スペードキングダムへ
遂にヒマリたちは、デカフォニック渓谷と隠者の森を、無事とはいえないが越える事が出来た。道は平坦になり、行商人や冒険者などの往来も増えてきた。
「やっと越えたわね。後は、暫く平坦な道が続くだけね」
「イザベラさんから渡されたリリィさんへのプレゼント、落としてませんよね?」
「うん、もちろん!」
ヒマリは、イザベラから預かったサファイアのブローチをスカートのポケットから取り出す。青に輝くブローチだが、少し色がくすんで見えるのは気のせいだろうか。
「ちょっとブローチの力を使ってしまったみたいね、ヒマリ」
「どういうことなの?」
「これは、サファイアで作られたブリーチだけど、宝石には魔法がこめられているの。イザベラは何も言ってなかったけど、サファイアは、氷や水の贈り物への耐久性をあげるものよ」
シフォンは、サファイアのブローチを見つめ、少し反省しているようだ。
「でも、シフォンのせいではないわよ。サファイアのブローチの力を使わなくちゃいけなくなったのは、グレイシアのせいだから」
「でも……」
「そんな事気にしないで! リリィちゃんに伝えれば良いことだから。――ところで、シフォンはスペードキングダム出身なんだよね?」
「そうですけど……」
ヒマリは、悪戯をしそうな子供のような表情を浮かべ、シフォンに聞く。
「リリィちゃんって、どんな子?」
シフォンは、ヒマリの問いかけに困るが、知っていることだけを言うことにした。
「リリィさんは、スペードキングダムでマッチを売って生計を立てている、ヒマリちゃんと年の近い女の子です。髪は淡い茶色で、下の方で三つ編みをしていて、目は琥珀色の少女だったと思います。服装は、赤のエプロンドレスだったと思います……」
「マッチ売りの少女って感じだね」
ここまで情報があればすぐに探せる。ヒマリとハートは、シフォンと共にスペードキングダムの入り口の前の広場に立つ。大きな噴水が目につく。
そこには、平凡な――ヒマリにとっては馴染みある日常が流れていた。
ここまでは 鈴鹿歌音 さんが担当しました。 https://talkmaker.com/author/clanon213/
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