悪女、聞き耳をたてる
他作品の地名を誤用してしまいました。お恥ずかしい^^;
誤字修正しています。
どうやら、夜這いは何とか回避されたようだった。というのも、ワーゼシュオン神聖国の侍従や護衛…と思われる男達が夜に皇城内をウロウロしていて、夜の巡回警備をしていた衛兵に所謂、職質をかけられていたらしい。
職質を受けた彼らはある人物の名前を挙げて、普段は使用人棟に住んでいるのか?今日は夜番か?としつこく聞いてきたらしい。
その人物とは…侍従のシアンだった。
次の日の朝、可愛い系男子隔離部屋から一時戻って来たケイハーヴァン殿下とお茶を頂いている時に、警邏部隊の隊長からそのような報告を受けた。
「使用人棟の男性寮に不審者が出た…らしい。リシュリーの暗部からの報告だ」
私の側には私付きの護衛、元ワーゼシュオン神聖国の暗部出身のお兄様達が控えている。あれ?そう言えば、ビューザー含む全部で8人いるのだが皆、割とマッチョ体型で強面系の顔だと気が付いた。
あの国の暗部に入るのに何か基準があるのかな?
「シアンを保護していて良かったわ…。今日はシアンの事誰か見ていてもらえる?」
強面の一番怖い顔のクライゼが、私が~と手を挙げてくれた。そうそう、こんな怖い顔の皆だけど、性格は人懐こくて話しやすい人ばかりなんだよね。怖い顔に騙されがち?というのかな。
さてシアンはこっそりとクライゼ兄さんが見守ってくれているからいいとして、まずは今日の夜会だよね。
そう夜会…シアンを守りきれたことで、私達は油断していた。最も狙われやすい可愛い系男子がうちに居たことをすっかり忘れていたのだ。
エキシューレン=クラッセンダ公爵子息。ケイ殿下の従兄弟で家柄良し、それにファシアリンテの好みの可愛い顔だった…。私、ケイ殿下、シツラット大尉&近衛、暗部…軍の皆はすぐに作戦会議を夜会会場の一角で行った。
私達の視界の片隅には、エキ君にへばりついているド派手なドレスのファシアリンテが見えている。
「今はまだ他の貴族の目があるから大丈夫だろう」
「しかし、会場横の客間に連れ込まれないでしょうか?」
「会場の入口は近衛に厳重に監視させよう」
「そうだっエキ様には窮屈ですが、今晩は例の部屋で皆で過ごしてもらうってのはどうでしょうか?」
宰相様が、うちの補佐官も一緒ですし…と言っていたので皆が大きく頷いた。あの部屋には仲間がいる!不本意な仲間だろうけど…。
作戦会議を終えて、エキ君の方を見ると…いない?
まさか?!廊下の方へ駆け出したのは私よりケイハーヴァン殿下の方が早かった。だが廊下に出てすぐの所に、エキ君とケイ殿下付のハクラと私のとこの護衛8人の内の1人、一番強面顔がマシなイケメン、スベリガ君がいた。エキ君は2人に支えらて若干青ざめているが、何とか大丈夫のようだ。
「大丈夫です、直接ファシアリンテ王女に触られた訳ではありませんので」
「侍従の男2人に連れさられそうになっていました」
何と男にだと?いやいや…多分ファシアリンテの作戦ではエキ君を侍従に拉致させておいて、後から攫ったエキ君に会いに行く予定だったのだろう。私達はエキ君を背後に庇うようにして、広間に戻った。マルヴェリガ様が私達と戻って来たエキ君に、どこに行ってたの?と声をかけてくる。
そんなマルヴェリガ様の声に気が付いたのか、ファシアリンテが私達を見て目を見開き、側に居た侍従に何か耳打ちしている。
やはり一早くエキ君も保護しておいたほうがいいよね。私達はエキ君に夜は例の部屋で過ごしてみない?と誘ってみた。それ聞いていたマルヴェリガ様が
「何それ?!面白そう!」
と自分も可愛い系男子隔離部屋に泊まりたいと騒ぎ、父親である公爵様に妙齢の男子ばかりがいる部屋に泊まるなんて駄目だ!との猛反対を受け…だったら
「リシュリーお姉様と一緒ならいいでしょう?」
と言い出してしまった。
どうしてこうなったのだろう?明日は婚姻式だというのに、可愛い系男子隔離部屋にマルヴェリガ様と私…勿論くっ付いてきたケイハーヴァン殿下…メイドのカロンとハレニア…大人数です。
廊下には強面の私の部下…暗部のビューザーとクライゼが睨みをきかせているし、隠れて他の暗部の警護もついている。私は…部屋のミニキッチンで夜食を作っていた。
ん?廊下の向こう…ファシアリンテと数人の魔力の気配を感じる。
私はキッチンから部屋に戻った。流石にケイハーヴァン殿下とシツラット大尉は廊下の異変に気が付いていた。近衛のミーレ君が静かに廊下に出て行った。
