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ファンタジック・アイロニー[現在停滞中]  作者: なぎコミュニティー
第二幕・外伝
89/129

決別



「ぐっ!」

「カーボベル!」


 刀の白い閃光が煌く。次の瞬間、カーボベルは床に叩きつけられた。

 乗員達が避難し、艦内の実際の戦力はたった二人になったとはいえ戦艦は要塞として充分な威力を発揮していた。甲板に上がるための橋は落とされ、外から侵入するには空を飛ぶか船体をよじ登らなければならず、実際にこの段階で艦内に侵入できていたのは結局ケイキとジュリエットだけだった。


「この……」


 リシュリューが腕を振り上げる。すると、どこからともなく大きい暗褐色の不透明な腕が彼女の腕を包むように現れ、彼女自身の腕の動きにリンクして豪腕を振るった。

 が、ケイキに届く前に巨大な鱗に防がれる。ジュリエットの愛蛇だ。


「蚊帳の外は嫌ですわ」

「くっ……!」


 しゅるしゅると蛇がリシュリューを囲うようにその長い胴体をくねらせる。


「この子は私が」

「頼もしいね」


 リシュリューが蛇と女を睨みつける。おお、こわいこわいとジュリエットはおどけて見せた。

 銃声。立て続けに何発もの銃弾が吐き出される。が今度はケイキは素早く得物を振り、ことごとくそれを叩き落としてしまう。


「チッ……!」

「わかっただろう? 銃は剣より強し、なんて言うけどね、銃だろうと剣だろうと結局は使う者次第なんだよ」


 ケイキが余裕しゃくしゃく、といった様子で刀身を眺める。


「まぁいいか。別に我々は君らを殺しに来たわけじゃない。そこのお嬢さんに一緒に来てもらいたくてね」

「……ことわるッ!」


 リシュリューが勢いよく手を合わせる。すると先程まで大蛇と激しい打ち合いを演じた巨人の腕が姿を消し、代わりに彼女の周囲を淡い光が包み始めた。


「気をつけろ、何か来る」

「見ればわかりますわ」


 ケイキが忠告するのと同時にジュリエットの痩身を大蛇が包む。


「Give me the(東の地) nine souls(の大霊) of(よ、) the east wo(九つの)rld, all n(力を私)ine of the(に貸せ。)m. ……九魂大霊『クズリュウ』!『憑依』!」


 詠唱の終了と同時に光が突然質量を持ち、部屋に溢れた。元よりあまり広くない部屋だっただけにテーブルや椅子、本棚、カーボベルさえも飲みこみさながら津波のように室内を覆った。


「ッ!」


 しかし肝心のケイキやジュリエットは間一髪のところで離脱し、光に飲み込まれることはなかった。


「なんだいこれは? ただの質量兵器か?」

「さぁ? でも私たちじゃなくて味方を飲み込んでいては元も子もないですわね」


 天井に捕まりながらそういう二人の眼下でリシュリューは光の洪水に溺れていた。中心で目を閉じ、息苦しそうに顔をしかめている。



 ──カーボベル、カーボベルッ!

 ──聞こえてる。全く──無茶しやがって



 しかしその光の中では別の会話が起こっていた。光の中に呑まれた者同士による念話──リシュリューの目的は始めからこれだった。カーボベルも瞬時にそれを察し、それゆえ光の波をかわさなかったのだ。



 ──おもってたよりやつらつよいっすよ。このままだとさいあくのじょうきょうに──

 ──わかってる。だがお前を奴らにやるわけにもいかん。そこで、だ。ちょっとこれから言う通りに動いてもらいたい

 ──お、さくせんあるんすね?さすがカーボベル

 ──奴らを戦艦(こいつ)ごと吹っ飛ばす。お前は乗員と外の連中を安全な場所にやってほしい。

 ──は?



 光の中心でリシュリューの顔が更に歪む。光の水位が大きく下がった。



 ──おい、水位下がったぞ

 ──しょうきっすか?

 ──あいつにさんざん斬りつけられながら考えたがこれしかない。弾薬は処理済みだが、機関はまだだ。こいつをオーバーヒートさせる

 ──カーボベルは

 ──何いらん心配してる。俺は英雄なんてガラじゃねぇよ。わかったらやるぞ!



