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悪女、舞う

私が噂の悪女ですの番外編になります。リシュリアンテとケイハーヴァンが少しずつ近付いて行く過程と結婚後の話を掲載予定です。宜しくお願いします。


誤字修正しています

私は今、紺色の生地と深緑色の生地の前で悩んでいた。


今は城の医術医院に通院してきている、片目を損傷している男の子の眼帯作りをしています。どうせ眼帯を作るなら海賊王的な黒い眼帯にして、ドクロを刺繍して萌えてみようかと思ったけど、図案を描いている間に色々と痛くなってきて…ソッと黒色は却下した。


「リシュリー、まだ寝ないのか?」


ケイハーヴァン殿下が続き扉から私の部屋に入って来た。


先日、ファシアリンテの夜這いや何だと騒ぎがあってから…何となく流れで夜は一緒に寝る様になったのだ。これもケイハーヴァン殿下は義務だと思っているだろうし、私だけ浮かれているのは…虚しいし結構辛い。


基本は優しいケイハーヴァン殿下だけど、そういう意味では私は甘えてはいけないと気を付けている。


そうだ…眼帯の布地の色、どちらがいいかケイ殿下に聞いてみようかな。


「殿下にお聞きして宜しいでしょうか?」


「ん、何?」


私は眼帯の生地を殿下に見せた。


「殿下でしたら此方の紺色と深緑色どちらがお好みですか?」


ケイハーヴァン殿下はちょっと息を飲んでから私を見て、そして


「私なら深緑色かな…」


と答えられた。成る程!男子の好みはこっちの色ね。


「よしっ…分かりましたわ」


これで布地は決まった。布の裁断は明日から始めよう〜と裁縫箱に布地を入れた。


そして寝台に入ると…先に寝台に入っていたケイ殿下が抱き締めてくれたのだけど………気が付いたら私はどうやらそのまま爆睡していたようだ。更に言い訳しちゃうと診察の仕事を初めたばかりで疲れも溜まっていたと思う。


目が覚めたらいつの間にか、朝だった…仕方ないよね?


あれ?ケイ殿下は横で寝ておられますが、相変わらず私の起きた気配を敏感に察知したらしいケイ殿下は、ゆっくりと瞼を開けて私を見た。


「起きたのか、よく眠れたか?」


「……はい、おはようございます」


うん、しっとりした色気を放ちながらそう声を掛けて下さるけど…殿下は何だか疲れていない?魔力がお疲れ様ですよ?


さて


今日も診察の予定が入っている。診察の合間に殿下に選んで頂いた深緑色の布地を眼帯のサイズに切っていく。


よしよし、片腕を覆う手袋を作ったよりは早く縫えそうね。布地の裏側には医院の医療品の中からガーゼっぽいの見付けたので、それを当てる。うん、更にいい感じだ。


そして片目を負傷しているモリント君から以前聞いていた連絡先に『魔導蝶』で眼帯出来たからいつでも診察に来てよ〜と手紙を出しておいた。


この『魔導蝶』は簡単にいうと、手紙の自動配達装置なのだ。この装置で手紙を出すと各地域の配達センターに送られて、そこから各家庭に配られるって訳だ。電話よりは時間がかかるけど、1~2日あれば連絡つくしこの世界のシステムにしては便利だよね。


さて午後の診察の前にお昼食べちゃおうかな〜。


「カロン〜ハレニア〜食堂に行く?」


私が裁縫箱を仕舞いながら、医務室の隣の作業準備室に声をかけた。


「はーい只今」


「すぐ参ります」


カロンとハレニアは私と医院について来ている時は、医院の洗濯や掃除のお手伝いもしてくれている。彼女達も立派な看護スタッフだよね。2人のここでのお仕事分のお給金増額をケイ殿下にお願いしてみようかしら?


