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昨夜は映し流れた。

作者: 髙月 晴嵐

解釈は各自にお任せします。


はて? 何故、私は携帯に文字を打ち込んでいるのだろう。

昨夜は確かに携帯を触っている間に寝ていたのだろう。しかし、文章を打とうとして目覚めるとは。

画面に映し出される文字を眺める。

だが、浮かんだ文字は形を留めずに崩れていった。

ろくにまともな意見も書けない、基本的な表現のルールも知らない癖に生意気にも読者から筆者になろうとしている。

そんな私の作品なんて誰が読むものか。

はぁーっと長いため息をつき、携帯の電源を切った。


そこから暫く考え込み、電源の切れた液晶を見つめる。黒い鏡に映し出される顔は睡眠不足のせいか、不満そうな表情だった。

ベッドから降りて、テレビの電源をつける。

画面に映し出される顔は私と違ってイキイキとしているように見える。

常に視聴者を気にするような表情使いは巧みに言葉を操り、画面の中へずるずると私を引き込ませる。

さぁ、映し出される真実だけを聞けと。

睡眠不足のせいか、普段ならなんの違和感もなく受け入れた映像はそのように呟いた。

彼は私に何を見せたいのだろうかと考えていると画面が切り替わった。

一人の人物が明らかに目に悪そうな光の煌めきを浴びて、断罪されていた。今週の自業自得な視聴者の生贄は彼である。

瞠目の表情を浮かべた大の大人達が我先にと押し寄せていく。

カメラは揺れ、塞がれ、乱れて彼はついに見えなくなった。

とても見てはいられない。

おかしい。いつもは何も考えずに見ることができたのに。私はどうしてしまったのだろう。


無意識にリモコンに手を伸ばし、見ていた局を変えようとする。どのチャンネルを押しても画面は切り替わらない。この世にテレビ局が一つだけという筈がない。流れている物が同じなのである。

そんな都合の悪いことなど気づかなければ良かった。

存在を確信していた真実に一つでも違和感を持ったならそれは簡単に崩壊する。


背中にじっとりと汗が浮かび、鼓動が早まるのがわかった。

脳がこれは夢ではないかと警告を発するが、私自身には現実との区別がつかない。

逃げ場など何処にもないのに恐ろしくなって家を飛び出した。


家の前から駅へと続く道路はいつも通りの平凡な光景であった。

今の精神状態は良くないのか、そんな変わらない筈の景色にも違和感を抱いてしまった。

道行く人は皆、手に持った液晶を観ながら山のような課題を両手に持ち、息を切らしながら無言で足を進めるのだ。

道の横には暖かな陽だまりに設置されたベンチがあるというのに。

群青の空も見上げること無く、小鳥の囀りさえ聞く暇もない。

色彩溢れた世界など見向きもせずに人々は足を進め、快適なオフィスで一日を過ごすのだ。

私は何だか世界に自分一人だけ取り残された気分になった。私はこの列に加わるべきなのか、それとも一人でまだ違和感を感じているべきなのか悩んだ。


結局、きっぱりとは決断できず、私は人々に流される形で緩やかに行進に参加した。

もし、今見ているものが夢だとするならいつ覚めるのだろう。

不思議と落ち着きはじめ、そんな事を考える。


歩いて行くうちに駅の方から大音量の声音が私たちに向かって流れてきた。

何だろうと思って駅前の広場に出て、立ち止まる。

とある若い議員が必死に声を荒らげ、公約と自身の名前を叫んでいた。

民の為と叫ぶ姿に誰も感動するどころか、話を聞くこともしない。

皆、液晶を食い入るように見つめ、誰かにぶつからないように気を使う。

聞いているのは私だけなのではないだろうか。

一瞬、その若い議員と目があった。その澄んだ目は彼も一人の若者なのだと気付かされる。期待の目で見られて手を振られ、こちらも軽く手を振る。

若者は笑顔になり、感謝の言葉を言うと、もう話すことはないと去っていった。

先程の事が頭から離れないまま駅に入った。


電車に乗って今の状態を考える。

また、違和感を抱いてしまった。

大勢の人が狭き箱に閉じ込められてるのに、彼らは抗議の声を上げずに当然とした顔で揺られている。

どこか安心出来る場所はないのだろうかと私は視線を逸らす。どこを見ても広告ばかりなのだ。

ふと、視線を逸らすと女性が臀部をまさぐられていた。明らかな犯罪行為なのに誰も注意しない。私はそれを注意しようとしたが、注意したら何か悪いことでもあるのかとつい周りを見てしまう。

