森の散歩
ここは、八咫鏡の中。この中には蔵の中のような薄暗く不気味な空間が広がっている。この空間でシオン一行は、鏡の中に引き入れた深海和尚に与えられた修行を各々で行っていた。
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ここは鏡の中に広がる森。どうやら鏡の中の空間は屋内だけではないようだ。このひときわ広い森の中にタマと呼ばれている白猫、もとい白虎とそれを連れて歩いているトウラがいた。
「それにしても、行けども行けども何もねぇな」
トウラはそういう独り言をもらしながら、さっきからずっと森の中をさまよっている。この日、深海和尚からただ散歩をしろと命じられただけなのに……。だからこそこれは本当に修行なのだろうかと彼は思った。
「何で俺がこんなことをさせなければいけねぇんだ? あのジィさんは何のつもりだ」
と、文句を呟くが、それが修行の一環なのだから仕方なくトウラは散歩を続ける。
「なあ? タマ」
「にゃー?」
トウラは、一応タマに聞いてみる。勿論、返事は「にゃー」しか帰ってこない。
「でも、あのジィさんは3時間で帰って来いと言ってたな? どういうつもりだ?」
トウラは、深海和尚がなぜ3時間の散歩を命じたのか、理由が分からなかった。
そのためか、ずっと険しい顔をして歩いている。
「よし、もうそろそろ引き返すか」
時計は持っていたトウラが時間を確認し、元いた建物まで引き返そうとしたが、ここで肝心なことに気づいた。
「やべぇ! 来た道が分かんねぇ!」
トウラはそう言って頭を抱えて、その場で暴れまわった。
「ああああああああ! 終わったああああああ! もうだめだ! ここで死ぬのか!?」
そして、その場にうずくまる。もう2度と戻れない。ここで死ぬかもしれないという不安が彼を襲った。だが、トウラには移動魔法という特技がある。
「ジィさんは使えないと言っていたが……」
「Movement!」
トウラは拳を上に突き出し、呪文を唱えた。が、辺りには変わらず静寂の森が広がるだけだ。
「本当に使えないとは……」
深海和尚が言った通り、魔法は使えない。ならば、帰る方法はこれしかない。
「自力で帰るか、まあそのうち見えてくるだろう」
トウラは自分の力で来た道を帰ることにした。
「でもあまり覚えてないんだよな」
とはいえ、トウラは周りの景色なんか見ていないため、目印を探して戻るのは不可能に近いが、彼はやってみることにした。
でも、周りの景色に注意をせずに来たトウラにとっては死ぬほど神経をすり減らす作業だ。だが、トウラは周りの景色を頼りにひたすら歩き続けた。
「もう3時間だ。結局たどり着けないのかよ。くそー!」
トウラの不安は強くなるが、そのうち見えるだろうと信じていたが、時間に遅れそうなため焦ってもいた。すると次の瞬間、彼の目には予想のしなかったものが飛び込んでくる。
「あれは? ……あの建物は……!? だあああああぁぁぁぁぁ! うおっしゃああああああぁぁぁぁぁぁ!」
トウラの心を満たすのは不安から歓喜と安心に変わり、言葉にならない歓喜の声をあげながら残りの距離を走っていく。
「ただいま!」
「おう、無事戻れたようじゃな?」
「いや、途中ダメかと思ったぜ。でも、この通りだ!」
迎えに来た深海和尚に対して、トウラは全身で喜びをあらわにする。
「ささ、中へ入るのじゃ」
うれしいトウラは中に入って中間へ自身の生還を報告する。
「おう! 帰ってきたぜ!」
「「「「 お帰り! 」」」」
と、トウラにあいさつした。そこへ、シェロが出てきてトウラにこう質問した。
「どうしたのよ? やけにテンション高いわね」
「いやあ、遭難するかと思ったぜ。そうしたらこの建物が見えてきて助かったぜ!」
「お前、うるさいぞ」
と、大きな声で感想を述べるトウラに対してノアは少し呆れたようにトウラの声の大きさを注意した。
こちらの執筆は KAZUさん が担当しました。
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