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Step.02 再始動

 その研究で彼は非難を浴び、一時はそれを中断せざるを得なくなった。そう“表向き”は。


 しかし彼はタフだった。一度やると決めたことはやり遂げないと気が済まない質で、密かに場所を移してその研究を続けることになる。それが『EDEN』だった。そしてそれが可能になったのは、その研究に関心を持ったある大企業のオーナーが関係していた。その人物こそが『EDEN』の創設者であり、彼もまた同性愛者の一人で、その研究に期待していたのである。



「いくらかかっても構わない。私が生きている間に実現させてくれ」



 オーナーは研究者に望みを託した。支援者となり、EDENに専用の研究施設を作り、そこで密かに研究をさせた。資金も全てオーナー側が負担してくれたので、研究者はなんの不安もなく、研究に励むことができた。 


 オーナーが生きている間に実験を成功させる。それは自分を支援してくれたオーナーのためでもあるが、彼はなるべく早く結果を出したかった。それを自分も試すために。


 実際の所、両親が二父性、またはニ母性のマウスから仔マウスを作出することは、既に中国などで成功例がある。胚性幹細胞(ES細胞)を使用した実験だ。しかしこの方法では二父性から作出したマウスは短命になる傾向があった。遺伝子操作しただけではうまくいかないようだ。おそらく雌(母親)にあって雄(父親)にはないものがあるだろう。例えばミトコンドリアDNAは母由来(※一部例外もあり)とされている。それを補えば理論的にはその問題は解決すると思われるが、彼は別の方法を探すことにした。


 彼がそうしたい理由は他にもある。彼にはこの研究をする上で、どうしても譲れない拘りがあった。それはあくまでも精子と精子の形から子供を誕生させることである。彼は精子と精子――つまり同性の形であることにこそ意味を見出し、その奇跡を起こしたかった。なので例え自分の細胞を使い、遺伝的に親子になれるとしても、精子ではなく卵子(幹細胞から作成した)と受精させるその方法は、彼が目指している奇跡とは言えなかった。彼は同性同士の愛の結晶を作りたいのだ。こんなことを夢想している彼は、単なるロマンチストと思われそうだが、それだけではない。

 この実験が成功すれば、人類の進化にも繋がると自負している。同性間からも生命を誕生させることができれば、もし異性がいなくなった時に、その方法で子孫を作ることが可能になるからだ。そうなれば、もはや同性愛者のエゴではなくなるだろう。約700万年前に人類が誕生してから現代に至るまでの歴史に終止符を打たなくて済む。この研究成果が齎すものはそれだけ大きい。

 彼は実験の構想をこう描いた。



【人の精子から二父性のこどもを作る研究】


・ミトコンドリアDNAのみ受け継がれるよう改編した人口卵子を作成。


・その人口卵子と二つの精子を受精させる。


・それを母親の胎内と同じ環境を再現した装置に入れ、赤ん坊になるまで育てる。



 というものだった。


 一つの卵子と二つの精子を受精させる方法は、半一卵性双生児ができるしくみを応用する。その際、染色体の数は父親各1セット、合計2セットに編集。そこに母親のミトコンドリアDNAを組み込み、短命になることを防ぐ。


 受精卵を育てる手段は、高齢化や子供を産める女性がいなくなったことを想定して、代理母の方法は取らないことにした。

 特殊ルートで人工子宮を取り寄せ、あとは実験あるのみ。


 仮にこの実験に成功し、彼やオーナーの夢が実現できたとしても、彼ら――とくに実験を行った研究者は世間から大バッシングを受けるだろう。だがもし研究者かれが想像していたことが現実に起きた時人々は気付かされるだろう。この研究の重大さに。


 さらにこの研究が役に立つのは人類だけではない。番を失って絶滅に瀕した生物にも応用できる。それがどれだけ意味のあることか知るはずだ。




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