 光が消えた。同時に目を開いたリシュリューとカーボベルが立ち上がり、脱兎の如く部屋を出ていった。


「逃げるか」

「罠では?」

「だろうね」


 そう言いつつ二人は手を離し、光が引いた(・・・)床に降り立つとそのまま先に出ていった二人を追う。

 部屋を出ると廊下でそれぞれ反対方向に走るリシュリューとカーボベルの姿が見えた。


「どっちを?」

「勿論目標の方だ。おっさんは後で処理する」


 が、ケイキがそう言った瞬間カーボベルの方からテニスボール大の何かが飛来し、リシュリューが走っていった方向の天井を直撃。穴を穿ち、真上の部屋のがれきが降り注ぎ道を塞いでしまった。


「自分で言うのはいいが他人におっさん呼ばわりされるのは気に喰わんよな」

「チッ……バジリスク!」


 ジュリエットが苦し紛れに蛇をがれきの隙間から進入させ、リシュリューを追った。改めて敵と向き合うと、カーボベルは両手でかかってこいよ、と挑発してみせた。


「……先におっさんをやろう」

「ええ。そうしましょう」


 三人は同時に走り出した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「くっ……そ!」


 カーボベルと別れた後、リシュリューは廊下を疾走しながら悪態をついた。カーボベルが囮を名乗り出たが結局蛇がついてくる。


My old(焔よ、我ら) friend, I(の古い友) would like(人よ。私は化) to talk to(身ではなく) you, not y(あなたと話)our agent.(がしたい。)……善火神『オルムズド』!『憑依』!」


 リシュリューの腕から炎がうねり、追ってくる蛇を飲みこみその鱗を焼く。


「うっ……ううぅ……」


 それでも蛇は身を焼かれながらも前進してくる。リシュリューは火力を最大まで上げ、呻きながら炎を送り続ける。


「ぐっ……あっ!」


 限界が見えた一瞬、やっと蛇が止まった。


「ふぅ……こんなのをポンポンよびだすなんて……やっぱてんせいしゃっておそろしいっすね……」

「リ、リシュリューさん!」

「うん?」


 振り替えると二人の乗員が物陰からリシュリューを手招きしている。


「居住スペースに逃げたんじゃなかったっすか?」

「それが……結局みんな間に合わなくて」

「えっ」

「とりあえず後部甲板に集めたんですが囲まれてしまって……」


 そう言って乗員が窓から外を指す、見ると確かに後部甲板のクレーンの下に集団が見える。


「……ついてるぅ~ッ」

「え?」


 リシュリューが立ち上がり、後部甲板へ走り出した。


「ちょ、ちょっとリシュリューさん!?」

「ついてきて! こうぶかんぱんからそとへにげるっす! じきにこのふねはもうだめになる! そのまえにはやく!」


 リシュリューの勢いにおされ、二人の乗員はわけもわからぬまま先を走る幼女の後に続いた。


「みんなぶじっすか!?」


 後部甲板に到着するなりリシュリューは声を張り上げた。

 突然のリシュリューの登場に甲板の乗員達は驚きと安堵の入り交じった顔をした。


「じょうきょうは」

「回りが囲まれてしまって……もう逃げ道がありません」


 リシュリューの問いかけにかつてシオンの隣で天気予報を行った乗員が答える。報告を受けたリシュリューが甲板から身を乗り出して見ると確かに結構な人数が周囲に群がっている。しかし。


「どうにもならないにんずうではないっすね」


 独り言を呟く。


「およげないものは」

「いません」

「よし、みちをひらくっす。それができたらみんなむこうぎしまでおよぐこと! とまったらだめっすよ」


 リシュリューの説明に乗員らはぽかんと口を開けていた。


「そ……それはどういう」

「だから! ……あー、ええと、うーん……」


 リシュリューが口ごもると艦橋の上の方で爆発が起こった。


「どこまでやってんすかカーボベルッ……! と、とにかく、このふねをすてるっす! もったいないけど、みんなのいのちがさいゆうせんっす! だからいうことをきいて! おねがい!」


 突然の懇願に乗員らはついに覚悟を決めた。それを見たリシュリューの詠唱が始まる。


The giant,(巨人よ、ま) you can st(だ暴れ足り)ill dance.(ないだろう。) Please tel(私の前で武)l me your(勇伝を再現) story agai(してみせろ)n. ……伝承巨人兵『ゴリアテ』、『憑依』!」


