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悪女、義姉と遭遇

人の記憶とかって当てにならないね…とつくづく実感した。


大型の魔獣だという証言の元、討伐に来た訳だけど…実際はドラゴンに襲われたり、大型の魔獣の正体は白い猪っぽい生き物だったり。いや、まあ猪でも十分大きいけどね。


その討伐から帰って来て暫くして……私は医術医院で黙々と包帯の布を切っていた。


「……」


私の機嫌の悪さを察しているのかカロンもハレニアも声をかけてこない。


どうして今頃、こんなに腹が立つのだろう。そう言えば前世でも後から思い出して腹が立ってくるタイプだった。出来上がった包帯の束をバシーンと治療台に叩きつけた。


ワーゼシュオン神聖国から届いたあの書状の内容を思い出してまた腹が立ってきた。


何が、正統なる血筋のファシアリンテ王女殿下と婚姻を結んだ方が帝国の為ですよ…だっ!


ケイハーヴァン殿下も皇帝陛下や皇后も皆…私の為に怒ってくれた。


「リシュリー?」


びっくりした。1人悶々と考え込んでいたのでもう夕方になっていて、ケイハーヴァン殿下が来たことに気が付かなかった。


「失礼しました。いつもありがとうございます」


私が慌てて立ち上がると、困ったような表情をして手で制するとケイハーヴァン殿下は


「いや…リシュリー少し遠回りして帰ろうか…」


そう言って私に手を差し出された。その手を取ると優しい魔力を感じる。


皇城の中だけど、手を繋いで歩く私達。すれ違う度に、役人の方やメイドが頭を下げながら、生温かい目と生温かい魔質を向けてくる。


恥ずかしいっ!


恥ずかしいから手を離して下さい…とは言えず、今は恋人繋ぎまでされている、私…手汗とか大丈夫かな?


城の裏庭の更に奥…薔薇に似たヤルゥという花ばかりを植えているヤルゥ園に来た。凄いよね、青色や金色の花まであるんだよね。


「リシュリアンテ…」


「はい」


「私には2人姉がいるのだが…」


「はい、今は他国に嫁がれていらっしゃる…のですよね」


正直、珍しいな〜と思ったのよ。マーシュガイトラ帝国といえば『碧の境界』に隣接している為に軍事力が突出しているせいか、軍事国家として実質上この世界の覇権を握っていると言っても過言ではない。その副産物として魔獣、魔物から取れる魔石や魔獣の血肉、骨や皮は魔道具の材料になり、その肉は非常に美味で霜降り魔獣肉として非常に有名だ。


つまり大陸一の軍事国家で有りつつ、経済面でも経済大国であるのだ。そんな国の長女、次女までもが他国に嫁ぐメリットってないよね?


周りに敵なし、諸外国はマーシュガイトラ帝国におんぶにだっこ…。逆に嫁に来てくれるなら諸手を挙げて喜ばれただろう。


「他国に嫁ぐ前に姉達はそれぞれに想い人がいたらしい」


「!」


「父上も賛成していたと聞く。ところが上の姉の想い人は別の令嬢と急に婚姻した。下の姉の想い人は父親が犯罪者として捕らえられて国を出て行った」


「そんなお二方とも?」


そんな偶然あるものか?無いに決まっている…きな臭い。ケイハーヴァン殿下は私を見た。うん…殿下もきな臭いと思っているわね?


「実はそんなことが続けて起こり…やがて姉上達の周りには高位貴族の…頼りのない叩けば埃の出る子息ばかりが残ってしまったということだ。あ、因みに叩けば~とか頼りない~とかは上のケフィラーナ姉上の言葉だぞ?上の姉は結構苛烈な性格なのだ」


なるほど、面白いお姉様ね~気が合いそう。


「でだ、姉上2人は考えたそうだ。そんな胡散臭い子息共とは同じ空間にいるのも虫唾が走ると思って、他国に揃って嫁いでしまおうと思ったそうだ。因みに嫁いでしまえ!と考えたのは下の姉のドリュファーナ姉だ、結構腹黒いんだ」


なるほど、下のお姉様とも気が合いそうだ。


「という訳で、姉達に言わせると…その愚かな子息達より高位で尚且つ美形で性格も最上の他国の王子達に堂々と嫁いでいったという訳だ。今は2人共元気だし幸せそうだよ。婚姻式には姉達の家族総出で揃って来るからな」


それはとても楽しそうだけど何とも圧が凄そうだ。


「貴族とか、権力とかそんなに魅力的かな…いやすまんな」


つい、ポロッと本音を零しちゃったケイハーヴァン殿下は焦って取り繕うとしているけど…私には無用だ。


「大丈夫ですよ。私も、糞くらえと思っております。あら?口が悪うございましたわね、失礼しました」


ケイハーヴァン殿下は破顔されると、私を引き寄せた。


「っは…あはっ、そうだなっ!リシュリーにはそんな政治的な駆け引きは無用だった。…リシュリー、私はあなたに出会えて良かったと心底思っている。私の元婚約者も事故で亡くなったが…あれも只の事故ではないと思っている。そんな私のところにリシュリーが来てくれた。シュオン神のお導きだ」


くすぐったい…。抱き締めてくれるケイハーヴァン殿下の魔力は優しくて、結構好意が駄々洩れな感じだ。ケイハーヴァン殿下の背中に手を回すと更に抱き締められる。


「リシュリーを抱き締めていると、何だろう魔力かな?とても心地良くて堪らないんだよな」


久々にギクッとなった。そうだった…またも忘れていたけれど…殿下と私、魔力の相性が凄く良いんだった。もうこの際だから言ってみようかな?


