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2018.11.24 更新:3/3
最終話になります。最後までお付き合い下さいませ!
古い時代から、人と魔物の争いが連綿と続く、この世界の片隅で。
それでも、真に心を通わせた一人と一羽が居るのだと、どうか知ってはくれないか。
普段、身を置いている王都――いわゆる国の中心地――を出発して、一週間あまり。久しぶりに、住人が多く暮らす町へやってきた気がする。
目深に被った外套のフードを外し、フィルはほっと安堵の溜め息をつく。ゴトゴトと過ぎ去る簡素な馬車を見送り、町の入り口を潜り抜けた。
辺境にしかない珍しい伝承や、その地で活躍した人物の逸話などを見聞きするため、国の中心地から遙々とこの緑豊かな地方へ訪れたが……さすがは田舎。町と町の間の距離は大きく、隣町を目指すだけでもこの大移動だ。足腰と共に心も挫けそうになったけれど、一つくらい、珍しい話を持って帰らなければと奮い立ち、ようやく町に到着した。
なにはともあれ、まずは休憩だ。そして、空きっ腹に何か入れなくては。
宿屋を探して部屋を取った後、すぐ側に構えた食堂へ入った。
「――はいよ、日替わり定食、お待ちどおさん! ずいぶんと疲れた顔をしているね、あんた」
「王都の方から来まして、ようやくこの町に到着しました」
猪肉の照り焼きにかぶり付きながら、食堂の女将に答える。彼女はいたく驚きながら、それは大変だったねほらおまけだよと、小皿に山盛りの果物をつけてくれた。
「こんなところまで旅行かい?」
「まあ、そんな感じです。冒険者の資格も持ってますが、吟遊詩人を目指していて」
各地の出来事は、人から人へと伝聞する噂話や、旅人や吟遊詩人の詩で伝わる事が大半だ。
もともと伝承や伝説、英雄の活躍などの物語が好きで、冒険者稼業をこなす傍ら、詩の題材探しに没頭している。まあ、資格といっても、下級のままで大した事はないのだが……。
「女将さんも、何か知りませんか。この町の事でも良いんですか、伝承とか有名な人の話とか」
「有名な人かい? そうだねえ……」
すると、食堂に居た客の数名が、背を振り向かせて言った。
「有名と言ったら、やっぱりあれだよな」
「ああ、あれだな。草原の町の。ここいらじゃあ、定番中の定番だ」
「定番? それって、どんな話ですか」
フィルが尋ねると、彼らはにこやかに笑った。
「草原の町の冒険者と、えらい別嬪なハーピーの話さ」
冒険者と……ハーピー?
ハーピーというのは、あの気性の荒い獰猛な妖鳥の事か。
情報の飛び交う王都でだって、そんな組み合わせは聞いた事がない。いきなり漂う珍しい話の匂いに、フィルは椅子を蹴るような勢いで立ち上がり、彼らに詰め寄った。
「あ、あの、そのお話、是非詳しく!」
そして、翌日――フィルは手早く準備を整えると、さっそく町を飛び出していた。
あんな話を聞かされたら、ゆっくりなんてしていられない。その冒険者とハーピーに直接会って、話を伺わなければ!
『一年くらい前か? 草原の町の近くにある森で、けっこうな規模の魔力溜まりが発生してよ』
『今でも思い出すよ。血相変えて近くの町や村から冒険者をかき集めてさ。この町にも、その声が掛かったっけな』
緑豊かな地方の片隅、森と草原に囲まれた、長閑な辺境の町。
遙か昔からその一帯には、強力な力を持つという美しい緑の高位精霊が存在し、守られているのだという。
精霊と密接な関係にある穏やかな町だけれど、一年ほど前に“魔力溜まり”が発生し、そこから害獣が産み落とされた。
戦いは避けられるものではなく、挑まざるを得ない状況だったが……その害獣は稀に見る巨大な姿をし、その上――災害級の上位種に相当するものとされたそうだ。
そんな強力な害獣が出現してしまったら、王都でさえも大騒ぎになり、恐慌状態に陥るだろう。
そんな害獣と一夜戦い続けて討伐したのは、辺境の地にいた大勢の冒険者たち。そして、そこに所属する一人の青年と、一羽のハーピーなのだという。
そのハーピーは、純白の羽根で身を包み、さながらおとぎ話に現れる女神の使いのような美貌を持っているのだとか。
ハーピーと言えば、上半身は人間で、下半身と両腕は鳥の、半人半鳥の魔物である。雌しか存在せず、しかもそのどれもが絶世の美女といってもいい美しさを誇るという。
しかし、彼女たちは、雑食ではあるが特に生肉を好み、人間の肉も喰らうと言われている
どれだけ美しくあろうとも、魔物は魔物。極めて獰猛で、気性の荒い、人間の天敵のはずだ。
その上、彼女たちの巣の多くは、険しい渓谷や断崖、雲に抱かれた山頂など、おいそれと人が立ち入る事の出来ない場所に作られているという。めったに人里でその姿は見られないのだ。
そんなハーピーが――契約の術の縛りもなく、自由意志で人間の町にいて。
おまけに天敵であるはずの冒険者たちに懐いているなんて! そんな馬鹿な!
『信じられねえだろ? でもこれが事実なんだなあ』
『そいつら、最近は色んなとこに出掛けてるみたいだけど、今も草原の町に居るはずだ』
食堂に居た彼らが言う事には。
女神の使いと見紛うハーピーは、物理技しか持たないはずなのに魔術のようなものを扱うらしい。また、生肉を好むはずなのに、果物しか受け付けない草食であるとか。
そのハーピーとよく出かけるという冒険者は、もともと万年中級だったが害獣の戦いの際にはハーピーと共に活躍したらしい。その後、厳しすぎる事で有名な上級への昇級試験を受け、一握りの上級冒険者となったとか。ただ、腕利きのわりにそういうオーラが全くなく、常に何事か叫びながら走り回っている姿が各所で目撃されているそうだ……。
終盤は逸話ではないが、ともかく、そんな組み合わせがこの世界に存在しているなんて。
(面白そうな話だ! 新しい英雄譚が作れそうじゃないか!)
中心地である王都は、住人も冒険者も多く出入りするので、様々な逸話や活躍が耳に届きやすい。しかし、ここ最近は真新しいものは聞こえておらず、詩人の語りもなかなかパッとしないでいる。
そんな中で、この地にある冒険者とハーピーの物語は、題材として申し分ない。
そう思うフィルは、逸る気持ちを抑えられず、勢いのまま駆け出してしまい――。
「うわああああああああ!!」
「ギャオン! ギャオン!」
森林を根城とする、狼の魔物の群れに追われていた。
当たり前である。ここは自然のただ中、人ではなく魔物の領分なのだ。襲われるという危険性は、考えるまでもなく常に付きまとっているというのに。
何、考えてんだよ。僕の馬鹿。
フィルは、思い付く限りの罵詈雑言を、胸の中で自身へ叫び散らした。
冒険者の資格もあるが、どちらかといえば吟遊詩人を志す傍らの兼業のようなもので、剣の扱いは言うほど得意ではない。懐にある短剣で、背後から迫る狼の魔物たちをこれで全て倒そうだなんて、とてもじゃないが思えなかった。
「――あぐッ?!」
その時、必死に前へと踏み出す足が、木の根に引っかかった。
身体が崩れ、そのまま地面を滑るように倒れ込み、頬を強く打ち付ける。
いくつもの獣の鳴き声が、凄まじい速さでフィルのもとに近付いてきている。それでも、這いつくばりながら、必死になって前を向いた。
――フィルの頭上を、風を引き連れた影が過ぎ去ったのは、その時だ。
倒れたフィルを全て覆うほどの、巨大な影。
鳥か、それとも、もっと別の――。
ふと顔を上げ、空を仰いだその瞬間、晴れ渡った青空を背にし急降下してくる“翼”が視界に飛び込んだ。
「キュァアアアアアア!!」
「うわあああッ?!」
鳥のような、甲高い鳴き声が辺りに響き渡った。
吹き下ろしてくる突風と、広がった翼の迫力に驚き、咄嗟に頭を守り身体を小さくする。
その頭上を掠めていった翼の持ち主は、フィルの背後から迫っていた狼の魔物を強襲し、強かに翼で打ち据えると再び空へ舞い上がった。
あまりにも突拍子のない出来事に、状況を忘れ、茫然と空を仰ぎ見た。
しかし、上空からの攻撃を免れた狼の魔物は、まだそこに居る。無防備に座り込むフィルへ、真横から猛然と躍りかかった。
「――どっせぇぇい!」
気合いの掛け声が聞こえたかと思うと、跳躍した狼の魔物が、地面へと叩き付けられていた。
「早く立て! 次、来るぞ!」
「えッえッ?!」
フィルの前に人影が割り入ると同時に、魔物が跳躍する。素早く吹き払われた長剣が、魔物の首を切り裂いた。
そこからは無我夢中で、フィルもその人物と共に、武器を握って応戦していた。といってもほとんどの魔物はその人が相手取り倒していたため、せいぜい背後に近寄らせなかった程度の働きしか出来ていない。
群れた魔物に対しても、至極冷静なその姿から、戦い慣れした気迫を終始感じた。少なくともフィルなどよりも、ずっと腕利きの冒険者だろう。
やがて、襲いかかる魔物の群れからは敵意が消え、茂みの奥へ走り去ってしまった。攻撃が止み、豊かな林に静寂が舞い戻る。
フィルは茫然と、魔物たちが去って行った方向を眺めていた。あっという間の出来事で、もはや何が起きたのかよく分からない。
「おい、大丈夫か、あんた」
ドサッと座り込んだフィルの頭上から、低い声が聞こえた。地べたに尻をついた格好のまま、仰ぐように振り返る。
佇んでいたのは、鈍色の防具を身に着けた青年だった。明るい茶色の髪と瞳を持つ、フィルとも年の近そうな人物だが、伸びやかな上背や広い肩周りなど、なかなかがっしりとした印象を受ける。
そして、彼の首には、冒険者の等級を示すプレート状の認識証が掛けられていた。
(輝く白銀……上級か……!)
