悪女、退治する
すみません、バトル冒険譚になっています^^;
ブクマありがとうございます。
誤字修正しています
大型の魔獣の出没する、バントーリノという北の地域に来ている私達。少し離れた所に村はあるけど、ここは人気はまるで無い。理由は簡単、頻繁に魔獣が出没するからだ。私達が立っている崖の向こう側に深くて長い亀裂が地表に走っている。
ここは『碧の境界』そう呼ばれていて、まるで永遠に続いているような地表の裂け目から魔物と魔獣が湧いて来る。湧いて来るというのは語弊があるが、魔の眷属がこちらに飛び出してくる、という表現があっている。
この地割れの向こうは『異界』に繋がっているとされていて、異界には魔物の国がある…と言われている。
異界…ねぇ。ひょっとして私が元居た世界じゃないのかな?と思ったりもしていたけどね。
つまりあちらの世界の何かが流れてきているんじゃないかと思っていたのだけど…ほら、私みたいな生まれ変わっているのもいるし?
だからといって向こうからやって来るのが幽霊、悪霊…もしかすると悪魔とか魔王?はいないかぁ、いたらびっくりだけど…まあ兎に角、この地割れの先に魔界があろうが、人間界があろうが関係ないよね。
「全て叩き落すまで!」
「いやぁ~リシュリアンテ殿下は頼もしいですね」
シツラット大尉が渇いた笑いでそう私に言うけれど、そうでも言わないとこの状況って怖くない?
「ギャアアアッ!」
すごい声が上がっている。あまり見たくはないけど…自分の張った防御障壁の頭上を見る。あ……見事な牙が見えるね。え~と肉食恐竜みたいだね…。
「大型の魔獣とは聞いていたのだけれど、想像していたより大きいわね」
はっきり言って恐竜だ。ケイハーヴァン殿下曰くドラゴンとのことだけど、実在するのね。
つい数時間前はあの地割れの先は私の居た世界かも~なんて吞気に考えていたけれど、今はっきり分かった。あの裂け目は間違っても私の元居た世界と繋がってないから!あっちにこんなデカイ生き物居ないから!因みに魔界でもないし色んな意味で魔窟みたいな星ではあるけど、魔族はいないから!
「初めて見たよ…ドラゴンっているんだな」
「まあ、ケイハーヴァン殿下も初めてですか?じゃあ別に知らないのは恥ずかしいことではないわね。」
私が安堵の溜め息をつくと、周りにいた第二部隊の軍人さん達が口々に叫んだ。
「皆初めてですよぉ」
「ドラゴンなんて生きている間に会う方が難しいですよ」
そ、そっか…珍獣ハンターの人が〇エティ発見するぐらい有り得ないことなのかな?比較対象が謎過ぎて基準が分からないけど。
私は隣に立つケイハーヴァン殿下のお顔を見上げた。これはどう退治してやろうか思案していますね?
