第1話 (4)
4
それから、トワリは準備を整え、地図を持って出かけた。
集落には大勢の人が集まっていたが、トワリを見送ろうという人はいなかった。トワリにとっても、それでぜんぜん構わないと思っていた。仲間意識などというよく分からない感情で、人と群れる気は毛頭ない。人どうしのつながりなど、トワリにとっては煩わしい以外の何物でもなかった。
けれど、ムラの門へと差しかかった時、誰かが門の前に立っているのが見えた。
「あ、やっと来た。おーい!」
トワリの姿を発見して手を振っているのは、なんとイチコだった。
「お前、何してんだよ」
「私も行くの」
「はぁ!?」
「私もふたりのことが心配なんですもの。それに、トワリくんのことだって」
「ひとりで十分だ」
「森の中をひとりで? それこそ自殺行為だよ」
「放っとけ」
「やだ。仲間だもん」
トワリは煩わしさを感じた。先ほど不要だと思ったばかりの仲間意識を押しつけられたのだ。人に何かを押しつけられるのも、トワリにとっては苦痛なことだった。
「勝手にしろ。その代わり、どうなっても知らないからな」
トワリは吐き捨てるように言って、門を出た。イチコはトワリの後に続きながら言う。
「あ、そんなこと言っていいのかな?」
「何がだよ」
「危険なのは、トワリくんの方じゃないかってこと」
「なんだと?」
「武器も持たずに、森の中に入っていくなんて、信じられないよ」
「お前も持ってないじゃないか」
「私にはこれがあるもん」
イチコはにっこりと、胸元で大事に抱える大幣をアピールした。
「神に通じる役職の特権だよ。武器でけものを追い払うことはできないけれど、神秘のパワーでけものを近づけないようにすることはできる。私、この力で、トワリくんを守ってあげるよ」
「もういい、好きにしろ」
トワリは心底呆れたように言って、そこからは黙って歩きだした。出発早々疲れたような雰囲気を漂わせるトワリに対し、イチコの足取りは軽やかだ。実際、彼女はウキウキしていた。アラキとコモンのことは心配だが、トワリと一緒にいられることが、なぜか彼女には嬉しく思えてしまうのだった。