私は立ち上がると、廊下に出た。そして踏み出した足先を見る。ふふ~ん、革靴格好いいね。


実は今日から、ラジェンシエガ皇后…お義母様がデザインした女子用軍服を着用しているのだー!最初、軍服であまりギラギラするのはなぁ…と思っていたんだけど…何だこれ~着たらテンション上がるわ。


気分は〇カラ〇ェンヌだよ!つい、書類棚から診断書を取り出す時でさえ、踊りながらポーズ取っちゃうんだよね。


医院の戸口でポーズを付けてカロンとハレニアを待っていると、ケイ殿下の魔力が近付いて来るのに気が付いた。あれ?何かしら。


「あ…リシュリー、それ新しい軍服か?似合っているな」


「まああ!本当ですか?嬉しい~」


調子に乗ってクルッとターンを決めて、また戸口で男装の麗人を気取ってみた。


ハッ…!医院の前の廊下にはケイ殿下のお付きの近衛の皆さんと赤毛のレイズ=シツラット大尉(昇進した)がいた。


そうそう先日、2階級昇進だなんて、凄いわね!と、シツラット大尉を誉めたら、物凄く私を睨んできた。


あの、ごめんなさい?私これでも昔は王女で今は皇太子妃の予定なのだけど…不敬ですよ!……言ってみただけです。


「リシュリアンテ殿下のせいじゃないですか!」


え?何で?


「あの王女殿下の夜襲の後、ファシアリンテ王女殿下はこのまま大人しく引き下がると思えない…とかケイ殿下に進言されましたよね?」


夜襲…。間違ってないけれどすごい表現だ。


「そうね、したわね」


「それを聞いたケイ殿下に指示されて、私はワーゼシュオン神聖国に潜入しました」


「そう言えば…シツラット少尉…じゃなかった大尉…暫く不在でしたね?」


シツラット大尉は益々目付きを鋭くした。


「潜入に際して変装して、城で侍従の職に就きました」


ん?何だか嫌な流れのような…。


シツラット大尉の顔が引き攣ってきた。


「十分気を付けていたのですが、その時ファシアリンテ王女殿下に…」


「襲われたのっ?!」


「違いますっ!裸を見せられただけです…素早く逃げました!私は巨乳が好みです!」


シツラット大尉の性的嗜好は聞いてない…いやまあ、ある程度予想していたとはいえ…。


「ごめんなさいね、シツラット大尉は可愛い顔をしてるから…あの子の好みだもの狙われたのね」


「そういう情報は早く教えておいて下さい!」


という叱責は受けたが、無事仕事を終えて帰ってこれたからよかったじゃない?


「名誉の負傷ね」


「怪我はしておりません」


いや、精神的ダメージは受けたんじゃない?


さて、ジェンヌの私とケイ殿下…メイドのカロンとハレニア…WITH近衛、シツラット大尉の皆で昼食を頂きに食堂へ向かった。


私ね所謂、社食は食べた事ないのでお城での食事は楽しくて仕方ないのよね~。しかもセルフサービスなのよぉ。社食っぽい!


「今日の昼定は何かしら~♪」


「食堂の昼食が楽しみな王女殿下って珍しいですね…」


後ろで近衛のお兄様達の囁きが聞こえるけど、この私の食欲の前には全て無と化すね!


そして大食堂に入ると…相変わらず皆が一斉に見る。え~とケイ殿下を見ている訳じゃないみたい?注目の的は私なのよね。それに今日はこのジェンヌコスプレで、食堂にいる人達のざわめきが凄い。


「妃殿下ぁぁ…それそれっどうされたのですか?!」


そう叫びながらカロンとハレニアの先輩メイドの女の子達が、私の前に走り込んで来た。いいわよいいわよ?説明してあげましょう!


「ふふ…これは女性用の軍服よ。因みに意匠を考えられたのはラジェンシエガ皇后よ」


「素敵ぃ!」


「この上着の刺繍っ…ケアレイの花の模様じゃありませんか?」


食堂の入口で女性に囲まれる。おおっこれもジェンヌっぽい…さあ皆、花道をあけてね~。


私は軽やかに盆を取ると、惣菜の器とパンやスープ…揚げ物かな?を盆に乗せてテーブルに向かった。最初の頃はカロン達が、姫様が列に並んで食事のご準備をする必要はありません!とか何とか言っていたけれど、今では諦めたのか、野放しだ。


野放し最高。


今日の昼定食は~メインは野菜の揚げ物だね。天麩羅っぽい食感だ。ケイ殿下はお肉を煮込んだシチューと丼っぽいものを食べている。アレ何だろう?え?ケルパ?牛丼っぽいね。ほうほう?ご飯の代わりに麺類かー!混ぜ蕎麦みたいだね。


え~とねケイ皇子殿下なんだけど、普通に食堂でお食事を取られるのね~と、不思議に思ってお聞きしたら皇子とはいえ軍属だから魔獣討伐の遠征にも出るし、料理も野営の際に簡単なものなら調理も出来ると仰っていた。すごいね、殿下。


今も自然に大尉や食堂にいた兵士の方々と談笑している。


楽しそうな笑顔で私もつられて思わず笑顔になる…。さてお昼からも診療頑張りますか!