ギルドから与えられる冒険者の等級は、最下級、下級、中級、上級、特級の五つである。
最下級と下級は、初心者の意味合いが強く、中級はその稼業になれた中堅で、ここでようやく一端の冒険者を名乗れる。それよりもさらに上にいるのが、高難易度の依頼をこなせるだけの実力を持つ、上級。そして、強者の象徴でありギルドだけでなく国からも厚い信頼を寄せられる、特級だ。
現在、各地で活躍する冒険者のほとんどは下級と中級で、実は上級と特級はそれほど多くは存在していない。上級のプレートを持つ冒険者は、それだけで特別な存在だった。
「――おい、大丈夫か。どっか、怪我でもしたのか」
「あ、い、いえ。平気です」
フィルが慌てて首を振ると、青年は人当たりの良い気さくな笑みを浮かべた。それから空を仰ぎ見ると、頭上を旋回している大きな鳥の影に声を掛けた。
「こっちは良いぞ! 他に何か見えるか」
「ううん、何も。いなくなったみたいだよ」
「そうか、ありがとな。下りてきて良いぞ」
鳥、ではなかったのだろうか。返ってきた声は、鈴のように綺麗な、娘のものだった。
……いや、人間は、空を飛べないだろう。
やがて、青空の中を羽ばたいていた翼が、ゆっくりと下りてきた。
その翼は、野鳥の類いではない。それよりも、もっと大きく、もっと力強い何かだ。
無意識の内に緊張しながら、フィルは身動ぎ一つせず、地上へ降りてくるそれを注視する。
――そして、思わず、呆けてしまった。
軽やかな音を立て、大地に降り立った鳥は――ハーピーだった。
柔らかな陽射しを一身に浴びるその姿は、僅か一点の曇りも汚れも見当たらない、純白の色に染められている。ハーピーの代名詞である、両腕の翼だけではない。風に揺れる長い髪も、ひきずるほどに長い優雅な尾羽も、下半身を包む羽毛も、それどころか大きな瞳や縁取る睫毛も、その全てが真っ白に輝いているのだ。
暖かな太陽の下にあるせいか。その存在はあまりにも眩しく、そして神々しかった。華奢な全身に光を纏っているよう。
その上。
「う、あ……ッ」
変な声が出るくらいに整ったかんばせをしていた。十代半ばほどに見えるが、既に美女の風格が漂っている。清楚だが、何処か危うい、あまりにも美しい娘だった。
絶世の美女の上半身を持つ魔物といえど、これは、まるで――。
「私、ちゃんと追っ払ったよ。みんな、もうしないよって言いながら逃げてた」
「そうか、よくやった。偉いぞ」
「ルゥウ~」
上級の冒険者に、女神の使いと見紛う純白のハーピー。
もしかして、この人たちが――!
「あ、あなた方が、噂のお二人ですか?!」
「おおうッ?!」
「ピャア?!」
地面に座り込んだ情けない格好のまま、フィルは青年の手を強く握り締めた。
◆◇◆
「腰が抜けて立てなくなっても俺の手を離さないとか、面白い奴だなあ」
「いや、本当に、申し訳ないです……」
上級冒険者の青年は、気にした様子もなく笑っているが、フィルは申し訳なさで頭が上がらなかった。
先ほどの魔物の群れとの戦闘のせいで、フィルの腰はすっかり抜けてしまった。冒険者の青年は笑いながら、立ち上がれないフィルに肩を貸し、周囲をよく見渡せる川縁にまで連れてきてくれた。おまけに現在、火を熾したり飲み水の用意をしてくれたりと、休憩の準備までしてくれている。
上級冒険者の人に、こんな面倒を掛けてしまうとは……。このまま地面に埋まってしまいたい。
「重ね重ね、面倒をお掛けします……」
「いやいや、俺らもちょっと遠出してて、そろそろ休憩取らなきゃなって思ってたしな。ちょうど良かったよ。あ、自己紹介でもしとこうか。俺はグレン、よろしく」
手袋に包まれた大きな手が、フィルの前に差し出される。それを握り返すと、フィルも笑みを浮かべて言葉を返した。
「僕はフィルって言います。助けてくれてありがとうございます」
「いや、怪我がなくて良かった。そんで、連れのハーピーの……リア、挨拶出来るか? セリーナたちと練習した、あの丁寧なやつ」
「ル! 大丈夫だよ、こないだ全部覚えたんだから!」
全身を純白で染めたハーピーが、フィルの前に一歩踏み出す。すると、彼女は少し腰を落として屈むと、優雅に左腕の翼を広げ、右腕の翼を胸の前へ持っていった。
「お初にお目にかかります。ハーピーの、リアと申します。以後、お見知りおきを」
気性が激しいと言われているハーピーらしからぬ、優雅な物腰と、美しい淑女の礼。両腕の翼と羽毛に覆われた鳥の足を除けば、どこぞの貴族のご令嬢のようだ。純白に染まった目映い美貌も相まって、フィルの心臓は大袈裟なくらいに飛び跳ねた。
「あ、いや、ご丁寧に……えっと、フィルです」
「あんたを見つけたのは、こいつなんだ」
「そ、そうなんですか。あ、ありがとう」
ぺこりと頭を下げれば、ハーピーは人懐っこい無邪気な笑顔を咲かせた。魔物と分かっているのに、その微笑みの威力はあまりに大きく、心臓が奇妙な音を立てた。
「ほらッ! ちゃんと、出来てたでしょ?」
「ああ、完璧だった! くッうちのハーピーすげえわ……!」
白いハーピー――リアは、くるりとグレンへ振り返り、どうだと言わんばかりに胸を張った。その仕草はあどけない少女そのもので、そしてグレンは両目を手のひらで覆い隠し空を仰いでいる。我が子の成長に感涙する、親のような姿だった。
なんか、思ったよりもずっと、濃い人達だな。
もちろん、けして悪い意味ではない。それに、威張り散らす冒険者が存在する中、グレンは上級でありながら気さくかつ親しみやすい。例えるならば、近所の兄貴分のよう。この短時間の間で、フィルはすっかり気を許していた。
……あれ? そういえばこのハーピー、今――。
「しゃ、喋った?!」
「うお、ようやく気付いたか。良い反応だなあ」
悪戯が成功したように、グレンは楽しそうに笑った。その隣に並ぶリアは、不思議そうに首を傾げる。
「色んな人たちから言葉を聞いてるんだから、当然。人間も喋るんだから、魔物たちが喋ったっておかしな事はないよ。精霊だって喋るし」
いや、まあ、それは確かにそうなのだが……。しかし、空からの強襲を得意とする獰猛なハーピーから、まさか人の言葉を聞くなんて……。
「大抵の奴はそういう反応をするんだけどさ。まあ、世の中そんなのもあるって事で」
「え、ええー……」
そんな、あっけらかんとした対応で良いのだろうか。先ほどから、自分の中にあるハーピーの心象に亀裂が走っているけれど、それも“そんなもの”で済むのだろうか。
「さてと、自己紹介も終わったし……ちょうど余ってた燻製肉があるんだ。炙って食べようぜ」
「あ、僕も準備のお手伝いを……」
「いいっていいって、俺が食いたいだけだし。ほら、なんか先輩っぽくて良いだろ?」
でも、と言い募ると、フィルの肩を白い翼が押し止めた。
「グレンはこういう人だから、気にしなくて良いの。私の時もそうだったし、何言っても無駄だよ」
「言葉を覚えたら、お前もなんか辛辣になったな」
「そんな事ないよ、前とおんなじ。ほら、フィルも気にしないで座ってて」
リアに促され、フィルは手頃な石の上に腰を下ろした。
(二人とも、仲が良いんだなあ)
古い友人のような気兼ねしないやり取りから、彼らの関係の親密さを感じる。
しかし、ハーピーの首には、桃色の石を飾ったチョーカーが着けられているが……恐らくは、桃色を宿した魔石だ。ただの装飾品ではなく、魔道具の類いに違いない。
もしかしたらそれが、契約の証なのか。
食堂の客からは、契約の術で縛られていないと聞いたが……やはり噂のようだ。古くから天敵同士である人間と魔物が、契約なしで同じ場所にいるわけがないものな。フィルはそう納得し、白湯を口に運んだ。
するとフィルの隣に、リアがすとんっと腰を下ろし、おもむろにじいっと見つめてきた。横目に見るとかそういうのではなく、もうガン見だ。しかも、至近距離から。
いや、ちょっと、見過ぎじゃないだろうか。
まじまじと真っ直ぐ注がれる視線に、フィルは両目を泳がせる。相手は魔物で、人間の男を拐かし喰らうという魔性の存在。だとしても……こうも人間らしさがあると、どうしたって意識してしまう。
なにせ顔立ちも、胸当てなどの軽防具を身に着けた上半身の造形も、本当に綺麗なのだ。フィルが居た王都にも美女はたくさん居たが、それらとはまた異なる美貌を彼女は持っている。これが、人ならざる魔性の魅力というやつか。ハーピーの餌食にあってきた世の男たちも、きっとこれに惹き付けられたのだろう。
……正直、今ならその気持ちが分かる。
「あはは、悪いな。人間の暮らしとかにはだいぶ慣れてきてるんだけど、もとは野生の魔物でさ。距離の詰め方とか、こればっかりはどうしたって人間と違うんだ」
「そ、そうなんですね……」
「教えてはいるんだけどな、ただ、これでもかなり大人になったよ……。前は本当、振り回されたなあ……破天荒な振る舞いに……。あ、それは今もか」
グレンは独り言を呟きながら、燻製肉を炙る支度を済ませる。それから、リアの側へ近付き、華奢な肩を両手で掴んだ。
