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まどろみ
柔らかな木漏れ日が瞼にそそぐ。頬を撫でる風はあたたかく、木々の擦れ合う音はひそやかだったけれど少年の意識を浮上させるには十分なものだった。ゆるり、花のつぼみが綻ぶかのようにその若草が覗く様は美しいが、それを言葉にする人影は周囲にはない。
先よりはほんの僅か強い光が差し込んだので顔を背けて立ち上がる。ぱんぱんと衣類に付着した土を掃えば、さあ、と際立って強い風が彼の周りを通り抜けた。
「ああ…分かってるよ。今行くから」
そう、まるで返事のように呟いて森の深きを後にする。暫く見納めになるであろう景色を振り返ることはついぞ無かった。