「本当に来たようだな」
扉に近付いて行くケイ殿下の後を追いながら…見たい見たいっ!修羅場だよね?と好奇心がうずいていた。そうだ!諜報が使う盗み聞き魔法を使おう。私は音声魔法を廊下に向けて放った。
『…で…よ?……私はワーゼシュオン神聖国の王女よ?リシュリアンテがこの城で気ままに過ごせるなら私だってそうできるはずよ』
聞こえてきた、聞こえてきた…ファシアリンテは相変わらずの持論を展開している。
『お部屋にお戻り下さい。ここはワーゼシュオン神聖国の王城では御座いません。他国の城内ですので行動の制限はさせて頂きます』
ヨストワルデ近衛副隊長の渋いお声が廊下に響いている。
『誰に口を聞いていると思っているの?!私はワーゼシュオン神聖国の次期女王よ!』
「うるせー貧乳」
うわっ…ちっさい声だけど私の後ろで廊下の様子を窺っているシツラット大尉がボソッと呟いている。もしかすると、シツラット大尉も音声魔法使っている?
『ここから先はこの国の皇族の方々が住まわれる皇城の奥になります。許可なき侵入はご遠慮申し上げます』
『だったらリシュリアンテかケイハーヴァン殿下なら許可してくれるでしょう?!早く通しなさい!』
『こんな夜に何事なの~?』
はっ…この声はケイハーヴァン殿下のお姉様のケフィラーナ様。
『な…何よ』
『いやだわぁ~男に愛されない女ってぇ心の中から醜悪な魔力が溢れ出ているわぁ。本当にお気の毒ね…誰にも愛されていないって…』
流石苛烈な性格のお義姉様…容赦ない。ああ~今のお義姉様の顔が見てみたいっ!きっと悪役令嬢のような悪い顔をしている……はずだ。
『何ですって…私に対して…なんて酷いっ』
『あら?お姉様はあなたのことだと一言も言っていないけど?どうして愛されない女がご自分だと思われたのかしら?それとも…自覚がおありなの?』
おおっと?!突然にもう1人の姉ドリュファーナお義姉様が乱入してきたぁ!
『…っく失礼致します』
足音と共に遠ざかって行くファシアリンテの魔質を感じる。人生の先輩お義姉様達の圧倒的勝利だった。
深夜の皇城にお義姉様達の高笑いが暫く響いていた……ああ恐ろしい。
婚姻式当日
準備を終えた私を見て、カロンとハレニアそれと特殊?メイクアップチームのメイド達はずっと泣いていた。悲しいわけじゃないらしい。自分達の最高傑作!の私の晴れ姿が完璧すぎて嬉しくて、むせび泣いているのだ。
「姫様ぁぁ素敵ですっ世界一です!」
「流石、ワーゼシュオン神聖国の女神ぃぃ!」
おいおい…皆してウェディングハイ?みたいなのになってない?そんなメイド達に半ば小突き出されるようにして婚姻式の会場である大広間まで連れて行かれた。
おおっ、介添え人…というのか、付き添ってくれるのはメイド長と侍従長なのかな?キリリとした鋭い眼光で私を見詰めてくる、〇ッテンマイヤー(仮)とセバスチャン(仮)
私がその鋭い眼光に焦ってお待たせしてはいけないっと、小走りで扉の前に移動すると
「殿下っ走ってはいけません!」
とメイド長に小声で叱責された。済みません、〇ッテンマイヤーとセバスチャンに、遅い!と怒られそうだったので、つい…条件反射です。
そして近衛のお兄様達も扉の前にズラッと立っている。ちょうど扉の横に立っているのは可愛い系近衛のミーレ君と近衛副隊長ヨストワルデさんだわ。ミーレ君はチラッと私を見てから頬を染めている。
ミーレ君は緊張しているのかな?自分の立ち位置を確認しながら大広間の扉の正面に立つと、ヨストワルデさんが柔らかい微笑みを向けてくれた。
「姫様、今日は一段とお美しく有らせられますな」
まあ~さすが近衛の歩くエロ………コホン、誉め言葉が挨拶のように出てきますね。
「ありがとう、ヨストワルデ。皆様、本日も警護を宜しくお願い致します」
私は一言一言噛み締めながら、廊下にいる近衛の皆に微笑みを向けて言葉をかけた。
「っ…御意!」
「御意!」
「姫様っううぅ…」
あんた達声がデカイよ!大広間に声が聞こえるからっ。
侍従の方々が半笑いになりながら、扉を開けてくれた。私が大広間に入ると、室内にいた貴族や王族方から一斉に視線を浴びる。そして皆の魔力は……感嘆の声と一緒に好意的な魔力を放ちながら室内を埋め尽くしていた。
但し若干3名以外を除けて…だが。勿論それはワーゼシュオン神聖国の3人だ。
昨日の今日でよく出席出来たわねぇ?私から『神の祝福』を盗め!とか訳の分からない命令を出したり、またまた夜這いに来たり、恥ずかしいとか思わないのかしら?