「ほーらリア、フィルが困るから、もうちょっと離れな」
「ねえ、グレン!」
しかし、リアはまったく気にしていないようで、屈託のない笑みと共にグレンへ振り返った。
「フィル、男の人なのに、綺麗な顔」
「ん? ああ、まあ、確かにな」
「グレンと、全然違う!」
「ぐっふぅう! 胸を抉られるゥ……!!」
グレンは両膝をつき、上半身を地面に投げ出し、崩れ落ちてしまった。無邪気だからこそ鋭さを増したその言葉は、相当なダメージを上級冒険者に与えてしまったらしい。
「あの、グレンさん、し、しっかりして下さい」
「ふふ……まあ、こんな感じにな、魔物と人間は物の見方も違うんだぜ、フィル君……」
ああ、涙が……グレンさんのまなじりに、涙が見える……。
「あ、人間は、美しいとか醜いとか大事にするんだっけ……。でもグレンは、ゴツゴツした顔の、優しい人間じゃない。泣かないで」
きっと魔物にとって、人の美醜はさして重要ではないのだろうな……。価値観というか、その辺りの相違を、フィルも確かに理解した。
火に炙られて香ばしい匂いを漂わせる燻製肉が、そろそろ食べ頃となった。グレンから差し出された串を受け取り、分厚い輪切りのそれにかぶり付く。魔物に追いかけ回され走り続けていたせいか、燻製肉の香ばしい旨みが普段以上に美味しく感じた。
炙った肉を、ハーピーにも分けるかと思ったのだが……リアはそれに見向きもせず、くし形に切り分けたリィゴの実を頬張っている。爪の生えた鳥の足で器用に掴み、口元へ運んでは、美味しそうに咀嚼していた。
ハーピーは生肉を好むと聞いているのだけれど、彼女は興味を示さないのか。
「肉を食べないっていう話は、本当だったんですね」
「ああ、それな、俺も未だに不思議なんだけど」
すると、リアが途端に「生肉、嫌い!!」と叫んだ。本当に嫌そうな表情をしており、口にも入れたくないようだった。
「……と、リア本人がいたく嫌って、絶対に食おうとしないんだよなあ。雛から成長しても、こればっかりは変わらない」
「雛……?」
「なあ、ところでフィルも、同業者だっけ」
「あ、はい。下級ですが、その、吟遊詩人を目指してるんです」
もともと各地の伝承や英雄の逸話に触れるのを昔から好み、それと身近に接するうちにそれを伝える詩人になりたいと思うようになったのだ。今では冒険者稼業の方がおまけになってしまっている。
「えっと、グレンさんは上級ですよね」
「まあ、一応。でも中級がずっと長かったから、上級としては成り立てのようなもんだよ」
グレンは驕った様子もなく笑っているが、上級の資格というのは、それを持つだけでも特別な効力がある。
中級以下の冒険者は多く存在しているものの、それより上に位置する上級の冒険者は途端にその数が減る。昇級するための試験とギルド職員の審査があまりにも厳しく、それらを突破する事がそもそも難しいためだという内情は、冒険者の間では常識の一つとされている。
そして今、フィルの目の前に座る青年は、間違いなくその上級冒険者だ。
「グレンさんとリアさんが、ここら辺ではずいぶん有名と聞いて。是非、色々と話を聞かせてください!」
「え? うーん、有名ねえ……。何か特別な事はしたっけかな」
「災害級の害獣討伐の事とか、上級冒険者として色々な体験をされたんじゃないですか?」
「上級を名乗るのにようやく慣れてきたところだし、害獣討伐のはもう一年も前の話だしなあ……」
グレンは声を唸らせると、渋る様子を見せた。フィルは身を乗り出すと、彼に詰め寄った。
「そこをどうにかお願いします。王都から来たんです、新しい話を持って帰らないといけないんです」
「王都からここまで?! そっちの方がずっとすごいだろ! どうしてまたこんな田舎まで」
王都からこの地方までの旅程より、災害級の害獣と戦った上級冒険者の話の方がずっとすごいと思うのだが……。
「確かに王都にも冒険者はたくさんいるし、上級以上の冒険者もけっこう出入りしてます。だけど、同じ人達の活躍ばかりで……もっとまんべんなく、色々な人の話があっても良いと思うんです。お願いします、グレンさん」
フィルは何度も頭を下げ、頼み込む。グレンはやはり唸っていたが、ここで思わぬ方面から援護射撃が入った。
「良いじゃない、グレン。お話くらい」
「リア」
「だって、町にいる冒険者のみんなも、グレンも、たくさん頑張ってるんだもの。聞いてくれるひとがいるのは嬉しいじゃない!」
無邪気に喜ぶリアを見て、グレンは小さく笑った。そんなネタになるような面白い話は持ってないんだけど、と呟きながらも、最終的には了承してくれた。
「まあ、話くらいなら、良いよ。王都に持って帰れる面白い話かどうかは分からないけどな」
「あ、ありがとうございます!」
ここまで足を運んだ労力が、無駄にならずに済みそうだ。
フィルはほっと安堵し、グレンだけでなく、援護射撃をくれたリアにも礼をした。
休憩を終えると、再び目的の草原の町を目指し出発した。
ここからはグレンとリアと共に向かう事になり、フィルとしては本当にありがたい限りだ。
「うしッ! 町まではもうちょっとだから、油断なく行こう」
「はい」
「そんな風に畏まらなくても良いんだけどなあ……けっこう同い年くらいだろ?」
フィルは苦笑し、性分というか癖のようなものだと彼に返した。
「グレン! 私はまた、上を飛んでれば良いよね?」
「ああ、そうだな。何かあったらまたすぐ言ってくれ」
「分かった~」
リアは頷くと、両腕の白い大翼を広げ、力強く羽ばたいた。あっという間に木々の高さを超え、空高く舞い上がる。その華奢な美しい姿を、フィルは思わず追いかけた。
「――見惚れるだろ?」
悪戯を企むような、意味ありげな笑みをグレンから向けられ、フィルはハッとなった。
「い、いえ! そんな」
「いやいや、別にそんな隠さなくて良いって。うちのリアは美人だからしょうがねえしな!」
グレンは分かりやすく鼻を高くし、誇らしげに胸を張った。自慢の娘を披露する親のようである。ただ、彼の言葉から察するに、自分のような人がこれまでも他に大勢いたのだろう。そう思うと、無性に恥ずかしくなった。
「その、ハーピーを、こんなに間近で見る事は初めてで……。でも、リアさんは、ずいぶんハーピーらしくないというか、伝え聞く凶暴さがないというか」
「はは、だろ?」
「その、リアさんは、グレンさんの契約獣なんですか?」
契約の魔術を掛けられ、人に従うようになった魔物――契約獣。
彼女の首に着けられたあの見事なチョーカーはきっと魔道具だろうし、あれが契約の証なのだろう。
第一、契約なしでは、気性の荒いハーピーがあんな風に進んで偵察の役目を買って出たりしないはずだ。
そう思ったフィルだったが、グレンは笑いながら首を振った。
「あーそれもよく言われるんだけど、契約はしてないんだよな」
「え?! ほ、本当に?」
「おう。本当、本当」
目を剥くフィルに、グレンは力強く頷く。
「首に着いてるあれ、契約の魔道具じゃなくて、ちょっと特別製の“探知”の魔道具なんだ。居場所が分かるだけじゃなくて、他にも色んな術式を組み込んだ特注品でさ」
たとえば契約の魔術を掛けられた場合、それを阻害する術式などが組み込まれているのだと、グレンは言った。
「そう、なんですか。じゃあ、リアさんは契約獣でもなくて、パーティーを組んでるとかでもなくて……」
「ただの同行者みたいなもんだな。どっちかっていうと、あいつは冒険者じゃなくて、ギルド寄りだし」
草原の町に構える冒険者ギルドの、看板のような存在になっているのだと、グレンは嬉しそうに笑った。
契約獣ではなく、ギルドの看板……。ギルドは、契約に縛られていない魔物を認知しているというのか。人の多い王都だったらまず考えられない事である。フィルはますます困惑を強めた。
「――契約だけはな、絶対にしないって決めたんだ。これから先も、絶対に」
ふと呟かれたグレンの声は、力強く、揺るぎない意思のようなものを感じさせた。その理由を、今はさすがに問いかける事は出来ず、フィルは彼の後ろを静かに追いかけた。
◆◇◆
背の高い木々に囲まれた道を抜けると、目の前には清々しい草原が広がった。涼しい風に揺れる青々とした大地は、草の海と表現しても良いだろう。爽やかだけど、心穏やかになる、優しい風景だった。
その先にあるのが、草原の町。緑の高位精霊の守護を受ける辺境の地であり、そして、かつて災害級の害獣を討伐した英雄譚がひっそりと息づく場所である。
ようやく辿り着いた感動と高揚を胸に秘め、フィルは辿り着いた町の正門を潜り抜けた。
草原の町は、辺境らしく古びた情緒のある美しい町並みを有していた。それに、意外にも活気があり、人通りは想像していたよりもずっと多い。もっと牧歌的で、長閑な静けさに満ちていると思っていただけに、正反対な賑やかさには驚かされた。そんなフィルを見透かしたように、先頭を進むグレンは笑う。
