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照れと本題

人というものは何もしていなくとも、誰かに「した」と言われれば、した気がしてしまう。


今のこの状況も似たようなものだ。


事実俺は、アリス本人から間違いなく避けられている。


思い当たる節などあるわけもない。何故なら俺は彼女と話したことすら殆どない。


もしその中で嫌われたというなら、俺は金輪際人と関わらない方が良さそうだ。


「な、何で先生を入れたのよ! 私、何も聞いてないんだけど?」


お嬢様はお怒りのようだ。強めの攻め口調で使用人をまくし立てる。あれ、なんか涙が・・・


「しかし、客人ですし柵の外でお待ちいただくわけにも・・・」


「だからといって報告に来ないのはどうなのよ?」


「それは従医の指示を聞かず、お嬢様が自室に居ないからじゃありませんか」


「仕方ないじゃない、暇なのよ」


当の客人をそっちのけで主人と従者による口論が始まった。


というか従者の言葉遣い的に、主人と従者って距離感近いんだなと思ってしまう。


言い方はアレだが、もっと絶対服従みたいなのを想像していた。


「すまない、カートレット。先生が客室から君の姿を見つけて、客室を飛び出してきてしまったのが悪かったんだ」


とはいえ黙り込んでこのままアリスを誤解させたままは何だか悪いので、口を挟み、弁解する。


「い、いえ、先生を責めてるわけじゃなくて・・・」


何だかもじもじしているアリス。


もしや嫌われてるのではなく、単なる人見知りか・・・? しかし学校では誰に話しかけられても、焦る様子は見えず、つっけんどんに返している感じだったが。


「まぁ本人も満更ではないようですし、どうぞお話をお続け下さいな、先生。私は席を外しますから」


「あ、ちょ、エレイス・・・」


2人のやり取りを見て円滑に場を進めた使用人と、立ち去ろうとする彼女を名残惜しそうに見るアリス。


主人と従者というより、妹と姉のようだ。


2人の仲介役であった使用人がその場からいなくなり、一時の沈黙が訪れる。


話があるのはこちらなので自分から切り出す。


「とりあえず、中に入らないか? ここじゃ、アレだし」


場所を用意してもらってなんだが、屋外でするような手短に済む話でもない。こちらとしては屋敷の手近な部屋かどこかでゆっくり話したいのだが・・・


「い、いえ! 大事な話なら、誰かに聞かれては先生も困るのではないですか??」


「いや、特に困んないけど・・・」


何故か彼女は屋内に入りたくないらしい。そういう気分とかだろうか。


「ええっ!? 困んないって、そんな熱烈に見せつけたいんですか!?」


「見せつける必要も特にないけど・・・」


今まで気にしないようにしていたが、この子こんなキャラじゃないよね?


学校で見た感じだと、凛と佇む、氷の女王みたいだったはず。


にらめっことかで、誰がどんな変顔を披露しても、表情ひとつ崩さず、自分は冷たい目で相手を震えさせるような感じ。


それが今はどうだろうか。


さっきから驚いたり、怒ったり、人見知りしたり。


今まで見たことのない表情のオンパレードだ。本当に同一人物かを疑うレベル。


「そんなちょっとまだ心の準備が出来てないっていうか、恥ずかしいっていうか・・・。あ、でも男っ気がないってバカにしてるエレイスを見返せるかも・・・」


そして今はこちらから顔を背けつつ、チラチラこっちを見つつ、独り言をブツブツ呟いている。


掴みは悪くない。というか自然に会話できているだけマシだ。勝負はここから。





━━━━

「どうぞ、お入りください」


「あぁ、ありがとう」


流石に屋外でするような話でもないし、そこまで手短に終わらせる気もないので、屋敷内にある適当に空いた部屋に案内してもらった。


ここに来るまで屋敷内を見たが、部屋数は数え切れず、廊下に飾ってある壺や、絵は損害でも起こせば、一生かけても弁償できないような雰囲気の物ばかりだった。


噂には聞いていたが、カートレット家はやはりかなりの名家で間違いさそうだ。


「あの・・・ここなら誰にも聞かれませんので━━」




「本能の赴くままに、想いを叫んでくださってもいいんですよ・・・?」




胸に手を当てて、上目遣いでこちらを見てくるアリス。


ひょっとして風邪でも引いてるんだろうか。


今日1日、というか今の数分で俺の中の彼女のイメージは完全に変わった。


そしてさっきからこの子の意図がよく分からない・・・


そんなに担任の先生と会話するのを見られたくないのか? そんなに聞かれたくないのか?


残念ながら俺と彼女は異性なので、俺に彼女の心情を読み取ることはできない。そういうお年頃だから、としか推測不可能だ。


まぁ誰に聞かれようが、誰に聞かれなかろうが俺には好都合も不都合もない。


とりあえず、今日の俺の目的は、




彼女との楽しいお喋りだ。




「アリス、聞いて欲しい。今から先生と━━」




「楽しい恋バナをしよう。」




どう転がろうがもう賽は投げられた。

あとはなるようになる、と信じよう。





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