ファシアリンテからじっとりとした魔質を向けられている。なんであんたに睨まれなきゃならんのよ?自分で引っ掻き回しておいて、嫁に行きますだなんて、どの口が言うんだろうね?
そもそもだけど、自分がここへ嫁に来ちゃったら、ワーゼシュオン神聖国どうするのよ?自分が子供を産んで次代の王や女王として、その子供達を王位に就かせるとか考えていたり?
イヤ、無いか。この子がそこまで考えている訳ないわ…。
私は広間の中央、皇帝陛下夫妻の前に立って私に笑顔を向けているケイハーヴァン皇太子殿下を見た。ケイ殿下ってば蕩けそうな甘い微笑みを浮かべているわ。
魔力も形と色がついているならば、ケイハーヴァン殿下から放たれている魔力は『ハート型でピンク色』だと思う。中央に向かって歩きながら、ケイハーヴァン殿下に微笑み返す。
私からもハート型でピンク色の魔力を返せてますか?返しているといいな。だって今は嬉しくて恥ずかしくて…ファシアリンテの前ってことを忘れてしまいそうなぐらいこそばゆい感情で一杯だ。
「よく参列出来ましたわね」
「厚かましい子ねっ」
ぬう?横から義姉達の不穏な声が聞こえましたよ?式の最中なので、お静かにお願いします。
しかしケフィラーナお義姉様とドリュファーナお義姉様の嫌味もアレだけどでファシアリンテも負けじと睨み返している。
何度も言いますが式の最中ですよ?
ファシアリンテはお義姉様達を睨んだ後、視線を私に向けて
「も~ぅリシュリアンテはまた私の事を悪し様に罵っているの?いつもの悪癖が治っていないのねぇ~すっかりご婦人方があなたの嘘に騙されているじゃない~。そんなことではケイハーヴァン殿下に嫌われてしまうわよ?」
と言った。開いた口が塞がらないとはこのことだ。
いやあの?今、あなたのことを悪し様に罵っていたのは、ハーシプ王国の国王妃とコウグルート王国の王太子妃なんだけど?
私もお義姉様達もキョトンとする間に、周りにいた男性達が
「そ…そうなのか、そうだと思ったよ。あんな愛くるしい王女殿下を悪し様に言うなんて…」
「あの噂は苛烈すぎましたよね?どおりでね。リシュリアンテ王女殿下が率先して流している噂なのですね」
とか男性達ボソボソと呟き始めた。いやいやいやぁ?!どうしてそうなるんだ?!
私は一瞬、頭に血が昇りかけたけどグイッと手を引かれて我に返った。手を引いたのはケイ殿下だ。
ケイ殿下は笑顔のまま私をエスコートして皇帝陛下夫妻の元へ誘った。皇帝陛下は小声で
「血の気の多い娘達ですまんな」
と仰った。皇后が笑顔を浮かべながら
「大丈夫よ」
と何か含みのある言葉?を仰った。不思議に思い隣のケイハーヴァン殿下を見上げると殿下も含みのある笑顔と魔質を浮かべている。
何だろう?不敬な態度のファシアリンテとそれを咎めようともしないワーゼシュオン神聖国の国王夫妻に、これと言って言葉をかけない皇帝陛下夫妻と我が夫…。何だか皆の魔質がおかしい?あれ?