その日の夕方、今日も律義に私を迎えに来てくれたケイ殿下からの提案に驚いた。


「私も次の討伐に一緒に?」


「ああ、向こうで怪我人も出るだろうし、いつも治療は軍属の薬師かラガッフェンサだし…討伐地でリシュ…ゴホン、潤いが欲しいと…大尉以下の若い軍人から意見が上がってな」


「はぁ…要はおじ様に体を触られるのは嫌だから、一応若いお姉さんであろう私に触って頂きたい…ということで?」


ケイ殿下は苦い青汁を飲んだみたいな顔をした。


「端的に言えば……そうだ」


端的でもまどろっこしい言い方をしても、結局は若いおねーちゃん(この場合は私)の看病じゃなきゃ嫌だ!って言ってる我儘な入院患者みたいじゃないか?


そんなに女性が良いなら婦長さんを専属にしちゃうぞ~この場合はメイド長とかかしら?こんな時に引き合いに出して、メイド長ごめんなさい。


「で、殿下…姫様を討伐地にお連れするなんて…」


おや?カロンが珍しく口を挟んできたよ。ケイ殿下はカロンを見て


「と言っても、リシュリーの治療魔法は有難いのだけどな…」


と顎に手を当てて思案している。ケイ殿下のメイドの話も真摯に取り合ってくれる所もイケ皇子として良い所なのよね。


「軍の方は男性ばかりではないですか?そんな所に姫様を危険ですっ」


今度はハレニアが上ずった声で異を唱えた。


「危険は無いように手立てはたてる」


「……」


カロンとハレニアはお互いの顔を見合わせた後、声を合わせて


「私達も姫様とご一緒します!」


と叫んだ。


「ええっ?!」


流石にケイ殿下もびっくりしたのか、私を見たりカロンとハレニアを見たりオロオロしている。


「どうしましょうか~私はいいけど、危なくない?」


結局…私が許可した感じになったので、カロンとハレニアは魔獣討伐に同行することになった。


そして魔獣討伐は明後日出発になった。


医院から帰る前に確認した手紙で、片目負傷のモリント君から明日の夕方診察をお願いしたいと返事があったので、少しでも早く診察出来る方がいいと判断した私は、了承の返事を『魔導蝶』で返しておいた。


明日は診察が夕方までびっしりと入っているから今日から準備しておかないとね。


夕方に自室に戻ってから討伐に持って行く物をカロンとハレニアとで確認した。夕食を食べた後も荷物の準備をしているとケイハーヴァン殿下が続き部屋からやって来た。


「討伐の準備かい?」


「はい、日数がかかるかもしれないと聞きましたので…」


下着やらハンドタオル、石鹸等を軍から支給されている麻袋に詰めていた。


「…ところでリシュリー」


「はい?」


ケイハーヴァン殿下は何だかソワソワしながら、準備する私の背後から顔を覗き込んで来た。


「あの…生地で縫っていたのは完成したのかな?」


「あの生地…ああ、深緑色の眼帯ですね!はい、完成しましたので明日、モリント君にお渡ししますよ」


この時のケイハーヴァン殿下の顔ったら無かった…真っ青になってベッドにうつ伏せになっていた。


しょんぼりしたケイハーヴァン殿下から話を聞き出すと、どうやらあの深緑色の生地でケイハーヴァン殿下は私の手作りの物を自分に作って貰えると勘違いしていたみたいだ。


笑っちゃいけない…。可愛いなぁ~と思った。


後日、少し色目の違う緑系の生地で私の回復魔法を入れた魔石を『お守り袋』に入れてケイハーヴァン殿下に差し上げた。ものすごく喜んでくれた。



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