 叫ぶと先程ジュリエットに振るった暗褐色の巨腕が今度は二本現れた。


「きずつけずにっていうのもむずかしいっすね……」


 そのまま間髪入れずに眼下の人混みに両腕を突っ込む。そしてその腕で水を掻き分けるように人を退け、人のいないスペースを作り上げた。


「いまっす!」

「いくぞ!」


 男の声が上がったかと思うと乗員らは次々に湖へ飛び込んでいく。そのまま各々の泳ぎ方で対岸を目指し始めた。


「あとでぜったいむかえにいくっす! がんばれ!」


 なおも乗員らを追おうとする者達はリシュリューの豪腕に捕まれ放られる。やがて乗員らは遠退き、彼らを追う者もいなくなった。


「……まぁもくてきは私だしとうぜんっすか」


 豪腕が高く振り上げられる。しかし今度は彼らを戦艦から離さなければならない。どうするのが最も確実か。

 と、その時リシュリューは自分が日陰にいることに気付いた。反射的に振りかえる。


「えっ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うおおっ!?」


 頭上の柱が割れた。いや斬れた。頭上から降り注ぐがれきをかわしながらカーボベルは走っていた。


「存外速いですわね……」

「まぁ一応つい最近まで現役軍人だった男だ。そこらへんのおっさんとはわけが違うでしょ」


 やや息をきらしながら走るカーボベルに対し、ジュリエットとケイキは跳躍を繰り返すようにして涼しい顔でついてくる。


「チックショ……反則だろそれぇ!」


 カーボベルはそう言いつつも右足を軸に素早く反転し、マシンガンを向けると撃鉄を落とす。瞬時に両者の間に弾幕が現れ、ケイキらの足を止める。


「あぁもう鬱陶しい!」


 しかしこの二人に弾丸は効果が無いことはすでに実証済みだ。案の定ジュリエットに寄り添う大蛇が割って入り弾幕を防ぐ。


「……ん?」


 しかし大蛇がその巨体をどけてみると目の前からカーボベルの姿が消えていた。


「……おやぁ? 見失った?」


 ケイキの猫なで声がジュリエットの精神を逆撫でする。にやにやと笑うケイキの顔を見ながら不愉快そうに顔を歪めて見せた。


「まぁそう焦るものじゃない。相手はプロなんだ。変なことを考えると余計絡めとられるよ」


 そう言ってケイキが長刀を抜く。


「奴は……」


 一閃。金属が激しく触れ合う音がしたかと思うとケイキの足元に切断された弾丸が転がった。


「ゲリラ戦に持ち込みたいんだ」


 物陰から舌打ちする音が聞こえる。攻撃が見切られただけでなく、こちらの狙いまで看破されてしまった。ケイキという男、ふざけた態度の割には戦士としてかなりの実力を持っているようである。


「おっと舌打ちが聞こえたね。図星だったわけだ」


 また一閃。弾丸が転がった。


「やめておいた方がいい。限りある資源を無駄にはできないだろう?」

「なんですのそのセンスの欠片もない台詞」

「あんまりだな」


 すると今度は舌打ちの代わりに靴が金属を打つ音が聞こえた。短い感覚で次第に小さくなっていく。


「場所を変えるつもりだな……?」

「わざわざ付き合うこともないのでは?」

「そうもいかない。流石に背中を見せるわけにはいかないよ。色んな意味で、ね」


 そう言ってケイキは音のした方に向け走り出す。


「さぁ一気に終わらせよう!」


 ケイキが叫ぶと物陰からカーボベルが姿をを見せる。突きだした手には拳銃が握られている。


「終わらねぇよ」


 撃鉄が落ちる。銃口の向きから自らに直撃はしないと判断していたケイキは無視して前に出る。


「そこか!」


 刀を振るう。重厚な機械が切断され、機械の後ろからカーボベルが姿を現す。

 しかし彼の顔より早く姿を現したのはソフトボール大の大穴だった。


「うっ!?」

「吹っ飛べ!」


 大穴(無反動砲)が火を吹く。間一髪のところでケイキは身を反らしてかわし、その勢いのまま両手で切り上げる。

 対してカーボベルは胸のベストから素早くナイフを抜き刀をいなした。


「吹っ飛べって言ったろ」

「それはまた今度にしてくれないかい?」


 ナイフと刀が打ち合う音が断続的に響く。そもそものモノの重さを考えればナイフの方が手数で分があるはずだが、ケイキはその差を転生者の身体能力で強引に埋め、ナイフと互角の手数で打ち合っている。


「バケモノかよッ……」

人間(・・)さ」


 その時、カーボベルの視界の隅にジュリエットが映りこむ。


「くそ、蛇女まで……」

「失礼ですわね」


 カーボベルの死角から巨大な牙が現れた。ちらと目をやると大きな口が見える。ジュリエットの大蛇だ。今、自分は三方を敵に囲まれているようだ。


「くっ……」


 一か八か、カーボベルは頭を動かし牙をかわした後、強引に刀をすりあげると脚の力を一気に抜いた。糸が切れた操り人形のようにその場にへたりこむ──ように見えたがちょうどしゃがみの体勢になった瞬間に手足に力を入れ踏ん張るとヒップホップのように腕を起点に足ばらいを放った。