「田舎だけど、この辺りじゃけっこう大きい町でさ。それに、リアの存在はここいらじゃ有名で、それ目当てにやって来る観光客とか旅人とかが今も増えてんだよ」
まったく冒険者が霞んじまうなと、グレンは肩を竦めているが、その横顔は楽しそうに輝いていた。
「おう、グレン! 帰ってきたのか、お疲れさん。リアちゃんもな」
「門番のおっさん、ただいま」
「ただいま~」
正門の見張りだろう男性に迎えられ、町中へと進むと、道行く住人がグレンとリアに声を掛ける。
「あら、リアちゃん! 帰ってきたのね、大丈夫だった?」
「うん、平気! 楽しかったよ!」
「俺も大丈夫だったよ、おばさん」
「馬鹿! あんたの心配なんかハナっからしてないわよ!」
至るところから親しげに声を掛けられる様子に、フィルは僅かに驚いてしまった。この町に拠点を置くグレンは分かるとして、ハーピーのリアに対しても同様だとは。本当に彼女が契約で縛られていないのなら、首輪のついていない野放しの魔物を、町の住人たちも受け入れているという事になる。
通常であれば、相当に揉める事案なのだが……この町は、ずいぶん変わっているらしい。
冗談も交えた住人達とのやり取りは、裏表がまったく無く、和やかそのもの。当たり前のように接するその光景に、フィルの胸も釣られて温かくなった。
町の住人達に構われながら進む事しばし、ようやく冒険者ギルドへと到着した。
「同伴させていただいて、ありがとうございました。本当に助かりました」
「良いって、気にすんなよ」
「ルウ~」
「あの、それで、グレンさん達はこれから……」
お時間が有るならお話を、と言いかけたところで、リアが風のような速さでギルドの中へ駆け込んでいった。白い髪と長い尾羽を翻し、元気よく「ただいまー!」と声を響かせている。
「……くく、悪いな、色んな意味で自由なんだわ。俺達も入ろう、続きは用事を済ませてからな。歩き通しだし、ちょっと休憩しよう」
「あ、はい」
グレンの後ろに続く形で、フィルもギルドへ踏み入れた。
入り口を潜ると、広々としたホールが目の前に飛び込む。ギルド職員が佇む受付カウンターに、依頼書や連絡事項を貼り付ける掲示板、道具を取り扱う販売所など、ギルド内の造り自体は王都と変わらない。ただ、内装などは異なり、この町のギルドは木材が主に用いられ、装飾も緑の植物が多い。奥に見えるのは……中庭だろうか。木の温もりと、自然の優しさがとても感じられて、冒険者ギルドでありながら不思議な安らぎが満ちていた。
そのホールの中を、全身真っ白のハーピーが、あちこちに駆け回っている。
「ただいま帰りました、先輩!」
先輩と呼びながら近付いていったその先に居るのは……魔物?!
察するに町の冒険者の契約獣なのだろうが、大柄な獣の魔物や凜々しい猛禽の魔物などに駆け寄る姿は、躊躇いがない。契約獣たちもリアの存在に慣れているのか、むしろ嬉しそうに鳴き、純白のハーピーをぐるりと囲んだ。まるで会話でもするように、ワフワフ、ピイピイと何度も声を上げている。
……すごい、あの一角だけ、もふもふ……。
「リアさん、お帰りなさい」
「ル! セリーナ! ただいま!」
毛皮や羽毛の中から抜け出したリアは、ギルドの職員だろう若い娘に駆け寄り、そのまま両翼を広げて飛びついた。
「依頼、ちゃんと終わったよ」
「そうですか、良かった。お怪我は無かったですか?」
「ルッ平気!」
リアが無邪気に微笑むと、そのギルド職員は凜々しいかんばせを緩め、ふわりと微笑んだ。
「よ、セリーナ」
「グレンさん、お疲れ様でした……あら、見ないお顔が」
「途中からグレンさんとリアさんにご一緒させていただいたフィルです」
下級の認識証を摘まみながら軽く礼をする。ギルド職員はリアをそっと離し、凜とした空気を纏ってフィルに向き直った。
「この町の冒険者ギルドで受付担当をしています、セリーナと申します。グレンさんと道中ご一緒で良かったですね、こんな風でも一応、上級冒険者ですから。こんな風でも」
「なあ、そこ二回も言う必要ある?」
「さ、ひとまずグレンさんは、こちらで依頼完了の手続きをこちらで」
グレンの呟きは綺麗に聞き流し、セリーナはきびきびとした動作で受付カウンターに足を進める。「俺っていつまでもこんな扱いなんだな」切ない独り言を漏らしながら、グレンもその後に続いていった。
自分がそこに着いて行っては駄目だろうと、後ろに下がったものの、ついつい意識はグレンに向いてしまう。カウンターの手続きの様子を、フィルは後ろから少しだけ覗き見た。
「それでは、依頼札と、討伐証拠の素材提出をお願いします」
「ほいよ」
グレンは腰元から袋を取り出すと、その中身をカウンターに広げる。ちらりと見えたそれは……成人男性の手のひら以上の大きさをした、何かの鱗と牙だった。
「……深林大蛇の大牙、大鱗、確かに本物ですね。討伐おめでとうございます。それでは、ギルドの認識証をこちらへ」
深林大蛇!
確かに聞こえたその単語に、フィルは目を剥いて驚いた。確か森林地帯の深部に生息する、牛をも三口で喰らうという蛇の魔物の上位種ではなかったか。
気さくで人当たりもいい、近所の兄貴分のような人物だと思っていたが、やはり上級冒険者。その実力は、等級が示す通りだ。
「あ、それと、セリーナ。魔力溜まりの恐れありって言ってた、あの話だけど」
「はい、どうでしたか」
「大当たり。規模はまだ小さいもんだったから、リアがスパッと全部片付けてくれた。な?」
……今、聞き間違いでなければ、ハーピーが片付けたと。
流れが滞り、毒のように汚れてしまった魔力溜まりを、彼女が。
途切れるまで害獣を産み落とすか、浄化の魔術でなければ消失しないそれが。
不思議な力を持つという噂話――あれは、本当に真実なのか。
「……では、以上で手続きは完了です。お疲れ様でした」
「おう、ありがとな」
依頼完了手続きが終わると同時に、フィルはグレンの側に駆け寄った。
「魔力溜まりを浄化って、本当ですか!」
「おおう?!」
「浄化の魔術の心得のある人や、尽きるまで害獣を産み落とし続けて消耗させるしか、消す方法がないあれを、リアさんが!」
「落ち着け、落ち着け。顔すごいぞ」
フィルはハッと意識を戻し、すぐに後ろへ下がった。
またやってしまった……我を忘れるのは、僕の悪いところだな。
ホールに居た他の冒険者からも微笑ましそうな笑みが向けられてきて、ますます肩身が狭くなる。
「すみません、つい……」
「まあ、珍しすぎる例だから、驚くのも無理ねえな。つっても、魔力溜まりを綺麗にしてくれたのはリアだし、俺は周りで剣振り回してただけなんだけどな」
「すごいなあ……」
ちらりとリアに視線をやると、彼女は誇らしげに微笑み、胸を張った。
「ああ、そういや、話を聞かせるって約束だったな……じゃあ、夜になってからでどうだ。夕飯でも食いながらさ」
「あ、是非! ありがとうございます!」
フィルはバッと頭を下げる。すると、傍らに居たリアから「私も行って良い?」と尋ねられ、もちろんだと頷いた。
「よし、じゃあ決まりだな。それじゃあ、夕暮れの鐘が鳴ったらここのギルドに集合でどうだ?」
「はい、大丈夫です」
約束を取り交わし、ひとまずは解散となった。ようやく詳しい話が聞けるとあって、フィルの足取りは軽く、スキップしながら冒険者ギルドを後にした。
――そのため、グレン達との一連のやり取りを、ギルド内に居た人々がこっそり見つめていたなんて、まったく気付きもしなかった。
◆◇◆
日中、爽やかに広がっていた青空は、茜色へと染まった。
町には夕暮れを告げる鐘の音が、優しく響き渡り、住人達は帰路へと着く。その中を、フィルはやや早足気味に進み、冒険者ギルドを目指した。
「あ、グレンさん!」
「よっす、さっきぶり。なんだ、そんな急がなくても良かったのに」
冒険者ギルドの入り口の前でしゃがんでいたグレンは、人当たりの良い笑みを浮かべて立ち上がる。日中に身に着けていた武器や防具の類いは全て外されて、私服に着替えられていた。しっかりとした身体付きは簡素な服の上からも見て取れるけれど、そうしていると本当に冒険者ではなく近所の兄貴といった雰囲気だった。
その傍らには、ゆったりとした作りのワンピースを着たリアが佇んでいる。暮れる空の下でも、全身を彩る純白の羽根の色は眩しく、変わらず輝くような存在感を放っている。
「……あ、髪型、変わりました?」
「セリーナが、こうしろって」
背中を覆い隠すほどに長い髪は、ゆったりと編み込み、一つに束ねられていた。引きずるほどに長い柔らかな尾羽も、邪魔にならないようにその端を腰に括り付け、リボンで結んでいる。
彼女はくるりと回って見せてくれたが……駄目だ、可愛いしか感想が出てこない。相手はハーピーという魔物なのに。
「セリーナ……受付嬢な、あいつが色々とリアを気に掛けててさ。髪型とか服とか、なんか毎回毎回そこまでするかーってぐらい力を入れて」
「――当たり前ですよ、グレンさんじゃないんですから」
「ギャー!」
