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親父のアルバム

作者: 上野羽美

数ヶ月前、俺の親父が急逝した時の話。


社会人になって家を出てた俺と弟は急遽実家に帰る事になった。親父は趣味程度にやってた畑でいきなりぶっ倒れたらしく、そのまま帰らぬ人となって、葬儀を終えて気がついたら灰になって、何から何まであまりにあっという間だった。よく聞くフレーズだが、確かにあっという間なんだなと思った。


それは弟と遺品整理していた時のことだった。

親父は昔ながらの厳格な親父で、とにかく几帳面だった性格に助けられて、あっという間に片付きそうだった。まるで死ぬことが分かってたみたいな整理っぷりに、俺も歳取ったら常に身の回り綺麗ににしとこうかなくらいの。


少し休憩でもしようかと思ってた矢先だった。押入れの端っこから綺麗に並んだ親父のアルバムが出てきた。これもまた几帳面に幼稚園から高校まで綺麗に並んでた。


「これ見ながら休憩しようぜ」


弟が提案したので乗る事にした。


最初に高校のアルバムを開いて各クラスのページから親父の名前を探した。写真に写る親父は絵に描いたような不良っぷりで俺の知る親父とは正反対だった。たぶんばあちゃんも苦労してたんだろう。


弟と笑いながら中学、小学校とアルバムを読み進めて行ったんだけど、幼稚園のアルバムに差し掛かろうとしたところで弟が「そろそろ戻るわ」とその場を立った。


「兄貴はそれ見終わったらでいいから」


弟がそう言ったもんで、俺はお言葉に甘えてアルバムを見る事にした。


流石に幼稚園の頃ともなると親父の面影があるはずがなく、なんとなくページをパラパラとめくる事にした。


アルバムは年少組から年長組までまとめられて、小学校以上のアルバムのように個人の写真はなく、集合写真と並んだ順に名前が記載されているだけだ。


ひよこ組、もも組、さくら組、にじ組、すみれ組、すみれ組、ほし組…。


俺は違和感を覚えてもう一度パラパラとめくっていく。


ひよこ組、もも組、さくら組、にじ組、すみれ組、すみれ組、ほし組…。


確かにすみれ組が二つある。


ごく稀に印刷ミスで同じ組が印刷されてしまうという事も考えられるが、そういうことでもなさそうだった。


というのも二つのすみれ組の写真は明らかに違うものだったからだ。


一枚目のすみれ組は他の写真と同じように彩度の低い昔のカラー写真で、園内にある遊具の前で集合写真が撮られている。


しかし二枚目のすみれ組はモノクロ写真で、場所もどうやら園の外で撮られているらしい。園児の周りには彼らと同じ背丈の草が伸びて、後方には林が見える殺風景が広がっていた。たぶん遠足で撮ったのだろう。


また園児は男がみんな丸坊主で、女はみんなおかっぱで、どことなく時代を感じさせる服を着ている。


場所も時代も明らかに他の写真とは違っていた。


なんとなくその写真を見ていると気味が悪くなったので、弟のところへ行って「すみれ組ダブってんだけど」と見せに行った。


アルバムを受け取った弟が二つのすみれ組の写真を交互に見ながら「うわ、本当だ」と気味悪がった瞬間だった。


「うわああああ!!!」


弟はアルバムをその場に投げ置いた。


「おい、どうしたんだよいきなり」


そう声をかけるとまるで信じられないものを見たような顔して「兄貴、この写真見て何も思わなかったんか?」と聞いてきた。


「確かに気味悪いと思ったけど、そんなオーバーリアクションするほどでもねぇよ」


「オーバーリアクションじゃねぇよ!何でその写真全員同じ顔して笑ってんだよ!!」


俺は最初、弟が何を言ってるか分からなかった。

だって、当たり前のことだから。


幼稚園の集合写真。きっと園児たちの前にカメラマンが立って「はい、もっと笑ってー!」とか言いながら全員が笑ったその瞬間に撮るものだろう。


俺は疑問に思いながらもアルバムを拾い上げてもう一度同じページを見た。そこでようやく弟の言ってる意味がわかった。


幼稚園児がカメラの前で笑う。それは不思議なことじゃない。


ただ、これは違う。


笑うにしたってもっと色んな表情があってもいいはずだ。くしゃって笑ったり、はにかんだり、幼稚園児なら表情だって豊かだから色んな笑い方ができるはずだ。


二枚目のすみれ組の写真にあった彼らの表情は、誰も皆同じように目と口を大きく見開いて、全く同じ顔で笑っていた。モノクロで解像度も悪いのか、それはもう目と口のある場所にぽっかりと暗く深い穴が空いたみたいだった。


笑うというより、こちらに向かって何かを叫んでいるようにも見えた。


背筋が凍りついた俺は同じくしてアルバムを投げ置くしかなかった。





後日、幼稚園の頃からの親父の親友が数人で線香をあげに来てもらったので、試しにそのアルバムを見せて見る事にした。


「うわぁ…なんだこれ」


「あの、もしあればでいいんですけど、同じアルバム持ってたらこの写真あったか確認してもらっていいですか?なんかこのままだとモヤモヤするんで」


そしてまた後日、彼らから電話で連絡をもらった。

全員アルバムを大事に取っていたそうで、すぐに見つかったものの、親父のアルバムにあった写真は誰のアルバムにも入ってなかったとのことだった。


結局あの写真がいつ、どこで、誰を撮ったものなのか、そして彼らに何があったのか分からないままで、どうすることもできずにあのアルバムは押入れの奥深くで眠っている。

あらすじにも書いた通り、お話じゃなくて某洒落怖風に書いてみました。文章酷いのは仕様です。許してください。


あと朝霧山シリーズの新作書いてるのでしばらく待っててください。決着つけます

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