「攻略方法は思いつきましたか?」
私がそう聞くと、ハッとしたように私を見たケイ殿下。でもすぐに苦笑に変わる。
「ディダリトに似ているかな…と思うけど、どうだろうな」
ディダリトとは大型の爬虫類だ。蛇と蜥蜴のミックスみたいな生き物で…弱点は…。
「冷気に弱いですよね…やってみます?」
ケイ殿下は美しい微笑みを私に向けた後、後ろにいる第二部隊の皆に声をかけた。
「冷気系の魔法の準備を。無理に倒そうとはせずに『碧の境界』に追い返すことを最優先に」
「御意!」
皆が魔法の発動準備に入った。私はギリギリまで障壁を保ちつつ、障壁の解術の間合いを計った。
「放て!」
ケイハーヴァン殿下の合図に私は障壁を解いた。そして魔法がドラゴンに当たり、ドラゴンの皮膚が凍り始めたのを見るとすぐに駆け出した。私の意図に気が付いたのか、ケイ殿下とシツラット大尉がすぐに追随してくれた。腰をかがめて走りながら岩に飛び移り反動をつけてドラゴンの体の凍った部分に、飛び蹴りを当てた。
「ギャッ!」
私が蹴り上げた所にケイ殿下とシツラット大尉が剣を突き立てていた。
ドラゴンは強烈な悲鳴を上げながら、体の凍った皮膚部分から滲み出る体液?血液?まみれになりながら、のたうち回っている。ドラゴンが一瞬、息を吸い込むポーズをしたので異世界人の勘が働き、〇ジラの光線が来る!と思い、急いで障壁を張った。
「うわあっ!」
「何だあれ?!」
ドラゴンの口から吐き出された光線は複合魔法だった。正直、人間には無理なレベルの火土風の魔術のようだ。あれの魔術素が視える自分も怖いけど…良かった。私の障壁でも防げている。
「複合魔法か?!」
「そのようです!」
ケイ殿下の声に大きく叫んで返してから、ドラゴンの姿を見る。なるほどね…これは偶然とはいえ良い作戦だったみたいだ。
「殿下っ今放たれている複合魔法でドラゴンの魔力が随分消耗しています。このままいけば…」
と私が言いかけている間に、複合魔法が止んだ。ドラゴンは魔力切れになっているようだ。そうか…お腹の怪我に治療魔法も使っているみたいだ。すごいな、ドラゴンに苦手な属性とか無いみたいだ。しかしドラゴンと言えども、魔力が無尽蔵にある訳ではなさそうだ。ドラゴンは逃げ出した…攻撃より治療を優先させたようだ。
逃げるだけの余力を残しておかなければ、死んでしまうものね。ドラゴンとは結構知能の高い生き物なのかもしれない。
「逃げたぞ!」
「追いますか?殿下」
シツラット大尉がそう聞いているがケイ殿下は首を横に振った。
「碧の境界に逃げるのなら、深追いは無理だ」
私は逃げるドラゴンを見た。アレが魔法の効く生き物なら、私が蹴りと一緒に叩き込んだ魔法が徐々に効いて来るはずだ。命からがら逃げて行くアレに…。
「リシュリー、先程の蹴りと一緒に放った魔法は何だ?」
ケイハーヴァン殿下は唖然としたまま私を見た。
「ワーゼシュオン神聖国に居る時に、元軍人…というかちょっと特殊な感じの侍従に教えてもらった、私が唯一攻撃に使える魔法なのです。危険すぎて普段は使うなと言われていますが…」
「攻撃魔法ではないよな?あれは…回復に見えたが…」
流石ケイ殿下は一瞬でも、よく見ていらっしゃるわね。
「そう…私は治療術師ですので、補助や回復、治療…これくらいしか術としては使えません。つまり…回復魔法を魔力が尽きるまで持続してかけ続ける魔法が私の攻撃魔法なのです」
「回復魔法を魔力が尽きるまで?」
「ひぇ…勝手に回復魔法を使ってしまうってことですか?」
シツラット大尉がそう聞いてきたので頷いて、ぽかんとしている第二部隊の皆を見回した。
「魔力を使いたくないのに、魔法を発動してしまう…。術が止められない、恐ろしいでしょう?自分で編み出した術ですが、元軍人の侍従からこの術は人間に向けて使ってはいけない、と言われていましたが…ドラゴンですし大丈夫かと思いました」
「あはは…」
「ドラゴン…生きてっかな」
そう呟く第二部隊と私達の目にもうドラゴンの姿は見えない…。『碧の境界』に逃げて行ったようだ。
さて改めてドラゴンではない、村人達から目撃情報があった大型魔獣の討伐の為に川の付近で野営地を作ることにした。
「目撃情報が出た大型の魔獣は姿はどのようなもので?」
普通に、テント作りを手伝いながら、本当に普通に地面に楔を打ち込んでロープを結んでいる……皇太子殿下のケイハーヴァン殿下に声を掛けてみた。
皇太子殿下って野営のテントとか自ら張るものなの?