いつからそこに居たのか、ギルドの入り口にセリーナが佇んでいた。凜とした面持ちのせいか、圧力を感じてしまう。
「まったく、叫ぶなんてグレンさんは失礼な人ですね。それはそうと、今日は料理屋さんへ行くそうですが、しっかりとしていて下さいよ」
「しっかりって……いつも行ってる店だから大丈夫だって。あそこはリアも行き慣れてるし」
「……ええ、まあ、心配しているのはそこではないんですが」
小さく呟くセリーナに、グレンは首を傾げる。
「ともかく、お気を付けて。私も行きたかったですが、どうしても今日の夜は仕事の用事で外せないので……リアさん、楽しんできて下さいね」
「うん、行ってきます」
リアはセリーナに抱きつき、頬と頬を重ねる。セリーナは微笑みながら見送っていたが……本当に悔しそうな顔をしていた。フィルの背中に、羨望の念がひしひしと感じられたのは、恐らく気のせいではないのだろう。
「何だろ、セリーナの奴……。まあいいや、これから行くとこな、ちょっと奥まったところにあるんだ。王都みたいに派手じゃないけど、落ち着ける美味しい店で、けっこう良いぞ」
「お店のおばさんとおじさん、良い人たちなの」
「へえ、楽しみです」
期待しながら導かれる事しばし、その料理屋へと到着した。大通りから少し奥にあるその店は、外へと聞こえるくらいに賑やかな声で溢れていた。どうやら、かなりの繁盛店らしい。
「すごい人気なんですね」
「……いや、おかしいな……美味いとこではあるけど、いつもこんなに……」
首を捻りながら、グレンは店の扉を開ける。
明るい店内はたくさんの客で埋め尽くされていたが、その半分以上はどう見ても仕事終わりで一服をする住人ではなく、同業者――冒険者であった。
「お、きたきた!」
「主役が登場だな! リアちゃーん!」
「何でお前ら今日に限ってここで酒飲んでんだよ! いつもは向こうの酒場だろ!」
グレンが叫ぶと、店に居る冒険者は一様に視線を泳がせ始めた。「いやまあ、今日はここが良いなって」「たまたま割引券がな」「急に思い付いて偶然ここに」と様々な言葉が飛び交ったが、グレンだけでなく、フィルも察した。
ああ、リアさんが一緒に食べると言っていたから、先回りしてきたんだな。
「セリーナの妙な態度はこれか……暑苦しいな、別の店にするか」
「おまッ! ちょ!」
「あんたはどっか行っても良いけど、リアちゃんは置いてってよね!」
「ふざけんな俺もセットだわ!」
まったく、と文句をこぼしながら、グレンは店の中へと踏み進む。空いているテーブル席に彼は腰掛け、その隣にフィルもリアと共に座った。
「悪いな。せっかく来たってのに、こんな密集してて」
「いえ、大丈夫ですよ」
「しかも、同業者だけじゃなくて、ギルド職員まで混ざってるし。今日に限って身内感が半端ないな……」
溜め息をこぼしたグレンを、フィルは思わず見つめた。
「ギルド職員? ギルド職員も、居るんですか」
「ああ、居るぞ? あいつとか、そいつとか。まあもちろん、仕事の話は持ち出さないってのが暗黙の掟だけど」
グレンは無造作に指で示していく。その先では冒険者が談笑しているけれど、その傍らで共に笑っている人物が、どうやらギルド職員らしい。
冒険者とギルド職員は、仕事の関係ではよく接触するが、こういった私生活にまで密に関わる事はあまりない。むしろ、衝突する事の方が多く、あくまでも稼業の付き合いと割り切る者の方が大多数かもしれない。
ここまで仲が良い風景は、王都でもそう見かけない。この長閑な辺境の町は、何かが違う。王都とは、決定的に、何かが――。
「おう、あんた、王都から来たんだって?」
「そんな遠いところから遙々とここまで、大変だったろ」
賑やかな声が、フィルの背中に掛けられた。振り返ると、同業者だろう男性達がグラスを片手に笑っていた。
「でも、長旅の甲斐がありました。素敵な町ですし、この辺りで噂の上級冒険者と純白のハーピーと直接お話が出来ましたし」
彼らの話を聞きに来たのだと告げれば、冒険者達は感心するように何度も頷いた。
「なるほどなるほど、グレンの話か。任せろ、話の引き出しは多いぜ」
「やっぱ失敗談だろ。聞かせてやろうじゃないか……リアちゃんに嫌がられて顔面に鳥足キックを食らい続けたあの日々を……」
「何で俺の失敗ばっか話そうとすんの?! しかもそれとか、もうちょっとマシな話あるだろ!」
慌てた風にグレンは声を割り込ませたが、彼らはカラカラと笑い、分かっていると手を振った。
「冗談だって。あんたが聞きたいってのは、一年前の害獣討伐の事だろ?」
「俺らが教えてやるよ、あの日の事。ここに居る連中のほとんどが、あそこに居た当事者でもあるしな」
そうして、彼らはゆっくりと語り始めた。
一年前にあったという、災害級に匹敵する強力な害獣との戦いの、その記憶を。
この町の側には広大な草原が広がっており、さらにその北には森が展開されている。
そこは、自然豊かではあるが危険な魔物が多数生息し、地元民もあまり寄りつかない不気味な森だった。
この辺り一帯は、古くから緑の高位精霊に守られているのだが、北の森には精霊という神聖な存在がもともと少なく、ゆえに魔力溜まりが発生しやすい環境だった。過去、何度もその森には害獣が発生し、この辺りに暮らす人々はそれと戦い続けてきたのだと、歴史にも残されている。
しかし、ここ数十年間は魔力溜まりの発生はないとされ、住人も冒険者も長閑な日々を送っていた。
――だが、実際はそうでなかった。
魔力溜まりは森の深部で発生し、長い歳月を掛け膨れ上がっていた。誰にも気付かれる事なく、ひっそりと、ゆっくりと、毒の魔力を蓄え続けていた。
そしてついに、汚れきった魔力溜まりは、森の深部を浸食。毒の魔力に侵された魔物を発見した時には、すでに手遅れの状態だった。浄化によってどうこう出来る段階では、もはや無くなってしまっていたのだ。
こうなってしまっては、残された手段はただ一つ。
やがて産み落とされる害獣を、尽き果てるまで討伐し続け、その力を消失させる。
正面、ただ正面から、激突する方法しか残っていなかった。
かくして、草原の町のギルドが主体となり、近隣から冒険者をかき集め害獣の討伐部隊を編成した。
陽が沈むと共に、自我を失った魔物が森から大挙して押し寄せ、これを草原で食い止めた。
夜半、どうにかこの全てを討伐する事に成功し、出だしは順調のように思えた。
あとは産み落とされる害獣を倒すだけ――冒険者は皆、そう思い奮い立った。
しかし、森をなぎ払い現れた害獣は、想像すらしなかった姿を持っていた。空を覆うような枝葉を分厚く茂らせ、いくつもの太い根を這いずらせ自走する――巨大な人面樹型の害獣だったのだ。
大樹。そう表現するしかない、あまりにも大きな姿。
冒険者は全員、直感し、覚悟した。あれは恐らく、災害級の魔物に匹敵する存在である、と。
編成された冒険者のほとんどは、最下級、下級、中級で、上級も数えるほどしか居ない。その上、前触れもなくこの戦いが起きてしまったせいか、国どころか領主の応援も未だなく、冒険者全ての命と引き替えにしてでも倒せるかどうか分からなかった。
その窮地に現れたのが――当時、ギルドで保護していた、灰色のハーピーの雛だった。
契約に縛られていないはずの彼女は、人間のために小さな身体で害獣に立ち向かい――“進化”を果たした。
灰色の羽根を脱ぎ捨て、暗闇を照らすような純白の羽根を新たに纏ったハーピーは、風と浄化の力を身に着けた。そうして、天敵である冒険者と共に害獣を討伐したのである。
月を背にして翼を広げたハーピーは、おとぎ話にしか存在しない女神の使いのようであったと、今も多くの冒険者は記憶していた――。
「その害獣の巨大な核を砕いた英雄が、リアちゃんとグレンってわけよ」
「グレンの肩を掴んで、空に飛んでよ。真上から核を砕いて……いやあ、あれは正直、面白かった」
「ああ、しかも、戦いが終わった後も凄かったしな」
月夜の草原の戦いと、その劇的な勝利は、瞬く間に地方全土へと響き渡った。その功績は素晴らしいものとされ、なんと領主から勲章を授けられる話も上がったそうな。だが結局、冒険者は冒険者らしくあった方が良いと、全員が金一封の報酬を貰うだけで済ませてしまったらしい。
美しい大人のハーピーへと成長したリアも、その反響は凄まじかったらしい。彼女を一目見ようと来訪者は激増し、領主の使いまでわざわざ訪れたのだそう。
身振り手振りで語られる害獣討伐の物語に、フィルは感動した。災害級にも匹敵する、巨大な人面樹型の害獣。そもそも災害級は、町どころか国一つ滅びかねない凶悪な存在で、国が動かなければならない相手のはず。あまりに急の事で応援が間に合わなかったのだろうが、居合わせた冒険者のみでそれと一晩戦い続け、退けたとは……。本当に、凄い事ではないだろうか。フィルは素直にそう思う。
しかし、当事者であるグレンは、小さく笑いながら料理を食べている。その女神の使いと見紛うハーピーにいたっては、興味がないのか店の中を歩き回り、冒険者達と楽しそうに笑い合っている。
