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2話 コスプレ家出少女

 良太はバッグの中から通学路で食べる為に持ってきていた袋に入ったままのパンを差し出す。


「食べ物? 食べて……いいのか?」


「いいよ。よくわからないけど、腹減ってるんだろ?」


 今にも倒れそうな少女を社の階段に座らせパンを渡すと、良太はその隣に腰を下ろす。彼女の様子を窺っていると、袋の開け方がわからないのか一生懸命ビニールを引っ張っていた。


「……貸して。これは、このギザギザのところから切るんだよ、って食べたことないのか?」


「うん。人間の食べ物は初めて……」


 持っているパンの袋をくるくると回す少女の姿に苦笑いし、良太は少女からパンを受け取ると、袋からパンを取り出して再度彼女に手渡した。

 

 ハムッ!


 そんな音が出るようにパンに齧りつくと、少女の身体は硬直する。


「……美味しい」


 少しして再起動した少女は口を離して小さく感嘆の声を上げた。コンビニ限定のプリンパン、それをついばむように次々と小さな口の中へと入れていく。


「落ち着いた?」


「人間の食べ物は美味」


「俺は良太って言うだけど、君は?」


 良太は満足そうにお腹を擦っている少女へと名前を尋ねる。場違いの服装でいきなり現れた彼女は、見た限りコスプレをしているだけに見えるのだが、その言動はどうにもおかしい。


「……私はリム。良太、ここは人間界でいいの?」


「まぁ、人間が住んでるんだから人間界で合ってるよ」


「良かった。大成功」

 

 リムと名乗った少女は表情は変えていないが、どうやら喜んでいるようだ。それでも、彼女の話す内容は良太の頭に中々入ってこない。


「なにが成功したっていうんだ?」


「もちろん家出」


「えっ。家出っ?! コスプレで家出とかハードル高すぎだろ……」


 アニメは好きな方の良太だが、彼女の来ているコスチュームのキャラクターは出てこない。黒で統一された衣服に角といえば小悪魔的な何かなのだろう。


 コスプレ家出少女。


 そう思うことにした良太はバッグを持ち上げて立ち上がる。


「それじゃ。俺は学校に行くけど、どうしようもなくなったら家に帰った方がいいよ」


「待って……宛がない。良太の家に泊めて……」


「いやいやいやっ! ダメでしょっ! この年で誘拐で訴えられるのは勘弁だよっ」


 立ち上がった良太の制服の裾を掴み、やはり無表情で見上げてくるリムに一瞬思考が停止するが、世間知らずの女の子を泊めるなどリスクが高い。


 冷静に判断すればここは関わらないのが一番なのだ。


「悪いけどさすがに、そこまではしてやれない。俺の朝飯だけで我慢してくれ」


「……そう……わかった。他を捜す。食事、ありがと」


 少しきつい言い方だったが、良太は母親と二人暮らし、決して裕福では無く、面倒事を抱えた少女を助ける余裕等ないはず。


 普段ほわほわとしている母親の顔を思い出し、心を鬼にして断った。


 良太の言葉に気落ちしたリムは、意気消沈して俯いてしまう。


「……ごめん。もう行くよ」


「……」


 返答の無いリムを置いて、良太は神社を後にする。罪悪感が襲ってくるが。


 仕方ないんだ。


 自分に言い聞かせ学校へと向かった。

 


突然現れたコスプレ少女を連れ帰る度胸がある人は手を上げて!

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