「ああ、身丈は私の三倍くらいで、全身は白銀色の体毛に覆われているらしい」
何それ、まんま〇エティじゃないの?ドラゴンは兎も角、〇エティとか〇チノコとかが現れたら、あの世界と繋がってると仕方ないから認めてあげなくちゃいけないのかな。
私とメイドのカロンとハレニア…そして軍属の薬師の先生2名とで野営のテントとは別に建てた、救護テントの中を整えて行く。のっけからドラゴンと遭遇したので今回の討伐は難易度が高いのでは…とシツラット大尉が余計な事を言って煽りまくっていたので、カロンとハレニアはずっとビクビクしている。
「もう~ぅシツラット大尉が怖がらせるからぁ…ごめんなさいね。カロンもハレニアも救護テントには私がしっかりとした、魔物理防御障壁を張っておくからね?後でシツラット大尉にはファシアリンテを嗾けておこうかしら?」
「止めて下さいっ!ドラゴンより怖いのでっ!」
いつの間に救護テントの外に居たのだ?レイズ=シツラット大尉がテントの中に怒鳴り込んで来た。今や、ドラゴンより恐れられているファシアリンテ…悪役令嬢は大活躍だね!
「そのファシアリンテ王女殿下ですが、お噂聞きました?」
「ん?噂?」
カロンがそれはそれは、嫌そうな顔で吐き捨てる様に話し出した。
「先日、ちょこっと滞在されていた時にうちの若いメイドにワインが入ったグラスを投げつけたとか」
「まああ…」
いつの間に?!あの子はまたぁ…。
今度はハレニアが険しい顔で呟いた。
「私が聞いたのは、若い侍従の男の子を公衆の面前で身ぐるみを剥いで裸にして見世物にした…とか」
「まああ?」
そんな事件?あったかしら…流石にそんな破廉恥なことをされていたら、私かケイハーヴァン殿下の耳に入ると思うのだけれど…。
夜、夜番をしているケイハーヴァン殿下と第二部隊のクバラファー少尉の所に行って、先ほどの噂のことを聞いてみた。
するとケイハーヴァン殿下は少し吹き出しながら真実を教えてくれた。
「今そんな話になっているのか…いや何、シツラットの奴がワザと噂を流したみたいでな?特に侍従の話は私が聞いた話より破廉恥になっているな」
なんと、噂の発信源はシツラット大尉だった。これさ、ファシアリンテの貧乳(かどうかは分からないが)を見せつけられたシツラット大尉の姑息な仕返しだと思うよね。
うん、やり方が意地悪お局みたいな感じだね。私、会社勤めしたことないのであくまでイメージだけど。
そんな話をケイハーヴァン殿下としていたら、いつの間にかクバラファー少尉が居なくなっていた。
ケイハーヴァン殿下と2人きりになってますよ。
会話が途切れてしまったので、夜空を見上げる。流石に人もこない僻地なだけある…星が綺麗だね。この世界の月の大きさにはいつもびっくりするけれど、青色で綺麗だね。
「リシュリー…すまんな」
ケイハーヴァン殿下がポツンと呟かれた。どうしたのか?と思いその綺麗な横顔を見た。殿下も月を見ていた。
「討伐で確かにリシュリーの治療魔法があれば心強い…だがその、私が、リシュリーと一緒がいいと…」
後半部分はごにょごにょ言っていたけれど、なにそれーーーー!可愛いーー!
こんなごつくて大きな男の人に可愛いを連発するのは如何なものかと思うけれど、可愛いには違いない。気が付くと私はニヨニヨと笑っていた。
ケイハーヴァン殿下は離れて座っていた距離を詰めてきた。私も少し動いて殿下に近付いた。お互いの体が触れる距離。心地よいと思っているのは私だけじゃないよね?
顔を上げると殿下の口づけが降って来た。
義務とか責任とか…色々思っていたことすっ飛ばして、私もあなたに近付いていいですか?
そういう思いを籠めて、殿下の唇に私の方から触れていった……。
徐々に近づきつつある2人…。