どれだけ美しくても、彼女は獰猛な魔物。古い時代からの、人間の天敵だ。
それが、当時から契約の縛りを受けずに自由に歩き回り、しかも人間の戦いに協力したとは。
「――不思議だろ? 攻撃的で気性の荒いハーピーが、ここに居るのが」
それまで小さく笑うばかりだったグレンが、おもむろに口を開いた。フィルは躊躇いながらも、正直に頷く。グレンは吹き出すように笑い、素直だなと肩を揺らした。
「まあ、普通はそうだよな。魔物との契約については、王都とかあっちの方がずっと厳しいだろうし」
グレンは飲み物を一口含んだ後、懐かしむような声音で、静かに話し始めた。
「一年くらい前……その害獣騒ぎが起きる、少し前だな。傷だらけで行き倒れてたリアを、俺が拾ったのがきっかけだった。その時は、リアは今みたいに大きくなくて、俺の腰の高さくらいの雛だったんだ」
「雛、ですか」
「ああ、小さい灰色の雛だ。ハーピーは、子どものうちは灰色の羽根で地味なんだけど、大人になると羽根の色が変わって、身体も急に大きくなるっぽいんだ」
あれには本当、驚かされたな。しみじみと呟いたグレンの横顔は、柔らかい笑みを湛えていた。
「拾った時から、決めていた。町にリアを置いとくのは、空を飛べるようになるまで。完全に治ったら、自然に帰すってな。で、そんな時にあの害獣騒ぎが起きて……来んなっつったのに戦線に来ちまってさ。そりゃあ俺だって怒ったんだけど、恩返しなんて言われたらなあ」
「恩返し……」
「戦いの後、あいつは町を離れようとしなかった。大きくなっても、自由になっても、あいつはここに居る事を選んでくれた。嬉しい話だよな、まったく」
すると、グレンは椅子から立ち上がり、追加で飲み物を貰ってくると言って厨房に行ってしまった。
拾われたハーピーの雛が、その恩返しに戦場へ向かい、進化を果たした。そして以降も、契約はせず、この町で暮らしている。
それが口で言うほど簡単なものではないのだと、フィルでさえ想像が出来た。気性が荒く獰猛な魔物と世間で言われているハーピーであれば、なおさらだろう。
その壁を乗り越え、こうして共存している。それ自体が、すでに一つの奇跡のようなものだ。
だからこそ、どうしても疑問に思う。何故、彼らはもっと話題になっていないのだろう。災害級に相当する害獣の討伐も……あの純白のハーピーの存在も。
「――不思議だろ、坊主。グレンの事も、リアちゃんの事も」
そんなフィルの心境を見透かしたように、周囲の冒険者達は笑った。
「精霊の加護を授かり、風と浄化の力を身に着けた、極めて特殊なハーピー! そりゃ有名になるよな。でも、グレンだってな、あれで凄いんだぞ。ある意味、影の英雄なんだからな」
「お人好しで損する、万年中級な冒険者。あいつ、実力はあったくせに、上を目指す事だけは嫌がってた」
お人好しではあったが、冒険者という職に対して何処か冷めた一面も持っていたのだと、彼らは言った。
「でも、本気になった。あんだけ嫌がってた上級の昇級試験に挑んだ。そうしたらどうだ、あいつたった一回で突破しちまった! いとも容易く!」
「一回で?!」
思わず、フィルは仰天する。上級の試験といったら、ギルドの支部によって内容は様々だが、多くは上位種の魔物の複数体の討伐と言われている。様々な上位種を討伐する実力を示し、かつギルドの厳しい査定を通過しなければならず、下級や中級の昇級とは比べものにならないくらい大変なものと聞いている。
それを、一度の挑戦で、突破したのか。
「まあ、正直むかついたが、当然だろうな。何が何でも、突破しなきゃいけなかったんだ」
「え?」
「坊主も思っただろ。風と浄化の力を持つ、別嬪な珍しいハーピー。なんて特別な存在なんだ、てな」
だからだと、彼らは告げた。
「特別なハーピー、そう思うだけで終わるんなら別にいい。だけど中には、それにあやかろうとして強引に接触を図るやつも、もしかしたら悪巧みをする輩も出てこないとも限らない。あの戦いの後、色んな奴がこの町に来たんだ。まさか、お忍びで貴族まで来るなんて、思ってもなかったさ」
「有名になればなるだけ、あの子が厄介事に巻き込まれる危険が伴う。だから、グレンは、覚悟したんでしょうね」
あの子を守るには、相応の立場と、世間に示せる分かりやすい形の実力が無ければならない、と。
そして、恐らくリア本人も、己が危うい立場なのだと何処かで理解していると、彼らは続けて言った。
「リアちゃん、グレンの依頼に着いて行ってるの、知ってる?」
「はい」
「あれね、リアちゃんが自分から言いだした事なの」
この町で暮らす事を決めたその少し後から、彼女が自ら言いだしたのだという。グレンの依頼に着いて行くだけでなく、ギルド職員から様々な知識を教わり、他の契約獣からは戦い方だとか対処法だとかを聞くようになったらしい。
「もともと人間の暮らしとかに興味を持っていてくれてたけど、本格的に勉強し始めてね。きっと、グレンと一緒に居たいから、頑張ってるんでしょうね」
「真面目にさ、あの二人見てると、けっこう思うよ。種族の壁を越える絆って、こういう事を言うんだなあって」
彼らの言葉は、フィルの胸に不思議と染みた。
種族の壁を越える――何処か有り触れて、陳腐とも言えるその言葉が、今ほどこんなに響く事はないだろう。
しばらくし、席を立っていたグレンが、飲み物と皿を両手に持ち戻ってきた。
「いやあ、時間掛かっちゃったよ。ほい、どうぞ」
差し出されたグラスを受け取ると、フィルは静かに言葉を掛けた。
「グレンさん、聞いても良いですか」
「うん? 何だ」
「気を悪くしたいわけじゃないんですが……グレンさんは、国の中心部に行こうとか、冒険者として名を馳せようとか、思わないんですか」
グレンの瞳が、一瞬驚いたように丸くなった。だが、すぐにそれを緩め、ゆっくりと首を振った。
「野心がないとは言えないけど、俺にはやっぱり身の丈にあった生活がちょうど良い。ここの暮らしで、十分だな」
――それにさ。
グレンの声色が、不意に変わった。それまでは人当たりの良かった声が、深く、真剣に響いた。
「ハーピーは元々、世間で言うように獰猛な魔物だ。それは間違いない。リアがちょっと色々と特殊なだけで、全てのハーピーが御しやすいと思わない方が人間にとって良いだろ。野生のハーピーだって、好き好んで人間と深く関わろうとしないだろうし。乱獲なんて事がもしも起きたら、最悪だ」
「乱獲……」
思ってもいなかった単語が飛び出し、フィルは驚く。
グレンは小さく笑うと、例え話だけどなと付け加えた。
「謎多きハーピーの生態解明になると、ギルドの奴らはよく言ってるんだけどな。野生のハーピーと交流出来たらそりゃあ凄いけど、そう急ぐもんじゃないとは思う。俺は別に、リアを世間で有名にしたくて一緒に外に出てるわけじゃねえし」
「……」
「まあ、実際は余所に取られたくないだけなんだけどな! 魔力溜まりの発見と浄化も出来る、うちのギルドの看板娘になっちまったから!」
愉快そうに笑うグレンを、フィルはじっと見つめる。そして、思わず、ぽつりと呟いた。
「――何だか、恋してるみたいですね」
「……ほあ?」
グレンの表情が、素っ頓狂なものへと変わる。一瞬の間を空けた後、彼は大きく吹き出した。
「さすが、吟遊詩人を目指すだけあるな。そう言われたのは初めてだ」
「す、すみません……つい」
「いや、笑って悪かった。面白い例え話だよ」
くつくつと揺れる肩を落ち着けるように、グレンは大きく息を吐き出した。
「ただ、小さい灰色の雛の姿を見てるから、恋心じゃなくて、兄貴心みたいなやつだな」
あいつがもっと遠くへ行きたいと言えば、連れて行ってやりたい。したい事があると言えば、存分ににさせてやりたい。そんで、何か一つ、こうありたいと決めたら、それを後押ししてやりたい。
そう語るグレンの横顔は、心の底から彼女を想う温かさで溢れていた。
「契約が有ろうと無かろうと、人間の住み処にいるってだけでリアには色々と制約が掛かる。だからせめて、自由に過ごさせてやりたいんだ。そのついでに、天敵同士、手を取り合える事もあるんだと誰かの耳に入ったら――悪くないな」
グレンはニカッと唇を持ち上げると、フィルから視線を外し、おもむろに背後を振り返った。
「リア! リィゴの実を切って貰ったから、こっちで食べな!」
「ルッ! 食べるー」
テーブルを移動して回っていたリアが、カチカチと足の爪を鳴らし、小走りで戻ってくる。グレンの隣に腰を下ろすと、他の料理には見向きもせず、小皿に盛られたリィゴの実を頬張り始めた。その様子を、グレンは楽しそうに見つめている。見目麗しい純白のハーピーと、実力確かな上級冒険者の、異色な組み合わせだが、その姿はまるで家族のようで――。
――ああ、そっか。やっと腑に落ちた。
この人達は、名誉を追いかけているわけじゃない。強い魔物を倒し、世間に実力と名を知らしめ、有名になりたいわけじゃないのだ。