変化は次の駅に着いた時である。女性が自分から男の手を掴んだのだ。その途端、周りの表情は一気に変わった。犯罪ですと男を責めると周りも急に馴れ馴れしくなり、即席の勝手な断罪の場が作られる。

しかし、女性が掴んだ手は犯人の手ではない。全く無関係の清潔な手なのだ。

断罪の場はそんな事実など許さないという空気に支配され、その場で見ていた私の意見などは無視された。

男の人生など関係ないと彼らの娯楽の為に事実は塗り替えられていった。

閉じ込められた世界に気持ち悪くなり、次の駅で降りた。



とてもじゃないが、先程と同じようにはあの集団に入れそうもない。

この吐きそうな気分も簡単には治せないだろう。

世界はこんなにも狂っていたのか。

それとも私が狂っているのか。

どちらにせよ、誰も狂っていることには気づかない。

人々のいつの間にか抑圧された意思はどこに向かうのか。

道行く人々を見る。皆の目は液晶に映し出された情報に釘付けだ。

路地裏で飢えている名の知らない人などいないように。

隣にいる名の知らない人物のドラマなんて興味ないように。


私は走り出した。

恐ろしい。夢ならいい加減に醒めてくれ。現実なら幻覚を見せてくれ。せめて皆と同じ感覚に戻してくれ。

そんな事を考えていると周りをよく見ずに走ったせいか人とぶつかり、転んでしまった。

その瞬間、一斉にこちらを見る視線。

幸い、相手は倒れなかったが、人々の注目を集めてしまった。

周囲の視線が背中を指す。被害者の事などは気にせず、批判の目を向ける。

大勢で他者を攻める時の狂気を孕んだ怪物の目だ。

その場の空気に合わして考える事など捨てているのだ。

私はぶつかった相手に謝ると、その場から逃げ込むように近くの喫茶店に駆け込んだ。


カフェには多くの若者がいた。

大量生産されて安くなったコーヒーを注文する。ついでに何故こんなに人が増えたのかと聞いた。

何でも流行りのモノを追い求めていると言う。ここでもやはり人々は液晶に触れ、流行りのカフェと写真を上げて共感の二文字を求めていた。

確かにその行為は世の中と繋がる方法の一つなのかもしれない。

しかし、簡単に指で操作して後悔はしないのか?

上げられた画像は瞬時に拡散し、二度と完全に消える事はない。

嘘も真実も消えて欲しかろうか、欲しくなかろうが永遠に情報の海を漂い続ける。

私達の記憶は頭ではなくネットという怪物の所有物へと変えられていく。


カフェを出て街の中を歩く。

私の手には液晶が握られている。

こんな小さな機械が世界の何億という人を情報の海に繋げるのだ。

彼らの抑圧された意思はその海さえ汚染し、色を濁して行く。

集団という頭のない怪物が無限に生まれる海へと。



どこからが歌が聞こえて来た。どこか遠い過去で聞いたようなメロディだ。

その歌声は少なくとも私には響いた。

歌のする方へと無意識に足を進める。

見上げると女性がビルの屋上に立っていた。いつの間にか日は沈みかけ、街の灯りが分厚い雲を照らしている。

私は彼女が何をしたいのかすぐに分かった。

それは私が否定している行いだった。


辞めてくれ。例え群衆が気づかなくてもあなたには価値があるではないか。



フェンスを乗り越えて空を眺めている彼女の声に誰も気付かず、下を見るばかりだ。

まさか自ら命を捨てる筈が無いとでも思っているのだろうか。

私は走り出してビルの屋上に向かった。

息を切らしながら階段を登りきり、屋上へのドアへと手をかける。


ドサッと嫌な音がなった。


ドアを開け女性の姿が見えない事に気づいた。

フェンスを乗り越えて、下を見る。

死体などは見えなかった。



残り火を消す水の如く暗く染まっていく空を眺めて今日の出来事を振り返る。

携帯電話の日没を知らせるアラームが鳴った。画面を見ていつの間にか時間が経っていた事に驚く。

無意識に持ち歩いた液晶画面はすぐに切れ私の顔が映った。

大急ぎで画面をつけ表示された文字が私の顔をかき消す。


浮かんだ文字は歪み読めたものではなかったが、

不思議と勇気が湧いていた。


どうも。

晴雲はれゆく 世為せいいです。

これからよろしくお願いします!


この日より、自分の書きたいものを自由に作っていきたいと思います。

素人なので下手な文書、わけのわからない表現、誤った言葉の使い方、不定期投稿、打ち間違い、など様々な失敗をすると思いますが、よろしければ暖かい目で見守ってください。


それでは、私のメンタルが折れてなければ正月にまた会いましょう!

良いお年を。

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