 脚はケイキの足を捉え、侍が宙を舞う。カーボベルを挟むようにして向き合っていた大蛇と衝突し両者ともにバランスを崩した。


「うっ!?」

「おっさん割と若い子のトレンドにも詳しいんだよね」


 倒れたケイキに素早くのしかかり手足を拘束すると首筋にナイフを当て叫ぶ。


「おぉーっと! そこまでだ蛇女! もちろんそこの蛇もだぞ! これ以上動くようなら゛っ」


 口上の途中で今度はカーボベルが宙を舞った。大蛇の尻尾がゆらゆらと揺れており、たった今一人のおっさんをはじきとばした、ということを無言で誇っているかのようだった。


「貸し三つ、ですわね」

「あぁ悪かったよ」


 差し伸べられた手を取り、やっとケイキが忌々しげな声を上げる。蛇が尻尾を振りぬいた方を見やるとわざとらしく開いた扉が目に入った。おそらくカーボベルはこの部屋に押し込まれたのだろうが、あまりにもわざとらしい扉にこれすらも彼の策かと疑ってしまう。


「お行き」


 ジュリエットが部屋を指差すと大蛇がすぐに部屋の中へ入って行く。


「ちょっと待てぇ!」


 案の定部屋の中からカーボベルの声。蛇の動きが止まり、静寂が訪れる。ジュリエットは無視して始末しろ、と蛇に迫るが蛇は動こうとしない。


「……もう! 何を躊躇っているの!?」


 ジュリエットとケイキが蛇を乗り越え部屋に入る。


「おっと……」


 そして声を漏らす。

 部屋の中は機関室に繋がっていた。その一番奥にカーボベルはいた。もはや立っておらず壁に肩をもたれかけるようにして座っていた。左腕は力なく垂れ、肩で息をしている。しかし片方の腕──右腕が問題だった。


「一緒に吹っ飛ぶか? お前さっきまた今度って言ったよな。その‘今度’が来たぞ」


 満身創痍のカーボベル、その右腕は大きなパイプに取り付けられたレバーにかけられていた。


「こいつを下げれば機関がドカン、だ。もともとゲリラ戦で勝てるとは思ってねぇ。始めからこのための時間稼ぎだったんだ。おかげ様で機関はもうアッツアツだぜ」

「ふむ……一杯食わされたってわけかい……」

「残念だったな」


 自身たっぷりに言う。カーボベル──と、ケイキが。


「何?」


 先にカーボベルが反応する。顔を上げ、困惑したような表情を浮かべた。彼の前に並び立った転生者らは一つの水晶を取り出しカーボベルの前に転がす。革製のブーツに当たって動きを止めたそれは静止するとホログラムのような映像を映し出した。


「なっ……!」


 そこには、蛇に締め上げられ力なく吊るされた少女の姿があった──リシュリューだ。


「ちょっと遅かったねぇ。これは今まさに後部甲板で起こっていることだ。そのレバーを下げれば我々諸共、彼女も死ぬ」

「くっ……!」

「うちの()達が一人だけだなんて思わないことですわ」

「さ、そのレバーから手を下ろすんだ。まだ右腕は折れてないだろう?」


 カーボベルが水晶の映像とケイキの顔とを交互に見る。

 手を下ろすだって? 冗談じゃない。このままレバーを下ろせば確かにリシュリューはここの三人の道連れになる。だがしかし手を下ろせばリシュリューは連れて行かれる。どの道最悪な結末しか待っていない。

 ──だったら──

 リシュリューだってまだ子どもだとはいえ、戦いに殉じる覚悟を持つカサエル軍人だ。あいつなら迷わずレバーを下ろすだろうか。


「さぁ! 早く手を──」

「許せリシュリューっ!」


 カーボベルが腕に力を入れる。レバーに圧がかかり動き始める──

 その瞬間、部屋の照明が落ちた。


「うわっ!?」


 突然の停電に驚き手が止まる。

 突然ズガン、という爆発音が鳴り響いた。一瞬置いてそれが銃声だと理解する。


「な……何が」

Light(照らせ)


 ケイキの極短詠唱。彼の指先に淡い光が灯った。


「……何のつもりだい?」

「……!」


 ケイキの背後に誰かが立っている。ジュリエットではない。明らかに男の肩幅だ。

 ケイキが指を一振りすると指先の光が天井に跳び、室内の新しい照明になった。


「お前……!」


 ケイキの背後には黒ずんだ鎧に薄汚れた外套を纏った男が立っていた。両手を上げるケイキの後頭部に銃を突きつけ、もう一つの手には煙を吐いている銃を握っている。その背後では頭を撃ちぬかれ絶命している大蛇に覆いかぶさるようにしてジュリエットが気絶していた。