人間と魔物。古い時代からの天敵同士が、理解し合い、手を取り合い、隷属ではない絆で繋がっている。それを、誰かに知って欲しいだけだ。世界の片隅では、そんな奇跡があるのだと。
この町の冒険者も、きっとそう。
大きな声で謳うのではなく、ひっそりと伝えたい――ただ、それだけなんだ。
「天敵同士が手を取り合う、か……」
ここにあったのは、英雄譚ではない。
害獣を討伐した勇士達が刻んだ、心躍る物語なんてものは、何処にも無かった。
フィルは小さく微笑み、彼らをそっと見つめた。
「やべえ、なんかだいぶ恥ずかしい事を言ったな。適当に流してくれ」
「いえ、そんな」
「……あ、そうだ」
気恥ずかしそうに頬を指で掻いていたグレンが、唐突に、何か思い付いたような表情を浮かべた。
「なあ、俺らの話だけじゃなくて、あんたのも聞かせてくれよ」
「えッ?!」
「吟遊詩人を目指してんだろ? なら、なんか王都の方の話とか……あ、歌とか聞かせてくれよ。詩人を目指してるくらいなんだから、自慢の喉を持ってるんじゃないのか」
グレンの声は思いのほか大きく、店中に響いていた。賑やかに笑い合っていた人々の耳にも届いてしまい、気付けば大勢の眼差しが集まっていた。
「何だ、歌?」
「あの子、吟遊詩人だって!」
「へえ、じゃあ何か聞かせてくれるのかい」
「いや、あの、僕は」
しかしフィルが何か言う前に、店の中は既に歌を期待する雰囲気で包まれていた。そのうち、囃し立てる声から軽快な指笛まで上がり始め、フィルは一人慌てふためいた。
「見習いだろうとそうじゃなかろうと、詩人は詩人だ。その背負ってた荷物の中身は、楽器なんだろ? ここらじゃ聞けないようなのを頼むよ!」
元凶であるグレンの快活な笑みに、恨めしさを若干覚えてしまった。
そりゃ楽器は相棒のようなものだし、常に持ち歩いているけど、でも。
あくまで吟遊詩人を目指している身で、そこまで場数を踏んでいるわけでもない。期待感が高まる空気に、思わず怯んでしまう。
――すると、狼狽えるフィルの真横から、眩しいほどの真っ白な色が割り込んだ。
長い髪から、大きな瞳を縁取る睫毛まで真っ白に染められた、リアである。
「歌を聴かせてくれるの?」
「わあッ! いや、でも、僕は」
「こっち!」
真っ白な美しい翼が、フィルの腕を包み、そのままぐいっと引っ張った。華奢な躯体とは裏腹な強引な先導を受け、気付いたらフィルはカウンター席の真ん前に立っていた。
店で寛ぐ住人や冒険者、ギルド職員などの期待に満ちた目が、全身に注がれる。まさかこんな事態になるとは思わず、狼狽が止まらなかったが……自分の声を存分に響かせる場を得る機会がなかなか無いのも事実だ。
こっちだって、伊達に吟遊詩人を目指しているわけじゃない。これでも人目の耐性は、あるつもりだ。
フィルは大きく息を吐き出すと、傍らに置いていた鞄を開き、弦を張った小さな楽器を取り出した。
「――それでは、旅路の果てで出会った人々に、感謝の歌を」
拍手と共に、歓声が上がる。緊張する呼吸を静かに整え、フィルは楽器を爪弾いた。
王都でよく聞く流行りの歌に始まり、冒険者の活躍を讃える歌や、しとやかに響く静かな歌などを披露していき――誰もが知っている有名な、出会いを喜ぶ旅人の明るい歌へ入る。
その時、身体を揺らしながら、楽しそうに耳を傾けていたリアが、急に立ち上がった。だいぶ興に乗ったようで、踊るようにくるくると回りながらフィルの隣へとやって来る。囃し立てる笑い声が上がる中、彼女は静かに息を吸い込むと――肌が粟立つような歌声を奏でてみせた。
魔物といえど、さすがはハーピーという鳥だ。幾つもの音色を重ねたようなその不思議な歌は、人間と大きく異なっていたが、確かに美しさを秘めていた。
ハーピーと共に歌った詩人など、世界にどれほど居るのか。
獰猛と言われて恐れられる彼女らが、どんな風に歌うのかも、きっと世界は知らないだろう。
これもきっとめったに体験出来ない事なのだろうが、今はもうあまり気にならなかった。それよりも、楽しまなくては。無邪気に歌うハーピーや、楽しそうに笑う冒険者とギルド職員、長閑な町の住人達と共に、純粋に。
こんな素晴らしい夜は、もう巡り会えないかもしれないのだから。
◆◇◆
一夜明け、草原の町には青空が広がる。昨日と引き続き、爽やかな陽射しが町を照らし、フィルにも温かく注いだ。
「昨日の今日だなんて、またずいぶんせっかちなんだなあ」
グレンは苦笑いをこぼし、フィルを見下ろしている。本当にその通りだと、フィルも思わず笑ってしまった。
「どうやら僕の性分のようです。色々とお世話になりました」
フィルは頭を下げ、心からの感謝を告げる。
一夜明けた今日、フィルは王都へ戻る事を決めた。町に滞在したのはたった一晩で、王都までの帰路の方が圧倒的に長いのだが、何十日と経過したような濃い経験をさせて貰った。彼らや町の冒険者から聞いた言葉を、これから書き起こさなければならない。
それに、どうしてもやりたい事が、出来てしまったのだ。
「あの、グレンさん」
「おう?」
「グレンさんとリアさんの話を、王都でも伝えて良いですか」
古い時代からの天敵同士である、人間と魔物が、本当の意味で対等な信頼を築いているという事を。
「世界中だなんて、それはさすがに無理ですが、でも――少しでも多くの人に、やはり知って欲しいんです」
真っ直ぐと見つめるフィルに、グレンはしばらく沈黙していたが、やがてゆっくりと口を開いた。
馬車を乗り継ぎ、ゆっくりと進んでいく、王都への旅路。
その間、フィルはひたすらにペンを走らせた。
災害級の害獣を討伐した冒険者と、それに協力した魔物の、異色な英雄譚。
最初はそう思っていたが、違っていた。あの町には英雄譚など無かった。数多の勇士達が害獣を討ち滅ぼし、喝采を受けて名声を手に入れようとした、躍動溢れる物語は何処にも無かった。
あの町に、あったのは……――。
「“古い時代から、人と魔物の争いが連綿と続く、この世界の片隅で。それでも、真に心を通わせた一人と一羽が居るのだと、どうか知ってはくれないか”」
あの町にあった物語に題名を着けるとするならば、きっと、これしかないのだろう。
「“冒険者と灰色のハーピーの物語”……!」
馬車に揺られるフィルの頬を、風が横切った。
その涼しい風はきっと、心優しい上級冒険者と無邪気な美しいハーピーの元にも向かうのだと、不意にフィルの脳裏に過ぎった。
隣町へと向かう馬車は出発した。昨日出会ったフィルという名前の、男の人なのに綺麗な顔立ちをした青年は、私たちの姿が見えなくなるまで馬車の荷台からずっと手を振り続けていた。ここに居た日はあまりにも短かったが、どうやらとても楽しく過ごせたらしい。
また面白い冒険者さんだったなあ。ぎんゆうしじん、ていうのを目指してるって言ってたっけ。
人間の町で暮らす事を決めてから、もう一年くらいが経つけれど、未だに聞き慣れない言葉と遭遇する。まだまだ人間という種族は、私にとって不思議な存在だ。
「良い人間だった。また来るかなあ」
「あいつに、また会いたいのか?」
「うん、面白い人だった」
それに、彼はどうやら歌が好きらしい。昨晩、料理屋でとても綺麗な歌をいくつも聞かせてくれた。いつも聞いているのは、ギルドで騒ぐ冒険者やグレンなどの騒々しい声ばかりだから、余計に驚いてしまった。人間の男の人でも、あんなに綺麗な声を出せるのか。お母様や姉妹たちには勝てないけれど、ハーピーも歌声で感情を共有してお喋りするから、何だか親近感を感じてしまう。
すると、隣のグレンは、苦いものでも囓ったように表情をぐっと歪めた。
「そうか……リアがそんな風に、余所の奴に興味を持つのは珍しいな……ッ」
「グレンさん、顔。顔の圧力が凄いですよ。大鬼のようです」
「俺は絶対、認めないからな! うちのリアに、変な奴は寄せ付けないからな絶対!」
グレン、顔、くっしゃくしゃ。
セリーナの言う通り、本当に凄い顔だ。同じ雄なのに、何故こうもあの青年とは違うのか。
「……そういえば、グレンさん。良かったんですか?」
「うん? 何がだ」
「先ほどの、あのお話」
セリーナは、何処か浮かない表情だった。凜とした面持ちに、ほんの僅かだが不安が見え隠れしている。グレンはくしゃくしゃだった顔を元に戻し、セリーナへと視線を向けた。
「俺とリアの事を、詩にしたいって話か」
「……ええ」
「不安か?」
「……正直なところ、少しだけ。一年前のあの騒ぎを思うと、どうしても余計な事を考えてしまうんです」
貴方はどうなんですかと、セリーナの涼やかな瞳がグレンを映した。
「まあ、ちょっと不安に思うところはあるけど、でも……」
「私は嬉しいよ! だって、私とグレンやセリーナたちの事を、たくさんの人に伝えてくれるんでしょ?」
灰色の小さな雛だった私を拾い、助けようとしてくれた、彼らの優しさ。それがたくさんの人に伝わるのなら、嬉しい以外に何もないだろう。
私が翼を広げて喜びを表現すると、グレンとセリーナは途端に、力の抜けた柔らかい笑みをこぼした。
