるのが難しそうな職業だな。
というか、姫で騎士って……くっ殺的なあれしか想像出来ない俺は汚れてますか? 汚れてますね。
「そうですね……聖なる者としての職業を挙げるなら、他にクルセイダーやプリーストの上位職であるホーリープリーストなどがありますね」
「なるほどな。聖なる者の適性を持つ奴が攻撃面が強かった場合ホーリーナイト、防御面のクルセイダー、治癒面ならホーリープリーストってことか」
「です。……ってなんですか、その顔」
「いや、攻撃面が強いってことはお前実は暴力的……」
「私が暴力的かどうか、試してみますか?」
にこり、と見惚れるような笑みを向けてきたユニに、俺はそっと目を逸らした。
あの目はやばい。その気になれば魔法で消し炭に出来る目だ。
やっぱり暴力的じゃないか。
「タクトの勇者という職業の特性もお話しましょうか?」
「なんとなく想像は付くけど、頼むよ。ユニ先生」
「先生……」
俺の言った先生という呼び方がちょっと気にいったのか、ユニはこほんと軽めに咳払いをして語り始めた。
「まず、勇者という職業は冒険者の上位職に当たります。その特性はスキルを覚えることに制限がないことになりますね」
「つまり……どんなスキルでも覚えられるってことか?」
何それチートじゃん。
俺勇者で良かったわ。量産型だけど。
ちなみにスキルを覚えるにはレベルが上がった際に手に入るスキルポイントがいるらしい。
覚えようとしているスキルが強力なものだったり取得が難しいスキルであればあるほど必要なスキルポイントが多くなるとのこと。
スキルに関しては人から教えてもらったり、自分でスキルを開発する人もいたりなんだとか。
「そうですね。勇者とは万能職なので……どんな事態にも対応出来るような優秀な職業なんです」
「……でも俺、防御面が加護でえらいことになってる以外は攻撃並魔力並敏捷並、知力と器用度が高いだけなんだけど」
それって加護がなかったらただ少し頭が回って人より器用ってだけの勇者という名の一般人の出来上がりなのでは?
……いや、実際加護があるのは事実なんだしたらればを言う必要はないだろう。
俺は勇者、アイム勇者。
「とりあえず、なんかクエストでも受けて色々と確認してみるか?」
「それがいいと思います。では行きましょう!」
「お待たせいたしました。こちらがラプラス様にお出し出来る当店で最高の料理です」
「「……」」
クエストを受けるために掲示板の方に行こうと思って立ち上がったらめっちゃ豪華な食事が出てきた。
「じゃ、あとは任せたぞラプラス様。俺は先に行ってクエストを吟味しておくから」
その場を素早く去ろうと思ったら、ユニに腕を捕まれた。
やっぱこの子ってば力強いわー。