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第一話

 俺の名前は、一条佑月(いちじょうゆずき)

 現在17歳の高校二年生だ。成績も顔も人並み、自分で言うのもなんだが、ごく普通の優良男子高校生である。因みに彼女なし、童貞。世知辛い世の中だ。

 だが、そんな俺の平凡な高校生活も今日までだ。何故なら今、俺はクラスの女子に呼び出され、放課後の校舎裏に居る。

 平然を装う俺、内心、心臓が爆発しそうに脈打っている。


「ごめんね、急に呼び出して。」

「全然いいよ!ど、どうした?」


 顔を真っ赤にし俯いたままの彼女を前に、俺の緊張はピークに達する。この状況では告白以外に考えられない。絶対そうだ。さらば俺の童貞人生よ。極度の興奮状態に陥っているからだろうか、何だか耳鳴りがしてきた。非常に五月蝿い。


「佑月くん、あ…ね…」


 ん?まてまて。耳鳴りが五月蝿すぎて彼女の声が聞こえずらい。なんて事だ。ちょっと収まれ俺の緊張、耳鳴りと心音。ゴクリと生唾を飲み込む。

 瞬間。一層やかましく脳内に響く心音。突然地面がぐにゃりと揺れた。え、ちょっとまて。何、これ。考えるまもなく感じる浮遊感。次いで全身に伸し掛る重み。何かに身体を引きずり込まれる感覚。世界が、揺れる。脳が、揺れる。


「あ、あのね!佑月くん!私、実は佑月くんのこと…、え?あれ?佑月…くん?」


 顔を上げた女子生徒の前には誰も居ない。その瞬間、俺は音もなくその場から消えた。こうして俺の平凡な人生は、俺の予想に反する方向で終わりを告げたのだ。





 ゴボッ。


 何だ。これ。

 昔、もっと小さいガキの頃。あぁ、俺夢でも見てんのかな。田舎の爺さんの家。

 そう言えば、小さい頃よく遊びに行ってたっけ。流れる川、綺麗な緑と水。そう、俺は良くこの川で遊んだんだ。冷たい水の感触。うん、覚えてる。

 …あれ?俺、今、何してるんだっけ?






 «熱源感知、人体形成確認、生体反応確認、血圧、体温、心拍数正常値内、システムオールクリア、転移完了致しました。マニュアルモードへ移行します。»


 あぁ、何か聞こえる。しかしそれよりも、耳鳴りが五月蝿い。俺は何をしているんだっけ。そうだ、人生初の彼女をゲットするんだった。それなのに何故だ。ここは何処だ。暗い。身体が重い。まさか俺、緊張し過ぎて気絶したのか。そんな馬鹿な。俺はどうなったんだ。声を出そうと口を開く、途端に大量の水が口の中へ流れ込んできた。ゴボッ。く、苦しい。ここは水の中?!息が、出来ない。もがき苦しみ必死に手を伸ばす。


 «液体呼吸限界突破、自発呼吸再開しました。心拍数、体温上昇、酸素濃度低下、ケース内部高濃度酸素溶解液排出開始します。»


 さっきから何か声が聞こえるけど、それどころじゃない。がむしゃらに暴れ回っていると、程なくして水がなくなった。身体の浮遊感も無くなる。突然肺に空気が流れ込んで俺はまた激しくむせた。何なんだ、一体。びしょ濡れの顔を手で拭い目を開ける。そこには防護服に身を包み、ガスマスクで顔を覆った奴らがウロウロと何やら機材を操作している。え、何、これ。まるで映画の撮影だ。


「体液の採取、急げ。」

「外見データ照合しました。転移の影響で体内色素に異常を確認。人体形成は異常なし。“彼”で間違いない。」


 何だ、何が起きている?俺はガラスケースの中に閉じ込められているようで身動きが取れない。ガラスに触ってみるが、頑丈で自力では出られそうもない。誰でもいい、俺にこの状況を説明してくれ。…ていうか素っ裸じゃねぇか!服!服をくれ!!

 必死に外の奴らに向かって叫んでみるが誰も答えてくれない。こっちの声は聞こえないのか?!突然足元から伸びてきたコードが俺の足を拘束し、何かを突き刺す。それは直ぐに俺から離れて引っ込んでいく。痛ってぇ。


 “体液採取。体内に未発祥ウイルス確認。RED。保菌者です。”


 何かよくわからん声がまた聞こえると、周りにいた防護服の奴らがざわつき始めた。


「やった、やったぞ!遂に手に入れたのか!」

「これで私達は救われる!」


 歓喜の声が聞こえる、俺は呆然とするしかない。救う?もしかして、あれか。俺が世界を救う的な、異世界転生的なあれか?!そうだと考えないと、この突拍子もない状況の説明が付かない。


「な、何かよく分からないけど。此処から出してもらえませんか?」


 しん、と静まり返る。あれ、俺何か変な事言った?ようやく話を聞いてくれたかと思えばこの反応。ん、防護服の一人がガラスケースに近付いてきたぞ。やっとこの状況を説明してくれるのかな。とりあえず、服くれ。頼むから。


「一条佑月、君は私達の救いだ。」


 ほらな、来たぜ。救いのヒーローになってくれってか。何かチート能力とか無いのかな。魔法とかいいな。うん。


「全ては、君の中に居る“MOTHER”に原因がある。君に罪はない。しかしこれは不可避であり、紛い無く現実(リアル)だ。」


 何だ、何だよ。俺の目を見る奴らは、奴らの目は。正義のヒーローを見て歓喜する目じゃない。


「世界中が、君の“死”を望んでいる。君が消えれば世界が救われる…!大丈夫、痛みはない。一瞬だ。世界の為に、死んでくれ。」




 奴らの目は、俺を、殺したがっている目だ。


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