「よう。もう電話をかけ直してもらわなくて結構だぞ」


 マキナが冷たい目で答える。その視線には明確な‘敵意’が感じ取れた。


「そんなに怒らなくてもいいじゃないか……ちょっと忙しいから後にしてくれって言っただけだよ?」

「コロブチカが全部話してくれたぞ」

「誰だいそりゃ──」

「とぼけんなこの野郎」


 銃口が坊主頭に強く押しあてられる。


「わかった、わかったよ! ちょっと落ち着けって」

「あいつは同志ジュリエットとケイキがラ・カサエルの二人を襲っていると言った。つまりここにアンタが居なければ奴は嘘をついていたことになる……これだけは嘘であって欲しかったッ!」


 マキナはケイキの肩を掴み乱暴に振り向かせるといきなり頬に一撃を叩き込んだ。


「痛って……」

「アンタがここにいることが何よりの裏切りだ! 俺は……ずっとアンタを友達だと思ってたのに!」


 また拳が振るわれる。が、ケイキはそれを受け止める。


「亜人が……調子に乗るなッ!」


 今度はケイキの拳がマキナの顔面に直撃する。そのまま倒れたマキナに馬乗りになり、何発も拳を叩き込む。


「友達!? 結構だ私はまだ君を友達だと思っている! だけどこんな一方的に裏切り者だなんだと言われ殴られればいくら私でも怒るぞ!」

「うるっ……せっ、おこ……れ、よクソ野郎! おま……えは!」


 何度も何度も殴られながらもマキナは黙らない。ケイキの表情が怒りに歪む。


「この……!」

「そこまでだ!」


 またケイキの後頭部に銃口が押し当てられる。いつの間にかカーボベルが立ち上がり右手で銃を握っていた。


「はぁ……はぁ、マキナを離せ」

「……リシュリューがどうなってもいいのか」

「ぬか、せ」


 マキナがそう言うと、水晶の映像が大きく変わった。リシュリューを拘束していた蛇が突如飛来した飛竜に食いつかれ、リシュリューそっちのけで悶え始めた。


(カルナ)が……蛇、に、負け……るか」

「……! チッ!」


 次の瞬間、室内が眩い光に包まれた。


「ッ!」

閃光手榴弾(スタングレネード)ッ……!?」


 閃光に目をやられた二人が視界を取り戻すとケイキとジュリエットは大蛇と一緒に居なくなっていた。水晶に目をやると、後部甲板の蛇も消えている。もちろんリシュリューも無事だ。


「……」


 鼻血を流しながら天井を仰ぎ見るマキナの顔をカーボベルが覗き込む。


「……すまん」

「何故……謝る、ん、です」

「いや……あー、うん、その……なんだ、いや、ここはありがとう、か」


 カーボベルが差し伸べた手を取りマキナが立ち上がる。


「貸し……一、です、よ」

「軽口を言う元気はあるな」


 カーボベルの言葉にマキナは力なく笑い返す。しかし目は笑っていない。


「……一人にした方がいいか?」

「いや……まだ、です。乗員達、は? 回収班を……連れてきています。乗員ら、と外で伸びてる連中を、一旦、ピークで回収しようと思うのですが」

「いたれりつくせりだな……助かるよ。そうしてくれ」


 水晶に飛行艇が水上着陸する様子が映った。


「なぁ……マキナ」

「何でしょう?」

「ありがとうな。助けてくれて」

「……気になさらないでください」


 いつものぶっきらぼうさでマキナが返す。今度は顔を見せてくれず、どんな表情をしているかはわからなかった。



 ──これまでの友と戦い、屈辱的な同盟を結ばなければならん。



「……なんでそういう予言だけは当てるんだよ……」


 その独り言に気付いた者はいなかった。




ここまでの執筆者は ラケットコワスター さんでした!

https://kakuyomu.jp/users/chinishihefuchi カクヨムにて、現代ミリタリー小説『DARKHERO』を公開している他、pixiv や ハーメルンでも活動中。 これを機に是非ご覧ください!


そして、この更新をもって「マキナ編」は終了となります! ロケットコワスターさん、ここまでの執筆お疲れ様でした!

次回からは待望の第3幕なのですが、そちらの更新は8月に入ってから開始の予定です。詳しい日程は次週、活動報告にてお知らせしますので、今しばらくお待ちください(__)

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