「あの…今更なのですが…」


「ん?」


「私とケイ殿下は魔力の相性が凄く良くてですね、え~と殿下が私の魔力が体に入ると温かいとか、心地よいとか仰いますのは…相性が良いからです。ラガッフェンサさんの治療を受けられたことは?」


「あるけど…薬で治りにくい怪我の時ばかりなので、いつも調子の悪い時だから…魔力が気持ちいいとか感じたことなかったな」


だろうね~相性が良くないと気が付かないって本には書いてあったしね。


「普通は魔力が体に入ると、魔力が入って来てるな~という異物感?だけを感じるみたいですね」


「心地よいのはリシュリーだけか…」


おおぅっと?!改めて言われると破壊力のある言葉だね…ケイ殿下はニヤニヤしているね。


ケイ殿下のお顔がゆっくりと近づいて来る。私も目を閉じた。軽く触れる唇から魔力が体内に入る…。気持ちいいよね~分かるわ。温泉に浸かっているみたいに触れた箇所からじんわりと温かくなるもの。


「気持ちいいな…。そうか、リシュリーだけか」


ケイ殿下の声が本当にうっとりしている。私達はヤルゥの花畑の中でチュッチュッした後に自室に戻った。


大変に甘酸っぱいね。よく考えれば周りに近衛のお兄様やカロンやハレニアも居たんだった。


バカップルで済みません…。


そんなある日


バカップルな私達の所へ例の、苛烈&腹黒なケイ殿下の姉様達が家族総出で会いに来てくれたのだ。まだお披露目会までには日にちがあるのですがね。


長女のケフィラーナ様はケイ殿下と皇帝陛下似ていて、次女のドリュファーナ様はラジェンシエガ皇后に似ていた。


そしてなるほど、この方々が噂のハイスぺ旦那様達か。


ケフィラーナ様のご主人は渋い男前で、ドリュファーナ様のご主人もマッチョの男前だった。頼りない、へなちょこで性根の腐ってそうな貴族子息じゃあお姉様達の好みじゃなかったのは一目瞭然だ。


え?お姉様達はそこまで、けちょんけちょんに言ってないって?オホホ…。


「叔父上~!遊んでぇ!」


お姉様達のご子息…王子殿下3名と王女殿下2名がケイハーヴァン殿下に突撃していた。私の方はお姉様達ご夫婦に突撃されていた。


「聞きましてよっ?!リシュリアンテ殿下…ケイも貴女も、恋愛小説の主人公みたいじゃありませんか!」


「そんなそんなケフィラーナお義姉様、少し大袈裟に話が伝わっているだけですわ」


「だって、意地悪な異母妹に苛められてっ助け出して妻に迎えたのが…あのケイだなんてっ…知ってまして?!どうやら書籍化して、大衆劇になるとか?いやーーん素敵ッ!」


「まああ、劇ですか?そんなに大層な話ではありませんのよ?ドリュファーナお義姉様、ケイハーヴァン殿下に婚姻を望まれて…それで偶々異母妹の妄執から逃れることが出来まして…私、本当にケイハーヴァン殿下にお助け頂いて、こんな素敵なお義姉様が出来るなんて夢の様でございます」


私がタイプの違うお義姉様2人に微笑みかけると、お義姉様達は顔を真っ赤にしてから


「可愛いーーー!やっぱり妹よねーー!」


「そうよねー!うちはケイしかいないしー!」


そう言ってめっちゃ抱き付かれた。私も本当に嬉しいのですよ。今居る妹はアレですし、前世でも一人っ子だったのでね。


「やーーん!お母様っミミも抱き付きたい!」


いつの間にか王女殿下2名が私達の足元に来ていた。私は屈んでミミ…ラナミアーナ王女殿下とジョアンナ王女殿下に目線を合わせた。


「フフッ…仲良くして下さいませね」


そう私が微笑むと、王女殿下2人がタックルする勢いで飛びついて来た。どっこいしょ!フフン、これでも軍属っ舐めるなよ。私は女子2人を両腕に抱え上げた。王女殿下2人は大喜びだ。


「わあーリシュリー力持ちぃ!」


「凄いねぇー」


「はい、私これでも軍人ですの」


「ええっ?!」


おや、お義姉様達とご主人の王太子殿下と、国王陛下までもが叫んでいる。


「軍人…?え、リシュリーあなた軍に所属しているの?」


プルプル震える扇子の先を私に向けるケフィラーナお義姉様に頷いて見せた。


「はい、魔獣討伐にも参加しておりますよ?」


お義姉様2人はまた顔を真っ赤にされた。


「素敵ーー!」


「格好いい!」


「リシュリー、魔獣をえーいって倒してるのぉ?」


今度は私の背後からケフィラーナお義姉様のご子息キリウーデ王子殿下がキラキラした眼差しをぶつけてきた。


「ええ、先日はドラゴンに対峙しましたね~」


「ドラゴンッ?!」


「ああ、あれは凄かったなぁリシュリーの蹴りでドラゴンが逃げて…」


…ちょっと待て!ケイ殿下っその言い方ではまるで私が蹴りの一撃でドラゴンを追っ払ったみたいじゃないか?


「ええっ?!リシュリー、ドラゴンを蹴ったのぉ?!」


「凄いっ―――!僕もドラゴンに会いたいっ父上!僕もリシュリーと討伐に行きたいぃぃ」


「蹴るの見せてぇ!」


何でそうなる?!私はちびっ子王子に囲まれてしまった。流石にケイ殿下も失言だったと気が付いたのか、今頃オロオロしているけど、もう遅い…知らないよ?お義姉様達の滞在中にちびっ子達を連れて『碧の境界』にピクニックに行くことになってもさ?


またシツラット大尉がぎゃんぎゃん煩いよ?



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