「この通り、リアが喜んでるからな。嫌とは、思わないさ」
「それは、そうなのですが……」
「人の噂は、何処かで必ず上がるもんだ。でもそれで何か起きるようなら、俺がまた身体を張る。そのための、上級資格でもあるわけだしな!」
グレンはビシッと親指を立て、それを自らの胸に押し当てる。セリーナは小さく吹き出し、曇っていた表情を明るく緩めた。
「ふふ……そうでしたね。そして、ゆくゆくは特級の資格も取るんでしたね?」
「うぐッ! それはまあ、ちょっとずつな……」
「あら、一年前に豪語したのですから、その通りになさって下さいませ。そうしたら、特級の冒険者を抱えるギルドとして評判は上がり、この町も安泰。職員一同、期待していますからね」
セリーナの凜々しい青い瞳が、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
そうだね、グレン、私にも言ったもんね。上級になって、ゆくゆくは特級にもなるって。
「グレンも“変わる”んだもんね。頑張ってね」
私はセリーナと顔を見合わせ、クスクスと微笑む。
「まいったなあ、だいぶ遠い道なんだけど……まあ、こつこつやっていきますかね。そんで、今日の依頼はどんな感じだ?」
「上級向けの案件も、いくつかありますよ。私どもの方から勧めるとしたら……こちらを」
ギルドの受付カウンターに戻ったセリーナは、一枚の依頼書を差し出した。グレンはそれを受け取り、静かに目を通す。
何て書いてあるんだろう。喋るのはだいぶ得意になったけど、人間の字はまだ難しくて分からない。
「農村にて魔物の被害が多発。ただし通常種が常になく凶暴、か。という事は……」
「特記事項として、魔力溜まりが発生している恐れがあり、という事です」
その言葉に、ぴくっと肩が揺れる。
魔力溜まり――世界を流れる魔力が滞り、毒のように淀んでしまった事で発生する現象。
淀んでしまったそれは、再び世界を巡れるよう、誰かが綺麗にする手助けをしなければならない。
「……これが良いって顔だな、リア」
「ルウ~」
「今回も、リアさんは着いて行かれるんですか」
「もちろん!」
ダーナから加護を分けて貰い、授かった“風”と“浄化”の力。彼女も好きなように使って良いと言ってくれたのだから、これからもどんどんそうするつもりだ。
一年前、月夜の草原で出会った、大樹の姿をした巨大な害獣。核を砕いた最期に見た、あの安らいだ瞳と、白く薄れる静謐な美しい風景を思い出すと――世界を巡る手伝いをしてあげなくてはと思うのだ。
それに、これは私だけではなく、この町に居るみんなにとっても、きっと良い事のはず。グレンやセリーナも、喜んでくれるのだから。
「そうですか……。立派になって、私としては少し寂しいですが……たくさんの事を見て、知って、そして無事に帰ってきて下さいね」
「うん、大丈夫。ちゃんと、戻ってくるよ」
私の帰る場所は、ここだもの。
依頼の受注手続きをした後、いつも着ているワンピースから胸当ての軽防具を着させてもらい、出発する支度を整える。
「準備は良いな、リア」
「ルッ!」
「お二人とも、ご武運を」
冒険者の佇まいに変わったグレンが、ギルドの外へと向かう。私も彼の後ろに続き、ギルドから踏み出した。
◆◇◆
ギルドの扉が、静かに閉じた。グレンとリアの姿が見えなくなり、セリーナは静かに吐息をこぼす。
「――ふふ、リアちゃん、グレンの依頼によく着いていくようになったわね」
「きゃッ?! ダ、ダーナさん」
受付カウンターの傍らに、美しい緑の高位精霊が佇んでいた。柔らかい波を刻む茶色の髪と、たおやか身体を包む深緑色の衣装を揺らす彼女は、その美貌に慈しみを湛え微笑んでいる。「きっと、自分の進む道を探して、見つけ始めたんだわ」優しさに満ちたダーナの美しい声は、セリーナの胸にも響いた。
「そう、ですね。きっと。無邪気で、まだちょっと幼いけど、リアさんも何か決めたんですよね」
「寂しい?」
ダーナの問いかけに、セリーナは首を振った。
「それ以上に、とても誇らしいです」
ふと過ぎるのは、一年前の、雛の姿。灰色のふわふわな羽毛に包まれていた、あの小さな姿は、今はもう純白の羽根を持つ美しい成鳥になった。
本当に、なんて眩しい事か。
「そういえば……グレンとリアちゃんの事、詩にしたいなんて人が居たみたいね」
「ええ」
複雑な気分ではあるけれど、今まで詩にならなかった方が不思議なのだろう。冒険者と獰猛なハーピー……物語の題材として、申し分ない。
ただ、聴衆が信じるかどうかは、また別の話だ。
古い時代から、人と魔物は争い続け、今でもその歴史はなんら変わっていない。契約による隷属でしか結びつかない両者が、本当の意味で対等にあって手を取り合うなんて――作り話か、あるいは笑い話かと言われる可能性の方が大きい。
それでも、不思議な事に――。
「何か、変わるかもしれない。そんな予感がしますね」
古い時代から続く、この関係が、何処かで。
あの二人を見ていると、そう願わずにいられないのだ。
セリーナは凜とした面持ちを、静かに緩める。そんな夢のような日がこれからも在るようにと祈り、気持ちを切り替えギルドの業務に臨んだ。
◆◇◆
「――なあ、リア」
「ル?」
住人や旅人などが出入りする、町の正門へ差し掛かった時だった。
グレンが不意に静かな声音で話しかけてきた。
「前にも言ったと思うけど、お前は別に、ここに居るだけでも良いんだぞ」
戦闘が避けられない依頼にわざわざ同行せず、町やギルドでゆっくりと過ごす。それでも全然構わないのだと、彼は告げた。私は少し頬を膨らませ、彼の瞳を見つめる。
「自由にしていいって言ったのはグレンじゃない。私は、自分の好きなようにしてるだけだよ」
「それは、まあ、そうだけど……」
分かってる。グレンが私にそう言うのは、迷惑だからではない。ただきっと、心配しているだけなのだ。
まったくもう、私はとっくに灰色の雛じゃないのに。
それがきっと、彼の良いところなのだろう。魔物を倒す冒険者、その中でも二番目の実力を持つ上級資格。まったく驕らず、まったく飾らず、私をこの町に連れ帰ったあの日のまま。
そういう彼であるから、手伝っていかなければと思う。
中級から上級になったって、グレンはグレンなのだから、いざという時は助けられるよう近くに居ないと。
グレンは、ほら、心配させる人だから。
「それにね、前にも言ったでしょ。私は、たくさん知りたいの。人間の事も、暮らしも、世界も」
簡単には投げ出せないくらいに大切なものが、ここでたくさん出来た。その中で、私は、私のやりたい事を見つけたのだ。
お母様や姉妹たちだって、きっと、褒めてくれるだろう。女王の二番目の娘として、とても立派だと。
グレンはしばらく目を見開いていたが、やがて力を抜くように、ふっと呼気をこぼした。
「……そうだな。お前がやりたい事、だもんな」
「ルウ、そうだよ」
迷いが晴れたような、すっきりした笑顔が浮かぶ。初めて出会った時と同じ、お日様みたいな明るい仕草。私もそれに釣られて、満面の笑みを浮かべる。
「うしッ! 行くとすっか。今日も一日、頑張ろう!」
「おー!」
正門を潜り抜け、風が吹く草原へと駆け出す。大きく広げた白い翼を羽ばたかせ、青空へ舞い上がる私を、グレンは笑いながら見上げている。
さあ、今回はどんな“冒険”になるだろう。
きっと今日も、灰色のハーピーの時にはなかった、新しいものと出会えるはずだ。
期待で胸を弾ませながら、グレンを急かした。
- Fin. -
【灰色のハーピー】はこれにて完結となります!
ベタな王道系の異種間交流話でしたが、楽しんで頂けましたら光栄です。
グレンとリアの関係が、世界のどこかで語られたとして、それで何かがいきなり“変わる”事はないでしょうが――人と魔物の間に成り立つ愛情とか友情とか、二人がいる事で証明して欲しいですね。
ベタですが、やっぱりこういう話は書いてて楽しいですね!
手に取って読んで下さった方々、本当にありがとうございました。この物語が、皆様の心の本棚の片隅にあれば光栄です。
そしてあわよくば、人外ものが楽しくなってしまったり、「あれなんかモンスター娘もイケるわ……」となりますように。
人外ものは、色んな可能性があって、実によいぞ!
◆◇◆
【獣人とは獣耳のイケメンではなく、フル毛皮の獣頭であってこそ】を信条としている私ですが、モンスター娘とかわりと嫌いじゃない事が判明しました……。
むしろ、モンスター娘いいよね? 可愛くない? 私、全っ然イケる!
どうやら私の【人外好き】は、かなり細分化されている模様……。自分自身を解き明かし、性癖を煮詰めながら、これからも創作活動に勤しんでまいります。
◆◇◆
イメージイラストを描いて下さった、ウルトラレアな素敵な読者様がいます。
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