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イチコ・アフターストーリー  作者: Tomokazu
第1話 地図と星空に描く運命のゆくえ
8/37

第1話 (6)


 6



 どのくらい歩いたのか、日はいつしか、とっぷり暮れかかっていた。


(どこかに水はないものかな)


 イチコはぼんやりと思った。ずいぶん前から喉の渇きを覚えていた。

 ふと、向こうの岩場で清水が湧きだしているのが見えた。


「やった!」


 イチコは叫んで、トワリの背後を外れ、岩場まで走っていった。


「おい、ちょっと待て!」


 トワリが言うが早いか、岩場にたどり着く前に、イチコは突然、足をすべらせた。


「えっ?」


 突然、ぐらりとした感覚にイチコは何が起こったのか分からなかった。彼女が踏み出した場所は、落ち葉や枯れ枝に隠れて見えづらかったが、ちょうど崖だったのだ。


「危ない!」


 トワリが叫んだ。刹那、イチコの動きがぴたりと止まった。足を滑らせて落ちようとしていた彼女の手を、トワリが掴んだのだ。そのままトワリは力いっぱい彼女を自分のもとへと引き寄せた。


「馬鹿野郎、俺のそばから離れるなって言ったろ!」


 耳元で怒声が聞こえたが、イチコは驚きのあまり、小刻みに震えたまましばらく話すこともできなかった。


「おい、大丈夫か。俺の声が聞こえてるか?」


 トワリはイチコの両肩を掴み、前後に揺さぶった。


「……はっ」


 イチコは我に返った。トワリの顔に安堵の顔が広がる。


「わ、私……」


「この辺りはもうずいぶん道が悪くなっているんだ。だから、もう二度と俺のそばを離れるな」


「ごめん――」


「分かりゃいい。だが、悪いことに今落ちかけた崖は、このあたりでもとりわけ高い。本当に落ちてたらヤバかったぞ」


 イチコは崖の方を振り返った。落ち葉や枝が崩れ落ちたその下は、今の場所から見ると、底が見えないくらい深かった。イチコは今さらになって、自分がどれだけ怖い目に遭ったのかを自覚した。


「よし、いくぞ。ちゃんと俺の後についてこいよ」


「分かった」


 イチコは再び歩きだしたトワリに続いた。前を歩くトワリの背中が、さっきよりも大きく見えた。



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